天使戦でも平常授業 3
「筵、ごめんね。本当はかぐやを助けてあげたかったんだよね?」
譜緒流手は筵に対して申し訳無さそうな表情で謝罪をする。
打ち上げ用のお菓子や飲み物、オードブルの様なものをコンビニで買ってきた一同は、Zクラスの教室で打ち上げを行っていて、今は一通り、盛り上がった後である。
「いいんだよ。それに後輩の女の子を殴るなんて事件を起こした僕の、女の敵である筈の僕のそばに居続けてくれている君を、やっぱり大切にすべきだと思うんだ」
「でも、それは楼がいじめられてたからで・・・」
筵は譜緒流手に優しく語りかけたが、譜緒流手はまだ浮かない顔をしている。
二年ほど前、楼がいじめらめられているところを目撃した筵は、主犯格の女の子を、何の躊躇もなく殴った。
もし父親にバレたとしたら、恐らく筵と同じようにしただろし、母親にバレたら、それこそ、いじめを行った子供の家族諸共、存在しなかった事にされるかも知れない、そう考えた上での行動であった。
それにより筵は停学処分を受け、藤居かぐやとは絶縁状態になってしまったものの、楼はいじめから開放された。
そして、それ以来、楼はずっと悩んでいた事を一瞬にして解決してくれた筵を狂信するようになっていった。
「両親にバレる前に解決したいっていうのがあったけど、それでもやりようは他にもあったと思うんだ。だから、友達で居続けてくれた事には感謝してるんだ」
筵は譜緒流手に再び笑顔を向けた。
そこに先ほど買って来た、さきいかを咥えた梨理が割り込んできて筵の肩を組む。
「おいおい、あたしに対しての感謝はねーのか?」
筵の処分が軽く済んだことや、殴られた被害者と面倒くさいことにならなかったのには、梨理の能力が一役かっていた。
「もちろん、梨理ちゃんにも感謝してるよ」
筵は梨理に対しても感謝の言葉を口にした。
それから打ち上げを仕切り直して、1時間ほどした後、解散となった。
帰り道。
筵が1人で家へと向かっている途中、携帯電話を取り出し、ある人物に電話を掛けていた。
「もしもし、斬人くん」
「はい、筵様、なにか御用ですか?」
電話の相手は、学園の2年Aクラスで学友騎士団にも所属している長身の眼鏡を掛けた男子、破魔野斬人であった。
「そっちは、大変そうだね?なにか進展はあったかい?」
「い、いえ、日室刀牙は以前として行方不明のままです」
「・・・藤居さんの様子はどうかな?」
「数時間前に、なにやら落胆しながら帰ってきました」
筵の質問に斬人はかしこまった様子で答える。
「君には、藤居さんの監視と、本当にピンチの時には助け舟を出すようにお願いしてあるよね?」
「はい、その通りです。筵様」
「今は、結構ピンチだと思うんだよね?」
「はあ・・・と、言いますと」
「今回は、積極的に藤居さんに協力してくれないかな?」
筵は斬人に新たな命令を下す。
「はい、承りました。それでは失礼します。」
斬人は二つ返事でそれを了承し、筵に挨拶をして電話を切る。
話が終わり携帯電話をポケットにしまった筵は、深くため息をつき心苦しい思いを噛み締めることとなった。
"ああ、結局、助け舟を出すんだな"
中性的な声が、筵の心の中に響く。
「そうだね、僕も自分の屑っぷりに驚いている所だよ」
筵は心の中に響いた、その声に返事を返す。
"なぜ、あの藤居かぐやと言う女にこだわるんだ?好きだからか?"
「いや、違うよ。僕はとても利己的なんだ。一度は命を懸けて守ろうと誓った子が、自分の事を嫌いになって、自分から離れていったからといって、その誓いを破りたくないんだ。破るような奴になりたくない、それだけの事だよ」
筵の言葉に、その中性的な声の主はしばらく押し黙る。
「わかってる・・・・僕もいつかは、地獄に落ちるとするよ」
"お前は、死んでもすぐに生き返るだろ?だから俺みたいな魔剣を所有し続ける事ができる"
「そうだね、君には感謝しているよ」
"感謝?所有してから、一度も使ってないだろう?"
「君は、もしものための保険なんだ。そもそも君みたいな曰く付きの魔剣、僕には分不相応だと感じているよ」
"ふん、俺が曰く付きの魔剣なら、お前は差し詰め曰く付きの人間だろ?・・・まあそんな事はいいが、使わなくても、しっかりと生命力は貰ってるからな"
「ああ、好きにするといい、いくらでも湧き出てくるからね。生命力はこうして、話し相手になってもらってる友達料とでも思ってくれ」
"俺とお前はタダの利害の一致だ"
「そう?僕は友達だと思ってたけどな」
筵は魔剣と名乗る声の主とそんな会話を続けながら、世界最強の能力者が住んでいるとは思えない、ごくごく、一般的な一軒家に帰っていった。