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転校生と・・・ 1

 暦は11月の後半、普段から私服で登校しているZクラスのメンバーの服も秋服から完全な冬服へと移り変わっていた。


 十数日前のハーベスト教団の事件以降の日室刀牙、ひいては、学友騎士団の強さに対する疑念の声は無くなっておらず、あの事件から今日に至るまで小規模なハーベスト襲撃はあれど、目立ったことも無いため、敵のリーダーに敗北し、おまけに筵に助けられたと言う汚名を返上するチャンスは訪れていなかった。


 しかし、そんな学園の上位カーストの話など気にもせずに今日も今日とて、Zクラスは平常通りのカリキュラムをこなす日々を送っていた。


 だが、普段なら全員席につき、授業に励まなくてはならないこの時間、いくつかの席が空席となっていて教室内には3人の少女が居るのみであった。


 「ああ、そういえば聞いたか?学園に転校生が来るんだってよ」


 鋭い目と歯を持った少女、天喰(あまじき)梨理(りり)は手に持ったシャーペンを雑に投げると、同学年の瓶底メガネを掛けた少女、四ノ宮れん子に声を掛ける。


 「ああ、聞いてる聞いてる。元々この辺に住んでて、何かの都合で海外に言ってたんでしょ?なんでも世界の能力者ランキング100位に入るって聞いたけど」


 「マジか!?と言うかなんか詳しくね?」


 「えっ!?これくらい普通だよ?普通普通」


 れん子は梨理の追求をはぐらかす様に笑い飛ばすと、机の前の教科書に目を落とす。


 「まあまあ、先輩方、転校生が来ようとうち達のZクラスには何の影響も無いですよ。きっと、あるべき所におさまるだけです」


 授業中である事をお構い無しに携帯ゲーム機で遊んでいるボサボサな髪をしたダウナー系の少女、カトリーナ・グレイスフィールドはゲーム機から目を離す事なく話に入っていく。


 因みにZクラスの住人、残り4人のうち、筒崎(つつざき)譜緒流手(フォルテ)鈍空(にびぞら)(ふち)椎名(しいな)湖畔(こはん)の3名はジャンケンの敗北により、担任教師、納屋(なや)蜂鳥(はちどり)の雑務の手伝いをさせられていて、Zクラスの責任者でもある本田(ほんでん)(むしろ)も学園の理事長からの呼び出しを受け不在であった。


 「はあ〜、これは蜂鳥先生を手伝った方がマシだったかもな」


 梨理は大きく伸びをした後、立ち上がりZクラスに新しく置かれた本棚からマンガをいくつか取ると席に戻り読み始める。


 そして、それから少しの間、シャーペンで文字を書く音とゲーム機のボタンの音、本を捲る音だけが静かな空間を微かに賑やかしていたが、数分経った頃、再び梨理が思い出したように口を開く。


 「・・・ちなみに確認なんだけど、その転校生って男、女?」


 「女じゃないですか?根拠は無いですが」


 梨理とカトリーナは共に顔を合わせ、その後おそらく答えを知っているれん子の方を同時に見る。


 「・・・美少女」


 「「ああー」」


 れん子の答えを聞いた梨理とカトリーナはお互いに小さく苦笑いを浮かべると、これ以上何も言うことは無いと言わんばかりに各々の娯楽へと戻っていた。





 一方、蜂鳥に頼まれ雑務に借りされた譜緒流手、淵、湖畔の3名は仕事を終えた事を蜂鳥に伝える為、職員室に訪れていた。


 「頼まれた仕事やっときましたよ」


 「ああ、お前達ご苦労だったな」


 譜緒流手が代表し、蜂鳥に声を掛けると蜂鳥はマスクで篭った声で答える。


 「じゃあ、教室に戻りますね」


 「・・・そうだ、譜緒流手ついでにもうひとつ頼まれてくれないか?」


 背を向けて去ろうとする譜緒流手たちを引き止める蜂鳥。

 

 「ええ〜、ゲームの協力プレイの途中だったんですけど」


 「まあ、そう言うな。というかその前に授業中だからな!?」


 「いやー、先生も筵もいないから分からないところを聞けないんですよ」


 譜緒流手は悪びれる様子も無く蜂鳥に笑いかける。その後蜂鳥の依頼について尋ねる。


 「で?頼みたい事って何ですか?」


 「ああ、ちょっと待っててくれ」


 蜂鳥はそう言うと、譜緒流手たちを職員室の自分の席の近くに残して、職員室内にある応接室の中に入っていった。


 そして、すぐに応接室から出てきた蜂鳥の隣には、銀髪の美少女の姿が確認できた。


 「こいつは今度、この学園に転入する矢式(やしき)凛だ。子供の頃はこの辺に住んでいた、いわゆる帰国子女って奴だ。という訳でお前達、こいつに学園の中を案内してやってくれ」


 「矢式凛です宜しく」


 銀髪の美少女、凛は人懐っこそうに笑うと譜緒流手に向けて手を差し出してくる。


 譜緒流手は海外特有のパーソナルエリアの治外法権ぶりに驚きながら、その差し出された手を苦笑いで見ながら、渋々、握手を交わす。


 「つ、筒崎譜緒流手(フォルテ)です。こっちは鈍空淵と椎名湖畔」


 譜緒流手に紹介された1年生2人はペコリと頭を下げる。


 「へー、譜緒流手って珍しい名前ですね。私もそう言う他に無い名前が良かったですよ。ははは」


 凛は悪意の無い様子で譜緒流手に笑いかけ、譜緒流手もそれに空返事で答え無理矢理に話題を終わらせると、”じゃあ、早速行きましょうか”と声を掛け職員室を後にした。



 


 その後、学園の主な施設を案内して回った譜緒流手たちは最後に模擬訓練場に向かっていた。


 そこは能力者同士の模擬戦やハーベストとの擬似的な戦闘訓練を行う事ができる施設だが、正直に言ってZクラスとは無縁の場所とも言え、譜緒流手たちも訪れたのは両手で数えられる程度であった。


 訓練場に向っていると、譜緒流手は凛が横を通りかかる生徒の顔をまじまじと見てなにかを確認している事に気づいた。


 「ええっと、凛さん。誰か探してます?」


 「え、ええ、昔の知り合いを・・・ね」


 「ふーん、どんな方ですか」


 「子供の頃なので、今は分からないけど、カッコよくって正義感の強い人かな」


 「ああ、そうですか・・・会えるといいですね」


 譜緒流手はこれ以上何も聞くこともないと言わんばかりの表情で凛に答え、同時に模擬訓練場のドアを開ける。



 ♪♪♪♪♪



 訓練場の中はサイレンが鳴り響いでいた。


 そして、その中心にはシールドのようなもので囲まれたリングがあり、その中には数名の生徒と暴走していると思われる人型の機械が取り残されていた。


 状況的に機械の暴走で、シールドが解除不能となり、中の人型機械の安全装置も作動しないと言うことらしい。


 おまけに取り残された生徒達は、Eクラスの生徒で自力で切り抜けるのは厳しそうな状況であった。


 そして、シールド内の女生徒が人型の機械の持つ剣で切り裂かれそうになったその瞬間、誰もが目を覆っている中、1人の男が譜緒流手たちが入ってきた所とは別の出入口より飛び出し、空中で聖剣を呼び出すとそのままシールドを破り、中の人型の機械を両断した。

 

 


 「ああ、あれがお目当ての人じゃないですか?凛さん」


 譜緒流手はその男と共に入ってきたかぐやを見た後、横にいる凛に声を掛ける。しかし、既にそこに凛は居なかった。


 焦りながら辺りを見渡すと、凛は事件を解決した日室刀牙の近くに立っていた。


 そして凛は刀牙と一緒にいるかぐやを目視すると何かを確信して、顔を少し赤らめながら喋り始める。


 「久しぶり。相変わらず困っている人を見ると助けずには居られないようね”筵”」


 凛の口から飛び出した有り得ない言葉に一同は氷つき、特に譜緒流手は指一本動かせなくなってしまった。

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