天地堕とし、異変解決班 後編3
「まあ、冗談はさておくとして、良く、”やらないで後悔するよりも、やって後悔した方がいい”、何て言われるよね?でも、それは僕から言わせれば、そんな二択を選ばなくてはならない時点で最初から負けていると言わざるを得ないよ。だってそうだろ?僕達はそもそも後悔がしたくないんだから。・・・だけど、悲しい事に、後悔をしない様に生きる事はほぼ不可能なんだ。なぜなら、それをするにはそんな二択が存在するという事すら気付かぬ馬鹿になるか、全てを完璧にこなすしか無いんだからね。・・・そして、君は今、ズバリその選択肢を突きつけられている。天地堕としを完成させて、そのせいで自由奪われ、あるいは命を奪われて後悔するか、完成間近のそれが失敗に終わって、やはり後悔して終わるか。君にとってどちらがいいかなんて僕には分からないし、決める権利も無い」
それから、暫くの沈黙を経て、筵は少し話題をずらしながら、雄弁に語っている風をよそおいつつ、話を続ける。
「さっきの話の続きだけど、”優しい嘘”と”残酷な真実”が何故釣り合うか考えた事はあるかい?だって、方や辛い現実、方や優しい夢だよ、こう置き換えたら、圧倒的に”優しい嘘”の方が良いように思えてくる。だけど、この二つは何処まで行っても甲乙つけがたい。それは何故か・・・」
筵は息を大きめに吸い込むと、少しだけ真面目な表情で蝶蝶を見つめる。
「真実とは、それがいかに残酷で、酷く辛いものであっても、優しい事と同じ位に価値があり、人はそれを欲してやまないんだ。そして、みんな心のどこかでは分かっている。夢からはいつか覚めなくてはならないことを、嘘はいつか暴かれなくてはならないと言う事を・・・」
筵の言葉に、尚も蝶蝶は苦虫を噛み潰したような表情を続けながら睨みつけていた。
しかし、ここで先程まで真面目な表情で語っていた筵は、何かに対してクスリと笑い、続けて何時もの半笑いの調子に戻る。
「と、まあ、世の中はそんな様にいいこと言っている風に現実と向き合うことを推奨しているけれど、ここで僕が擁護したいのは、どちらかと言うと”優しい嘘”の方なんだ。だってこの2つは何処まで行っても甲乙つけがたいんだからね。平等でなくてはいけない。向き合う事だって背を向けることだって、それが自分の意思で決めた事ならば、良い悪いはあれど間違った選択ではない。そして、それにより伴う責任も後悔も全て自分のものだ。そう思えば受け入れることが出来る」
筵は最後に結末を見切ったようにほくそ笑みながら、落とし文句を言い放つ。
「だから君は僕がこれから言う・・・”死ねない呪いを解くため、僕が行動する時、その過程で必ずや君の呪いを解除する方法も見つけてみせる”・・・などという”優しい嘘”を信じて今回は諦めるか、それとも天地堕としを決行するか、君が決めるんだ。君が君の意思で、君のために。胸に手を当てて考えるんだ。どちらの方が得が多いか、どちらの方が損や後悔が少ないか、どちらを自分が選びたいかを。さあ、聞かせてくれ、意思と損得、全てを考慮した上での君の答えを・・・」
「ああああああぁぁぁぁ!!」
筵が喋り終わるのとほぼ同じ位のタイミングで苛立っている時のように、投げやりに叫ぶ蝶蝶。
蝶蝶の表情は、激しく怒っているわけでも、泣きそうになっている訳でもなく、かと言って筵の言葉を受け入れ、”一本取られた”と上機嫌な様子でも無く、ただイライラしているような印象でまるで、欲しいものを買ってもらえない時の子供の様であった。
そして、それと同時に隠し持っていた拳銃を取り出し、筵に1度向け、その後、直ぐに自分の足元の地面に乱射する。
1発ごとに銃から手に伝わった衝撃を光の蝶に変えながら、弾切れまで撃ち尽くす。
「いいよ。もう分かったから、ワタシの負けだよ。だから今回は騙されてあげる。でも・・・それは別の話として、八つ当たりは受けてよね?」
少しだけ強い口調で言った蝶蝶は、続けて弾痕の残る地面を足で思いっきり踏み付ける。
すると踏み付けられた地面から湧き出すように再び光の蝶が撃ち込まれた銃弾の数だけ飛び立つ。
「やっぱり綺麗な能力だね。うん、いいよ。そう言うのは得意なんだ。何回でも君の気が済むまで殺されてあげるよ」
その後、散っていった幾つもの筵の屍の上に、天地堕としの元凶である巨大なクリスタルは粉々になって崩れ落ちていった。




