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???と放課後を・・・ 2

 「いやー、まさか千宮寺さんが僕の母さんを信仰されているとは驚きですね。確かに裏では(すみか)教徒なる者達がいるとは聞いたことがありましたが実際に見るのは始めてです・・・しかし、理想を否定して悪いのですが母さんに世界の覇者になって貰うのは無理だと思いますよ。そもそも”誰もが逆らう事すら躊躇う程の力持った存在”をどうやって思い通りにしますか?」


 「いやいや、私程度の者が、神を思い通りにしようなどとは滅相もない。ただそうなるように誘導出来ないかと小物ながらに考えている次第です。その一つが今、ここでこうしている事になりますね」


 両肘をテーブルについて覗き込むように筵の顔色を伺う新羅。


 「なるほど、でも、もしも、万が一、億が一それが失敗したら、次はどうするんですか?自分自身が巨悪となって、誰もが英雄を渇望する状況を作り、表舞台に引き摺り出しますか?」


 筵の問に少しだけ驚き、数秒間、間を開けた新羅は笑いながら首を傾げる。


 「ははは、おかしいですね。それは秘密の筈だったんですがどうしてバレているのでしょうか?」


 「ただの感ですよ。でも、もしもその作戦が成功したら、貴方は確実に死ぬ事になりますよ。そこまでして世界を引っくり返す意味などありますか?貴方にも大切に思う人はいるでしょう?」

 

 「ええ、居ない事も無いです。しかし、それらや自分の命を投げ出してでも、叶えなければならない理想というものがあります。理想の世界の実現の為なら、私は喜んでこの命を差し出しましょう」


 「そうやって作られた理想の世界に自分は居ないとしてもですか?」


 「ええ、もちろん」


 新羅は信念を持った真剣な顔つきで筵を見つめる。


 その後、数秒間の沈黙があり、その間、腕組をしながら考えた筵は遂に口を開く。


 「分かりませんね。貴方は人々は皆、安定を求めていると言った。それには僕も賛同しますが、安定を求めている人にとって自分自身の死とは世界の滅亡と同義であり、安定とは真逆に位置しているはずです。命を理想の為の掛け金にするのならまだ理解できますが、貴方は贄にしようとしている。それも、この世界に一つしかない自分の命をです。僕には少し、その辺りが理解し難いですね」


 「ははは、確かにそうですね。矛盾しているかもしれません。何分、出来た人間ではないので、主張に一貫性が無い。・・・しかし、もしかしたら人の心とは、複雑に絡み合い元より矛盾仕切っているものなのかも知れませんね」


 頭の後ろに手を持っていき後頭部を軽くさすりながら畏まったように語る新羅。


 筵もそのテロリストのリーダーとは思えない挙動の数々に慣れてきていて、その新羅らしいと言える言動に対して、小さく笑う。


 「ふふ、相容れませんね。僕達は・・・。僕は大切な子達と今の平穏な日々を守る為なら、世界なんて余裕で投げ出してしまいますよ。例えば、世界から自分の大切な人以外が全員消たとしても、僕は出来れば今まで通り、あの場所で平常授業に勤しみたいと思います」


 そこまで話すと、筵は自分の前にある残りわずかとなったコーヒーを一気に飲み干し、その後、続きを話し始める。


 「ですから、千宮寺さんが世界をどうしようと僕には関係の無いことです。それに僕がどうこうしなくても、きっとあなたの計画の前には”彼”が立ちはだかる筈です」


 「彼?・・・ああ、あの学園の。しかし、お言葉ですが彼では少し力不足かと・・・」


 「まあ、今はそうでしょうね。でも”正義は必ず勝ち、悪はいつか滅び、諦めなければ奇跡は起きて、愛が世界を救う”。彼の前ではそんな綺麗事が(まか)り通る。それも、運命の方から喜んで道を開ける始末です。だからこころして待っているといいですよ」


 筵は不敵に笑いながら自分の財布から、コーヒー代を取り出そうとする。


 「ああ、結構ですよ。ここの代金は私が。話を聞いていただいたお礼と言うことで、今日は我らが神のご子息である貴方と話をしたかっただけでしたし、それに忠告も頂きましたのでね」


 新羅は手を前に出し、財布の中を探っている筵の手を止めると伝票をとる。



 その瞬間、カランカランと喫茶店の入口のドアの鈴がうるさいくらいの音を打鳴らし、それと同時に小学生程の見た目の少女が息を切らしながら入店する。



 「新羅!こんな所で何をしているのですか?ああ!まさか、またビラ配りなどしていたのですね。そんなもの一般の信者にやらせればいいでしょう。まったくもう少しリーダーとしての自覚を持ってくださいと、あれほど言っているのに・・・」


 その少女は怒っている様子で新羅の座っている椅子の横に立つ。


 「や、(やしろ)さん・・・ははは。・・・す、すみません」


 「まったく、ほら行きますよ。・・・うちのリーダーが迷惑を掛けましたね、本田筵さん」


 新羅の手を引き、立たせた少女は筵を少しだけ嫌そうな表情で見る。


 その様子を見た新羅は机に向かって前屈みになり、筵に小さい声で耳打ちする。


 「ああ、こちらは結城(やしろ)さんです。・・・社さんは妹さんにボロボロに負けて機嫌が悪いのです」


 「負けてません。引き分けです。ほらほら、今日は教団の教祖共と会議があるのでしょう。さっさと行きますよ。まったく蝶蝶さんと茶川の野郎がいなくなって色々ごちゃごちゃしている時にこのダメリーダーは・・・」


 結城社はそう言うと新羅の手を再び強く引き、連行して行く。


 「で、ではまたどこかで」


 筵に対し相変わらずの低い姿勢でお辞儀した新羅は下の方を指差し、机の上を見るようにジェスチャーをする。


 そこには伝票と共に、いつ出されたのか分からない1000円札が置かれていた。


 そして、再び顔を上げた筵は新羅に、好意も敵意も無いことを示す様に小さく笑いかけた。

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