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天地堕とし、学園防衛班 8

 「やはり貴女は頭の良い方だ。そんな事をされては、本気で死ぬつもりなのが1%に満たないとしても、私は断ることが出来ない。・・・本当に賢くて、ずるい方だ」


 「どちらも褒め言葉として受け取っておきます」


 暫く淵を見つめていた、斬人はため息をもらし、その後、淵に笑いかける。


 そして、それに答える様に淵も優しい笑顔を斬人に向ける。


 「分かりました。私の本気を持って敵を倒しましょう。貴女の命を守る為に」


 斬人はそう言い、先ほどの黒い球体を手の中に生み出すと、それは徐々に黒色の液体の様なものを生み出し、体を包み込むように全体を覆っていく。


 斬人は表情や言葉には出さなかったが、何処か悲しげな雰囲気でもあった。


 自分がハーベストだとバレたなら当然、この学園に居られなくなるが、バレなかったとしても、敵前逃亡したというレッテルのせいで学園に居づらくなることは目に見えていて、今まで通り筵の補佐をする事は出来なくなる。斬人はその事実を確信していた。


 淵もその微妙な雰囲気の変化を察し、自分の行った行為を省みるが、やはり上にいる全員の命とは変えられないと意思を固める。


 そうしているうちに斬人の全身を包み込んだ黒色の液体は、その形を黒い甲冑に変える。


 「そ、その姿が破魔野先輩のハーベストの姿なのですか?」


 黒い甲冑に身を包み、2周りほど大きくなっている斬人に少しだけ驚いた様子を見せる淵だったが、直ぐに顎にてを当て何やら考え事を始める。


 斬人のその姿はそれがハーベストだと知っていれば、納得出来るほどの黒く異様な雰囲気を醸し出していた。しかし、言い訳ができないほど人外の容姿では無かった。


 「破魔野先輩、私に考えがあります。これが成功すれば全て丸く収めることができるかも知れません」


 淵は確信した様子で堂々と語る。


 その様子に斬人が呆気に取られていると、淵はその内容を述べ始める。


 「その黒い甲冑、全てが先輩の聖剣で、今、その力に目覚めた事にしましょう。鞭型の魔剣も、音叉型の聖剣も存在するんです。甲冑型の聖剣があっても何ら可笑しくありません。いえ、可笑しくないという雰囲気にわたしがして見せます」


 その提案には不安要素が多かったが、片鱗を表す淵の智将ぶりと、作戦を語る様子から、斬人の頭には、この作戦は絶対に成功するという根拠の無いイメージが浮かび、それ以外の失敗イメージを包み隠していた。


 そして、黒い甲冑のハーベストは再び、甲冑の中で小さく笑う。


 「では鈍空様。私がハーベストだとバレない様に諸々宜しくお願いします」


 斬人はそう言うと、淵を抱き抱えホールへと戻るために飛び上がった。





 同時刻、廊下にて。


 「ここまで来れば、安全でしょうか?」

 

 生徒会室から梨理の指示で退散していた湖畔が生徒会室から離れた廊下で立ち止まり、一度能力を解除して姿を現す。


 「湖畔くん疲れた?」


 「いえ、まだ大丈夫です。でも少し温存した方がいいかと思いまして」


 心配そうに、訪ねるカトリーナに手と首を振りながら答える湖畔。


 その様子を見た、3人の子供たちはお互いの顔を見合わせ、アイコンタクトし合うと譜緒流手の娘である愛巣(あいす)が小さく手を上げる。


 「じゃあ、椎名さんと私が順番で能力を使って行く?」


 愛巣の能力、治外法権的家庭内規則(プライベートルーム)は自分を中心とする六畳一間の空間を自分の定めた規則やルールで縛ることが出来るものであり、湖畔の能力と同じく味方を守る事が出来る能力であった。


 「取り敢えず、私の近くから離れないで、ああ、あと私の能力も性能あげたらそう長くは持たないから、逃げるならさっさとね」


 愛巣は父親譲りの腐った目で外を眺め、歩き出す。


 その時、廊下の奥の方から悲鳴とともに、逃げてくる人影現れる。


 「ちくしょう、爆弾魔から逃げたと思ったら次から次へと!!」


 逃げてくる人影は息絶え絶えに、そんな事を叫んでいて、さらにその後からは、連射される機関銃の音と女性の笑い声が響き渡っていた。


 そして、逃げている能力を失った生徒達は湖畔たちを見るつけると、湖畔たちの後ろで振り返る。


 「お、おい、お前らは能力は健在なんだろう?だったらあいつ何とかしろよ。人間に対して強いだけが取得なんだろ?」


 1人の男が湖畔たちにそう告げると、”そうだそうだ”と周りの逃げていた者達も便乗し、最初の男に賛成する。


 そして、湖畔たちは今や無能力者となった者達から、”こんな時位の働けよ”と言わんばかりの視線を受ける。


 そんな、無責任で嫌な空気と沈黙の中、それを掻き消す様に小さなため息の音がもれる。


 「はあ、教科書通りのヘイト稼ぎ御苦労様って感じだな」


 「まあ、仕方ないわアジト、みんな自分が一番大切なんだから」


 アジトと安住(アンジュ)は、仕方なく1歩だけ前に出ると、あらかじめ前に出ていた愛巣と並ぶ。


 目の前の廊下には数名の負傷者が倒れていて、その奥からゆっくりと背の高い20代後半程の軍服を着た女性が姿を現す。


 そして、両手に機関銃を持ったその女性は妖艶な笑みで安住たちを観察する。


 「あら、こんな小さな子達が私の相手のなのかしら?」


 軍服の女性はそう言うと機関銃を安住たちに向ける。


 「ああ、相手してやるぜ。おばさん」


 「ちょっと、アジト、おばさんは流石に失礼でしょ?」


 「え〜、でも、テロリストのおばさんに払う礼儀もなくねー?」


 「ちょ、愛巣まで・・・あの、す、すみません。お、お姉さん?」


 安住はアジトと愛巣の非礼を詫びるが、最後の疑問形が軍服の女性の堪忍袋の尾を切ってしまう。


 「お、おばさん!?それに最後のやつもなんで疑問形なんだ?・・・おいおいてめーら、若いからっていい加減にしろよ!!」


 女性は怒りのままに手に持った機関銃を構え直し、乱射する。


 数秒の間、うるさい発砲音と共に撃ち続けられた機関銃はやがて弾切れをおこし、女性も少し正気に戻ったのか冷静に安住たちの方を見る。


 「治外法権的家庭内規則(プライベートルーム)、第123条。プライベートルーム内へ時速30km以上で侵入するモノの入室を禁止する」


 そこには、追加されたルールについてダルそうな口調で説明する愛巣と、機関銃の乱射など無かったかのように、一定の範囲、正確には六畳一間分だけ不自然に綺麗な壁や地面が存在していた。

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