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天地堕とし、異変解決班 後編1

 「見た所、そのクリスタル状の物が今回の異変の根本、諸悪の根源ということでいいのかな?」


 (むしろ)はハーベスト教団の隠れ蓑にされているビルの最下層で待っていた星宮蝶蝶に尋ねる。


 すると蝶蝶はくすりと小さく笑い、優しい手付きでその大きなクリスタル状の物を撫でる。


 「そうだよ。これが天地堕(あめつちお)としの正体。人間、ハーベスト、そして神すらも並列に堕とし、この世界から異能を奪う・・・そんな夢の様な秘宝(アイテム)


 「へー、それはそれは、一般の人からしたらとんでもない悪夢だね」


 「あれ、何を言っているの?一番大切にすべきは自分だと筵が言ってたんじゃないかな?」


 「まあ、それはそうなんだけどね・・・でも、僕は僕のためにそれを阻止する、とも言ったはずだよ?」


 筵は半笑いでそう言い、手を軽く上げると空中に黒い剣が現れる。


 続けて手を前に軽く振るとその剣は、天地堕としの元凶であるクリスタルに向かって射出され、着弾する。そして、巨大なクリスタルはひび割れ、大きな音を立てて崩れ落ちた。



 しかし、ふと気付くと壊れたはずのクリスタルは何事も無かったかのように蝶蝶の隣にそびえ立ち、その近くには光の蝶が1匹ひらひとと優雅に舞っていた。


 「私の呪いの前では、夢も現実も全てあやふやにして蝶の姿に変わってしまう。・・・ふらふらと、ひらひらと」


 蝶蝶は何処か悲しげな表情で自分の近くを舞う光の蝶を見つめる。


 「初めて君の能力を見たけど凄いね。どうしてそんなに凄い能力を捨てたいなんて思うのかな?余程、壮絶なリスクがあるのかい?」


 「うーん、人によるかな?この呪いの汎用性に比べたら、そんなの些細な事だと思う人もいるかも。でもワタシは心底嫌だと思っているよ」


 筵は壊した筈のクリスタルが一瞬で再生した現状にもさほど驚かずにゆっくり蝶蝶に近づき話しかける。


 そして、蝶蝶の前まで来ると最初にクリスタルに触れ、そしてそのクリスタルに触れている蝶蝶の手に触れる。


 すると筵は触れた感触はあるのに、実際には手をすり抜けてしまうというなかなか体験できない感覚を覚え、気付くとまだ光の蝶が舞っていた。


 「なるほどね。実にシンプルだけど鉄壁の守りだ」


 「分かってくれた?・・・さらに今、この秘宝、天地堕としは制御装置を外されているから、ものの数時間もすれば本来の力を発揮されるはずだよ。タイムリミットはあと少し・・・どう?早めに諦めてここでワタシと世界が改変されるまでお喋りでもしない?」


 「・・・それは楽しそうだね・・・」


 再び半笑いを浮かべた筵は蝶蝶から少し離れ、そして、向かい合う。


 「でもやっぱり改変までの、その長い時間は君の説得につかわせてもらうよ。例えどんな手を使ってでも説得するから覚悟しておいてね」






 「ある所に、愚鈍で怠惰な世界一の馬鹿と呼べるような男がいました。男はみんなから馬鹿にされるのは嫌だが、面倒臭いこともしたくないそう思い、ふと勉強しなくても頭が良くなる道具があったら、どんなにいいだろうと考える様になりました。それはまさに怠惰で世界一馬鹿な男に相応しい発想でした。しかし男は思い立ったら最後まで貫く、そんな頑固な性格の持ち主でもあったのです。それから70年の月日が流れ、その間、発明の為の努力を重ねた男は気付くと世界一頭のいい人間と呼ばれるまでになっていました。そして今際の際、男はずっと心血を注いできたその道具を遂に完成させたのです。しかし、男は少し道具を凝視し考えた後、この世界で最も愚かな選択をして、再び世界一の馬鹿な男になりました。しかし男に後悔はありませんでした。彼は分かっていたからです。たとえ歪んだ気持ちからでもいい、目標に向かってひたむきに努力する事、その熱意こそが誰もが生まれた時から平等に持つ、”ひみつ道具”である言うことに。男は満足そうにその場にゆっくりと倒れ込むと、砕かれた夢の残骸の上で静かに眠りました」


 「・・・」


 「あれ?いい話作戦は失敗かな?」


 「なんか話の持って行き方と題材が色々な所からパクっていて嫌でした」


 「いや〜、この作戦も駄目か〜」


 筵はそう言い、ため息をつくと自身の周りに散らかるほかの作戦の形跡を見渡す。


 「あの?さっきからゲームをしたり美味しそうなお肉を焼いてみたりなど、手口が手緩いんじゃない?おまけにお肉は食べさせてくれたし、一体何がしたいのかな?こちらはそれなりに覚悟はしていたんだけど」


 「まあ全部総じて、天岩戸(あまのいわと)作戦って感じかな?やっぱり僕としてはお互いにいい気持ちで、この事件を解決出来たら最高だと思う訳だよ。具体的には人生捨てたもんじゃないと君に思ってもらって、”いっせいのせ”でその秘宝を破壊してこの事件が終了、第5章完だったらこんなに嬉しいことは無いね」


 筵の筵らしいと言える返事に不意に蝶蝶は驚いた様子に変わり、そしてその後リラックスしたように笑う。


 「ふふ、筵は本当に面白いね。・・・まあ頑張ってみてよ」


 「ああ、頑張らせてもらうよ」


 そうして、蝶蝶に釣られて笑顔を向ける筵の表情はいつものポーカーフェースの中にすこしの焦りを含んでいるようにも思えた。

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