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天地堕とし、学園防衛班 3

 「おいおい、会長さん?相手全然元気だけど?」


 「う、うるさいですよ」

  

 梨理とスチュワートは敵の攻撃を避けつつ、スチュワートの雷を操る能力により攻撃を加えているが、それでも狼男のような敵能力者は怯むこと無く何度も反撃を仕掛けてくる。


 しかし、それはこちらの攻撃のダメージが無いという訳ではなく、どちらかと言うと、相手の体力が相当高いような印象であった。


 「この能力者は一体?ただの肉体強化の能力では無いように見えますが」


 「そりゃあ、狼男になってるからな、それにこんな能力見た事ねーし、固有能力なんじゃねーの?」


 スチュワートの能力は学園でもトップクラスなのは確かであった。そして、例外はあるものの肉体強化系の能力は、能力としてそこまで優れている訳ではない、少なくともこの学園ではBクラス以上の肉体強化の能力者は存在しなかった。


 「まあ、ダメージが無いわけでは無さそうだから、じゃんじゃん攻めろよ」


 「えっ、ええ。分かっています」


 梨理の言葉に図らずも頼もしさを憶えてしまったスチュワートは、少し噛みながら答える。


 そしてそれと同時に敵の能力よりもむしろ、梨理に対しての疑問が浮かび上がる。


 自分を背負いながら、何も持っていないかのように身軽に敵の攻撃をかわす、そんな事が可能なのか?


 スチュワートがそんな事を考えていると、不意に梨理から抗議を受ける。


 「おい、今チャンスだっただろ?何やってんだ」


 「す、すみません。考え事をしてました」


 「はあ?こんな時に考え事とか!?まさか自分が死なないとでも思ってるんじゃねーだろうな?」


 梨理に対して謝罪をするスチュワートだったが、その返事を聞いた梨理は敵の攻撃を避け距離を取ると、再び抗議の言葉を口にする。


 「貴女こそ、こんな時に漫画のネタなんて挟んできて・・・」


 「いや今はそう言うつもりは・・・ってあれ?会長さん。今のに似た漫画のセリフがあるって知ってんのか?」


 「・・・い、いや今のはたまたまで」


 「いやいや、さっきのは漫画に全く興味がない奴が、知ってるようなもんじゃねーだろ。・・・なんだなんだ、趣味はクラッシックとか乗馬とかとかかと思ったけど、意外と話分かんじゃねーか。会長さんよっ!!」


 「何ですか、その偏見は!ってええーー!」

 

 スチュワートの意外な一面に気を良くした梨理は、勢い良く敵の能力者へと突っ込んで行き、敵の鳩尾の部分に強烈な蹴りを加える。


 梨理の蹴りをまともに食らった敵は、口から血では無い液体を吐き出し、そのまま壊れている窓から外へと放り出される。


 「しっかり捕まってろよ!!」


 尚もテンションが上がっている梨理は敵に続き、自分もその壊れた窓から飛び出し、空中で敵の上に陣取り、再び蹴りを入れ、地面に叩きつける。


 「会長さん、チャンスだぜ」


 「わ、分かってます」


 スチュワートは手に雷を溜めて、空中より地面の敵に向かって放つ。


 放たれた雷は地面にいる敵に直撃し、爆音と共に砂煙が巻き起こる。


 「よっと、今のなかなかのコンビネーションじゃねーか?」


 「まあそうですね。・・・と言うか、肉体強化の能力無しでその動きとか、どうなってるんですか?」


 梨理は大体、3階位の高さの生徒会室からの着地をいとも簡単にこなすと、スチュワートを下ろし、敵の方向を眺める。


 「でもこういう時に限って、まだ、倒せて無くていきなり飛びかかって来たりするからな」


 梨理は冗談半分にそう言った。


 しかし言葉とは裏腹に警戒心をより高め、何時でも相手の攻撃に対応できる状態だった。


 そう、この時の梨理には全く油断など無かった。



 しかし突如、砂煙に大きな人型の影が現れた思った瞬間、先程まで慣れていた速さとはケタ違いのスピードで何かが梨理達に向けて近づいてくる。


 その近づいてくるものが巨大な手である事に気づいた時にはもう遅かった。


 梨理は何とか、足を怪我していて素早く動けないスチュワートを押しのけ、敵の攻撃の範囲外に逃がすが、自分はギリギリの所で避けられず、学園の壁まで弾き飛ばされ、そのまま衝突してしまう。


 「天喰(あまじき)さん!!」


 スチュワートは叫びながら、痛む足を引き摺り、梨理の衝突した校舎の壁へと駆け寄る。


 まるで子供が人形を放り投げて遊び、そして壊すように、巨大な敵によって、味方が吹き飛ばされて倒される。その光景は巨大なハーベストと戦う機会も多いスチュワートにはデジャヴのような映像だった。


 




 「痛ってえーな。ちくしょう」


 「・・・」


 「悪い会長さん。背負いながら戦うのはもう厳しいかも知れねー」


 スチュワートにとってそれは驚愕の状況だった。


 梨理は額から少し出血しているものの、軽傷と呼べるほどの怪我で済んでいた。


 「貴女、本当に何者なのですか!?」


 「ああ?今はそんなのよりアレをどうするかだろ?」


 梨理は自分を吹き飛ばした敵能力者を指さす。


 そこに居たのは、先程3m程だった身長を、倍近くまで大きくした例の狼男であった。


 「そう言う能力だったってわけか・・・仕方ねー、あれを使うか」


 梨理はゆっくりと立ち上がりながら、後半、スチュワートに聞こえないように呟く。


 「・・・天喰さんお願いがあります。貴方の能力を使ってくれませんか?」


 「はあ?どういう事だ?」


 梨理は困惑しながら答える。敵の能力者には言葉が通じそうも無い上、スチュワートは梨理持つ聖剣、”魂震”の事は知らない筈であった。


 それに加え、例え”魂震”を使ったとしても、そもそも心や理性を持たない者には効き目が無い。今回のこの敵がそういうものである可能性も十分に考えられた。


 しかし、このままだとほぼ100%勝ち目が無い。やらないよりはやった方がいい、そう考えた梨理は仕方なく聖剣を呼び出そうと腕を構える。


 「私に催眠をかけて欲しいのです。この足の痛みを忘れて、普通に戦えるようなものを・・・」


 スチュワートは梨理の方を向き笑うと、手に光が集結し、剣を形作る。


 「本気か?後がどうなるか分かんねーぞ」


 梨理は想像していたものと違う展開に少し考え、質問を返す。


 「大丈夫です。覚悟してます」


 「・・・はあ、本当に知らねーからな」

 

 スチュワートの表情は真剣であり、梨理もその決意を固めた表情を見て根負けし、ため息をもらすと能力を発動させた。

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