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天地堕とし 後日談 2

 午後5時過ぎ、学園のある街のファミリーレストランで、今回の事件の解決を祝した打ち上げを数時間ほどしたZクラスのメンバーは、やがて話すことも無くなったため、ながれで解散となっていた。


 そして皆と別れた筵は1人で夕暮れの道をある場所へ向けて歩いていた。


 筵が手に持っているレジ袋には途中のコンビニで買った数回分と思われる食料が入っていて、そのまま使われていない小さな倉庫のような場所へと入っていく。


 筵は倉庫のドアをうるさいくらいの音が鳴り響かせながら開け、中にいる椅子に腰掛けた小さい人影を見る。


 「遅かったじゃないかぁ、こっちは育ち盛りなんですよぉ」


 ドアの開く音により、来客を知ったその人物は、ねっとりとした口調で、しかし、それでいて声変わりのしていない少年のような高めの声で筵に声をかける。


 「いや〜、ごめんごめん。それにしても、やっと吹っ切れた感じかな?」


 「ええまあ、よく考えてみると子供から人生をやり直す事が出来るなんて、誰もが喉から手が出るほど欲するものですからねぇ」


 倉庫の奥の方で椅子に腰掛けているかなり大きめの白衣を着ている異国の少年は、乱雑に束ねた長髪をたなびかせながら、顔だけで振り返ると、その整った顔立ちだから許される位の気色の悪い笑みを浮かべながら、筵を上目遣いで見上げる。


 「本当は美少女にして、異世界にでも送ってあげるのが良かったのかもしれないけれど、君にはして欲しいことが幾つもあるからね」


 筵は冗談混じりに少年に笑いかけると釣られてその少年も気色悪く笑う。


 「きひひ、そんなの望んでませんよ。それでして欲しい事とはなんです?人工能力者の複製ですか?それとも人間のハーベスト化ですか?」


 「うーん、どちらも違うかな。君にしてもらいたいのは心を持った機械の発明だよ。能力は心に宿るなら、その心を持った機械を作れば、機械の能力者を作れるんだろ?」


 「・・・」


 筵の突拍子もない提案に対して、異国の少年は驚いたような表情でしばらく固まった後、顎に手を当て少しの間考える。

 

 「机上の空論のようですが・・・なるほど、面白い発想ですねぇ」


 「まあ、これは僕の発想ではないけどね。それに友人の話では今までそれが成功した例は一件しかないらしい・・・でも君なら出来るんじゃないかな?」

  

 「・・・くひ、ひひひ、良いでしょう。やって見ようじゃないですか」


 少年は興奮気味に笑みをもらすと、少し間を開けて続ける。


 「・・・あと、出来ましたら、その友人と話をさせてもらえると有難いですねぇ」


 「ああ、今度紹介するよ」


 筵はそう言って何時もの半笑いで少年に(こた)えながら、少年のもとに近づき、レジ袋を渡すと机の上に散らばっている紙を1枚手に取る。


 そこには訳の分からない数式やら設計図やらが書かれている。


 「相変わらずの天才ぶりだね。これは何の研究だい?」


 コンビニ袋の中の食べ物を探っている少年に向けて声を掛けると、その少年はおにぎりを一つ取り出し、1口食べた後、口を開く。


 「ああ、それは聖剣や魔剣を強制的に発現させる技術ですねぇ、ただ、現段階では将来的に聖剣を発現できる程の能力者から先取りで呼び出す程度ですよ。それに、発現させるプロセスが人によって違ったり、副作用があったりなどしましてねぇ。まあ副作用はどうでもいいのですが、前者が厳しいので実現は難しいです。折角、ゴミ能力者を集めて聖剣牧場でも作ろうとおもっていたのに、残念ですよ」


 少年はそう言いつつ、おにぎりの具の入っている部分を食べきると、残った部分を放置し、次のおにぎりに手を伸ばしながらゲスな笑みを筵に向ける。


 「見た目は子供になっても、頭脳とか、あとは精神が薄汚れている所とかも見事に一般的な大人のそれで安心したよ。・・・ただ、そういう表情とかは外ではひかえてね。折角、顔も年齢も変えたのに、その笑い方のせいで君が茶川(ちゃがわ)風土(ふうど)だとバレるかもしれないからね」


 「ええ、気を付けますよ」


 合計2個のおにぎりを中途半端に食べ、続いてレジ袋からゆで卵を取り出している少年を少しの間、眺めていた筵はふと気づいて少年に再び問いかける。


 「ああ、そう言えば、これから君のことをなんと呼べばいいだろう。本名だとまずいよね」  


 筵の問に対して、なにやら考えながら卵のカラを剥く少年。


 「だったら誰もが知っているあの有名な科学者からフラン・・・フラン・パーカーとでも名乗るとしましょう。私の性根をも表したいい名前でしょう?」


 そう言って卵を丸呑みにする茶川風土もといフラン・パーカー。


 フランは自身に新しくに与えられた美少年の容姿を台無しにする笑みと行動、そして思想を当たり前のように引っさげなから堂々とした様子であった。


 「とてもいい名前だと思うよ。・・・ではフラン君、初日に言った”呪い”の件とさっきの機械の研究を宜しく頼むよ。それと、外に出るのはいいけど、やんちゃは程々にね」


 手に持った紙を元の位置に戻した筵は、そう告げると振り返り、倉庫の出入り口に向かって歩き出す。


 「ええわかっていますよ。・・・まったく貴方は、私なんて囲いこんで何がしたいんですかねぇ〜、それにこの研究、戦争でも起こす気なんですか?」


 「そんな気はさらさら無いよ。でもいつか、力、金、権力その全てを使わなければ勝てない敵が現れるかも知れない。その為の準備だよ」


 筵は入口付近でもう一度振り返り、フランの方を見ると、含みのある笑みを浮かべ、ゆっくりとドアを閉めた。






 筵が倉庫から出ると、外はもう薄暗くなっていた。


 11月下旬の人恋しくなる寒さを感じながら、来た道を戻り、人通りの多い道を歩いていると、これだけの人がいるにも関わらず自分の知り合いは1人もいないと言う事に孤立感を感じ、らしく無く寂しさに似た感情を覚えてくる。


 そんな心境で、知らない誰かの客引きの声や笑い声をアニメのガヤの様に意味を持たぬ効果音として聞き流し、黙々と歩いてくと、世界から孤立していた筈の筵に、突然、後ろから声がかけられた。


 「そこの黒髪のお兄さん、ここに可愛い子がいますよ。如何ですか?」


 筵はその風変わりな客引きの声に少し驚きながらも表情には出さず、ゆっくりと振り返る。


 そこには薄暗い街を照らすネオンの様な光を放つ蝶を纏った少女が立っていた。


 少しの間、筵とその少女は声に出さず笑い合い、その後、最初の約束を果たすべく、口を開いた。

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