天地堕とし、異変解決班 後編4
「てふてふ、気は済んだかい?」
「そうだね。もう流石に飽きたよ」
お互いに疲れた様子の無い、筵と蝶蝶は向かい合って立ちながら横目で戦いの最中に崩れ去った巨大なクリスタルを眺める。
そして蝶蝶も、すでに落ち着きを取り戻していて、普段のジト目で淡々と筵の質問に答える。
「で、これからどうするの?ワタシをテロリストの一員として、捕まえる?」
「またまた〜、そんな事しないよ。・・・それに出来ないんだろ?」
「いや、それはどうかな?筵が捕まってほしいって言うなら考えなくも無いけど?」
「ははは、知らないうちに好感度があがっていて嬉しいけど、でもそんな事言わないよ。僕は正義の味方でも、悪の敵でもない。強いて言うなら敵の敵だからね。自分に仇なさないものに対してはどこまでも寛容なんだ」
筵はそう言って笑うと召喚していた日本刀型の魔剣、”大皿喰い”をしまう。
それから、少しの沈黙を開け、蝶蝶が深くため息をつく。
「あーあ、またリスクに引っ掛かっちゃったか。薄々気づいていたけど、今回はいろいろと用意してきた分、きついな〜」
「・・・嫌じゃなかったら、そのリスクって言うの、僕にも教えて貰えないかな?」
筵の問に対して蝶蝶は、暫し筵を観察し、そして再びため息をもらす。
「はあ、まあいいか。隠す事でもないしね。ワタシの呪いのリスクって言うのは、現実を夢に変えてしまうこの呪いに相応しいものだよ。・・・そう、”ワタシの真に願った夢は現実にならない”って言う、この呪いの万能性から見たらそれはそれは小さいリスク、そう思わない?」
蝶蝶の能力、もとい呪いは自分だけでなく周りの物に与えられた出来事も夢に変えることが出来る。その証拠に蝶蝶は壊れたクリスタルを元も戻して見せた。
それは恐らく物だけではなく者にも作用する事が出来る。そして、蝶蝶の言った通り、”夢は現実にならない”というリスクは万能の能力のリスクとしては妥当と言うべきでもあった。
しかし、妥当ではあるが決して割り切れるもので無い。というのは筵にも理解出来た。
「うーん、感じ方は人それぞれだとは思うけど、少なくとも僕は、僕がさっき君に言った言葉を”残酷な嘘”にだけはしてはいけない、と思わず再認識してしまったよ」
「・・・そう。まあ、頑張ってね」
蝶蝶は驚きしばらく押し黙った後、他人事の様に言いながら小さく笑う。
そしてそのまま背を向け少し歩いた後、不意に筵の方に振り返る。
「そうだ。筵は早く学園に戻った方が良いんじゃない?天地堕としが失敗に終わって、ハーベスト教団は学園から一旦手を引くだろうけど、中には馬鹿なヤツもいるから変な事をしでかすかもしれないよ?」
「ああ、言われなくてもなるべく急いで帰るつもりだけよ。あっ、でも学園には彼も残っているし、大丈夫かな」
筵は学園の英雄のいけ好かない顔を思い出しながら、ため息混じりに呟く。
「彼?ああ、聖剣使いの・・・うーん、でも、どうだろう?彼は龍子にも目を付けられてたし、一番強いならうちのリーダーが相手するだろうから、今頃殺されているんじゃないかな?うちのリーダーはそれなりに強いからね」
蝶蝶は筵の顔を首を傾げながら覗き込み、話を続ける。
「例えば、もし、そいつが死んだりしたら、筵はどうする?」
蝶蝶の思わぬ質問に筵は少し言葉を詰まらせたが、表情は変えず何時もの半笑いを向けている。
「君がなぜそんな質問をしたのかは分からないけど、僕がやることは変わらないよ。今まで通り、守りたい人だけを守るさ」
「・・・そう上手くいくかな?貴方はワタシを倒して天地堕としを崩壊させた。周りは今まで通り、筵の事を見てくれないよ」
「なーに、また何もしないで、他人任せに暮らしていればそんな期待も無くなるさ。それに・・・そもそも、彼は死なないだろうから、その役回りが僕に回ってくるなんて無いよ」
筵の迷いの無い相変わらずな発言に蝶蝶は”そうですか”と小さく答え、意味深に笑うと、自身の身体を何羽もの光の蝶に変えていく。
「では敗者は大人しく去るとします。次に会うときは貴方のピンチに颯爽と現れる事が出来たら嬉しいと思いますよ」
そう言って今度は穏やかに笑った蝶蝶はやがて全身を光の蝶の群れに変えて飛び立ち天井を通り抜けて姿を消し、筵はそんな幻想的な様子を暫くの見送った後、自身ももと来た道を戻っていった。




