天地堕とし、学園防衛班 5
「立てっか?会長さん?」
「ええ、やはり少し足に違和感がありますが大丈夫です」
梨理に差し伸べられた手を握り返し立ち上がったスチュワートは足を少し気にしながら巨大化した敵を眺める。
「よっしゃあ、じゃあ行くか!」
梨理は手を少しだけ前に出して構えると、そこに光が集まっていく。
そして、その光は音叉型の聖剣、魂震の形ではなく、棍棒のような形に変わっていく。
「その光はまさか・・・」
「ああ、まあ少しちげぇが、聖剣みたいなもんだ」
光が集まり終わると、やがてその光が薄れていき、梨理の手元の鉄製の細長めの棍棒がその姿を表す。そして梨理はそれと同時に棍棒を自分の肩に持っていき軽く乗せる。
「これは”頭蓋砕き”。あたしの曾祖母の愛用していた武器だぜ」
梨理はそう言うとまるで野球のバッティングの前のホームラン予告の様に頭蓋砕きを敵に向け構え、持っている方の腕をもう片方の手で掴む。
「さあ、それじゃあ、反撃の狼煙と行こうぜ!!」
梨理は巨大化した敵を見上げると無邪気に笑ってみせた。
「ぐぅぎゃあがぁあ!!」
「ちっ、またかよ!!」
敵能力者は再び梨理たちに向かって、殴りかかり潰そうとしてくるが、梨理はそれに対し面倒臭そうに舌打ちをすると、その拳に向って、頭蓋砕きを叩きつけ、応戦する。
「ぐがあああぁ!!」
少しの鬩ぎ合いがあった後、敵能力者は苦しそうに叫び声を上げると、頭蓋砕きで殴られた敵の腕は強力ななにかの力により、ギリギリ関節が外れない位の稼働で後方へと弾かれる。
「よし、会長さん続けていくぜ!!」
「ちょ、何をする気ですか?」
梨理は敵が怯んでいる隙にスチュワートの臀部を頭蓋砕きで掬い上げる。
「だってアンタ?その足だったら、あそこまで跳べねーだろ?」
「・・・えっ?つまりどういう事?」
「分かってんだろ?」
梨理はスチュワートに不敵な笑みを返すと、そのまま頭蓋砕きを振り抜き、スチュワートを数十m上空の敵能力者の面前まで投げ飛ばす。
「あ、天喰さん!!恨みますからねー!」
スチュワートは梨理に対して抗議の言葉を叫ぶが、空中で体勢を立て直し、カラドボルグを構え、雷を纏わせる。
「くらいなさい!!」
そしてカラドボルグを振り下ろすと、天空より雷鳴が敵能力者に落ちる。
先程はその技により敵を倒したのだが、やはり2倍近く大きくなっている今のそいつには致命傷とまでは行かないようで、体から焦げ臭い匂いを漂わせながら、狼の様な大きな口に光を吸収し始める。
「くっ・・・」
敵のその攻撃モーションに警戒したスチュワートはカラドボルグを防御に使うため、平らな方を向けて構える。
そして、それと同時に敵の口からは熱線、ようするにビームのようなものが放出される。
「防御なんて考えなくていいぜ、こう言うのはあたしに任せろ。会長さんはあたしを信用して次の攻撃の準備でもしてろよな」
突然、スチュワートの前に飛び上がって来た梨理は本当に野球のバッティングをする様に頭蓋砕きを構えると敵のビームに向かいフルスイングする。
すると敵のビームは頭蓋砕きとの接触部分で圧縮され、小さなエネルギーの球体の様なものを生成する。
「それがその武器の能力なのですか!?」
「ああ、物を弾き飛ばす能力だ。特に向かって来るものに対して真価を発揮する。こんな風にな!」
そして数秒後、敵のビームが枯渇した所で、今度は梨理が頭蓋砕きを振り抜くと、エネルギーの球体は敵が撃ってきたビームと同じ形で敵へと返される。
自分の攻撃を返された事で、敵がダメージを負い怯んだことを確認した梨理はスチュワートの方を向き直す。
「ちゃんと準備してたか?」
「ええ!!信じてあげましたよ」
スチュワートは梨理の言葉通り、ノーガードで次の攻撃の準備の為に再びカラドボルグに電気を帯電させていた。
そして、今度は自分から体勢を変え、飛ばされやすい姿勢になる。
「行くぜーー!!」
今度は臀部では無く、足に頭蓋砕きを当て、そのまま振り抜きスチュワートを射出する。
「今度こそ終わりです!!」
スチュワートは今度は焦ること無く、飛ばされている時に突きの構えに変えると、そのまま敵の胸筋の部分にカラドボルグを突き刺すと、その瞬間、轟音とともに敵の体を突き抜ける様な雷が走る。
「まだです。梨理さん!!お願いします!」
スチュワートはその状況を冷静に判断し、まだ倒しきれていない事を瞬時に察すると地面に着地していた梨理に向かって叫ぶ。
「おう任せろ!!スチュワート!!」
地面の梨理は一瞬しゃがみこみ、勢いを付けると飛び上がり、カラドボルグが刺さった敵能力者の胸部まで辿り着く。
「出る杭は打たれるってな!!」
梨理は振りかぶると、敵に刺さっているカラドボルグの頭、いわゆる刃側とは逆の先端部分に向かって思い切り打ち付けた。
それにより先程の数倍の雷が敵の身体を突き抜けて行き、その後、巨大な敵能力者はゆっくりと仰向けに倒れた。
一方、ハーベスト教団の襲撃があった事を知らせる警報が鳴った直後の廊下にて。
「破魔野先輩!これは!」
生徒会室から少し離れた階段の踊り場で話していた淵が斬人に声をかける。
「ええ、とにかく1度、生徒会室に戻りましょう」
「そ、そうですね・・・」
淵は斬人の提案に口では同意するものの、なにか引っかかる事があるかのようにその場を動かず階段の窓から外を眺める。
「いや、ちょっと待ってください」
淵の視界の先には学園の校門付近にいる何人かの敵味方が映っていた。
「敵が少な過ぎます・・・っ!!」
淵は何かに気づき、生徒会室のある方向とは逆に階段を駆け下りる。
「鈍空様!」
「破魔野先輩付いてきて下さい。彼らの狙いは他にもある筈です」
淵は後ろ一瞬振り返り、斬人が付いてきている事を確認すると言葉を続ける。
「自分が敵と同じ状況で同じ心境で、更に同じ心情を持っていたら何をするか考えるんです。・・・相手の今したいこと、それは、第1にこの異変の中でも能力を維持している者を約1体1で倒す事、そして第2に能力を失って一般人と同レベルに落ちた能力者を一網打尽にする事の筈です」
そう言うと淵は、能力を失った生徒達が集まっている舞台と座席のみのホールへと向かった。




