転校生と・・・ 2
学園に突如転校してきた美少女、矢式凛が様々な人の心に波乱を呼んでいる一方、渦中にいない渦中の人物である筵は呼び出しに応じて、理事長室を訪れていた。
「お身体の具合は大丈夫ですか理事長?」
筵は理事長室に入ると椅子に腰掛け机の上の資料と向き合っている30代から40代ほどに見える厳しそうな女性に問いかける。
一見すると、怪我が残っている様子は見受けられなかったが、一つ一つの動作がどこかを庇っているように少しだけぎこち無く、怪我は完治していない事が分かった。
「ええ、良くも悪くもないですね」
筵のテンプレートの社交辞令に対して理事長も素っ気ない態度で返すと、資料から目を離し筵の方を見る。
「それで僕を呼び出して何のようですか?・・・ああ、もしかして、この前の件の御褒美とかですか?だとしたら結構ですよ。あの時は、敬愛してやまない理事長先生がボコボコにされた事への意趣返しに燃えて、ただ必死だっただけですから」
「はあ、よくもまあ、そんな出任せを堂々と言えますね。それに貴方からの要求を最終的に承認したのは私なんですからね」
「あらら、バレてましたか。・・・でも僕が言ったことの全部が全部、嘘という訳では無いですよ。真意なんて一つとは限りませんからね。80%が報酬を得たいという気持ちから行われた事でも残りの20%は違うかもしれません。嘘なのは”敬愛してやまない”って所くらいです」
「はいはい、そうですね」
何時もの半笑いを崩さずに、悪びれること無く言う筵に対して、理事長側も呆れ半分に返す。
「ははは、僕の対応が上手くなってきましたね〜。いやいや、嘘ですって、理事長の事は嫌いじゃないですよ?・・・でもよく考えてみると、自分が嫌っている人から、好かれる訳が無いと思いませんか?」
「・・・」
筵の問に今度はバツの悪そうな表情をした理事長だったがすぐに立て直し、咳払いを1度すると筵の質問を無視して本題に入る。
「そんな事はどうでもいいのです。今日あなたを呼んだのは、ハーベスト教団の件に関する命令をする為です」
「はあ・・・」
「あと、言っておきますけど、これは私からの命令ではなくもっと上からのものですから」
筵の素っ気ない相槌に対して、理事長は補足を入れ、ほんの少し嬉しそうに笑う。
「まあ、一応聞きますけど、この世の頂点は恐らく、偉大なる我が母上だと思いますよ」
「くっ、・・・こほん、貴方への命令というのはハーベスト教団の能力者幹部のリーダー、千宮寺新羅の・・・」
「はい、お断りします」
筵は理事長の言葉を遮るように言い、理事長がそれに反応するよりも先にその理由を述べ始める。
「単純にしたくないというのもありますが、それを僕がやってしまうのは色々不味いのではないかと思いますね。・・・理事長なのでしたらもう少し学園の様子に目を向けた方がいいですよ・・・と、ついつい恐れ多くも申し上げてしまいたくなる気持ちでいっぱいです」
「思い切り申し上げてるじゃないですか。・・・それに言われなくてもわかっていますよ。それでも、目先の事を優先しなければならない時もあるんです」
少しだけ思い詰めている様子の理事長は筵とは目を合わせずに言う。
その様子から千宮寺新羅という人物を余程、危険視していることが伺えた。
「その人に関してそんな気を張ることはないと思いますよ。きっと最後はあの男が全員の期待に応えてくれるはずです。だって正義は必ず勝つんですからね」
筵は話を黙って聞いている理事長をしりめに話を続ける。
「まあ、そのためのバックアップ程度ならしてもいいですよ。何せこのまま太陽が隠れたままだと、そこら中が日陰だらけになってしまって、日陰者で常に斜めに構えている自分に酔うことも出来ませんからね」
筵がバックアップ程度ならしてもいいと、言ったことに関して少し驚いた表情を浮かべる理事長。
その理事長を何時もの半笑いで見つめ返していた筵は、数秒間の沈黙経て再び口を開く。
「と、言うことで早速、報酬の話に移りましょうか?」
筵はそう言うと軽く首をかしげ、その言葉に硬直してしまっていた理事長は、多くの落胆と少しの安堵を孕んだため息をもらした。




