天地堕とし、学園防衛班 2
「ちっ、あの2人少し遠くに行きやがった」
淵と斬人が退室した教室のドアからゆっくりと顔を覗かせた梨理が呟く。
そんな梨理の行動を見たカトリーナは、面白いものを見つけたといった様子で梨理の居るドアの付近まで近づいて来て、梨理と共に廊下を覗く。
「梨理先輩、これはラブコメの波動を感じますよ」
「よし、偵察に行くかカトリーナ」
梨理とカトリーナは悪巧みをしている様な笑顔を浮べ、笑い合いながら廊下の方を指さす。
「カトリーナ、ひやかしは止めなさい。それに、天喰さん、貴女までこの教室を出て行かれたら、そちらの子達はどうするのです?」
カトリーナを注意し、梨理に忠告したスチュワートは湖畔と安住たちの方を横目に見て呟く。
「ちっ、分かったよ。・・・まあ、筵の嫌な予感は外れた事がないからな。別行動は危険なのは確かだ、淵はアイツに任せよう」
「はあ、それもそうですね。もしかしたら今すぐにでも、警報がなるかもしれませんしね」
梨理とカトリーナは淵たちの様子を伺いに行くのを諦めて、生徒会室内に戻り、窓の外を眺めながら冗談半分で笑う。
♪♪♪
カトリーナのフラグのような言葉から、一瞬だけ間が空いたタイミングで、ハーベストの襲来を知らせる聞き慣れた警報音が鳴り響く。
しかし、天地堕とし中のハーベストの対処を外部に委託している今の学園ではこの警報音は全く違う意味を持っていた。
「ついに来やがったな。湖畔君、手筈通り頼む。・・・って、カトリーナ早えな!」
梨理は警報音が鳴ると瞬時に湖畔に指示を出すが、その時には既に、カトリーナが湖畔に抱きついていた。
「梨理先輩、臆病者が世界を作るんですよ」
カトリーナがそんな、屁理屈を言っているうちに湖畔の周りに安住たちも集まり、湖畔は梨理に一礼すると皆を連れて影に隠れる。
「よし、いっちょやるか」
それを見届けた梨理は自身の片手の掌にもう片方の拳を打ち付け気合を入れた後、窓際まで歩いて行き、学園の校門付近に小さく見える何人かの敵味方綯い交ぜの能力者たちを見下ろす。
「・・・おい会長さん。敵の能力者って合計何人だったんだ?」
「えっ?ああ確か、付属中学に現れた者達を合わせると12人と聞いていましたがどうしたのですか?」
スチュワートはかぐやたち異変解決班に、敵襲があった事をメールで報告しつつ、窓際に近づき答える。
「ほらあれ、見た感じ4人しか居ねーけど、それっておかしくねーか?こっちみたいに防衛組が居たとしても、6対6に分かれるもんじゃね?ましてやこっちは敵の本拠地を特定出来てねーんだから、先手必勝で全員で攻めてきてもいいくらいのはずだろ?」
梨理の指摘の通り、学園の入口付近には刀牙、リマ、憩、海堂の4人とかろうじて能力を所持している何人かの能力者が、ハーベスト教団の高校生程の少女、小学生程の見た目の幼女、長身の男、さらにスライム状の何かの合計4人を迎え撃っている状況であり、その4人という数字に違和感が感じられた。
「・・・まさか!」
スチュワートは梨理の言葉を少し吟味した後、刀牙たちのいる方とは逆の方向の振り返る。
その瞬間、スチュワートの見た方向から爆音が響く。
「ちっ、誘導か?」
その爆音により梨理も当然のように、振り返り窓から目を離してしまう。
その時、突如として窓に巨大な人影が現れて地獄の底から響くような叫び声が上がる。
「ぐゔあぁあああ!!」
巨大な人影は拳を振りかぶり生徒会室の窓に向け殴りかかる。
「こっちもかよ、伏せろ、会長さん!!」
その不意を付かれた様な突然の状況に梨理は野生の感のようなもので反応し、スチュワートに声をかけて押し倒し伏せさせる。
直後、その巨大な人影の拳により、窓は破られ瓦礫が散乱し、煙が立ち籠る。
「あ、危ねー、フラグって本当にあるんだな。・・・湖畔君まだこの辺にいるなら、何が起こるかわからねーから避難しとけ」
梨理は何とか無傷で起き上がり、生徒会室に侵入してきた3m以上はあろうかと思われるその巨大な男を見上げつつ、見えない湖畔達に声をかける。
「な、何ですかこの人は」
その後、梨理に続きスチュワートもゆっくりと立ち上がり、その巨大な男を見る。
その男の容姿は例えるなら、人寄りのオオカミ男と言った感じで体の多くは毛に覆われていて、その目は血走り、決して正気とは思えず、同時に言葉が通じる相手にも見えなかった。
「あのー?会長さん。コイツあたしの能力が通じるように思えないんで、あたしも避難していいか?」
「・・・っつ、・・・え、ええ、それでは貴女はさっき爆音があった方に行ってください・・・」
スチュワートは少しだけ顔をしかめながら梨理に答える。
しかし、スチュワートが顔をしかめた理由は梨理の発言に対するものではない事はすぐに理解出来た。
「えっ、まさか足ぐねった?あたしのせい?」
「・・・違います。そもそも貴女が助けてくれなかったら最初の時点でやられていたかも知れません。むしろ感謝しています。・・・さあ、行ってください」
珍しく素直にZクラスの生徒に対して感謝を述べるスチュワートだったが、その足を見ると折れてはいなそうなものの、腫れ上がり、万全の状態で戦えそうには見えない。
「はあ、そんな状態の奴ほっとけねーだろう。・・・それに、あたしの能力は奴に効かなそうだがアンタの足には成れるだろ?」
梨理そう言い、男前な笑顔をスチュワートに向ける。
「ゔぅああごがぁあぁ!!」
その大男はさらに呻き声を上げると梨理とスチュワートに殴りかかる。
「よっと!!」
「えっええ!?」
大男の攻撃を見た梨理はスチュワートをお姫様抱っこの様に抱き抱えるとその攻撃を軽く飛び上がりかわす。
「へぇー、会長さん意外と軽りーな」
「ちょ、まだ刀牙にもされた事無いのに」
「まあ、死んだら2度としてもらえねーんだから仕方ねーだろ?・・・因みにあたしはした事もされた事もあるけどな」
「した事もって・・・」
攻撃を交わし敵から少し距離を取った梨理はスチュワートを一旦下ろし、しゃがみ込む。
「流石にお姫様抱っこだとやりにくいから、こっちでいくぞ」
「わ、分かったわ」
スチュワートは少し恥ずかしそう表情を浮べつつ、渋々、梨理に背負われる。
「よっしゃー、じゃんじゃん避けてやるから、しっかりと攻撃しろよ」
「ええ、分かってるわよ」
梨理とスチュワートはそう言葉を交わすと、恐らく自分たちの身長を足した数値よりも大きな身長をもつ、敵能力者を見上げた。




