天地堕とし、学園防衛班 1
筵たちの乗ったヘリコプターを見送った梨理を始めとするZクラスの留守番組と未来の子供たちは、再び生徒会室に集まっていた。
他の能力をまだ所持している者達は、校舎の外に出て見張りをしている者達とこの生徒会室で事務的な仕事をしているものとに分かれていて、その2つをどちらも行えないZクラス+αの面々は特に何をするでも無く暇を持て余していた。
「ああ、暇だなー。もう、このまま攻めて来ないで終わるんじゃねーの?」
「ちょっと梨理先輩それフラグですからやめてください」
梨理が椅子に腰掛け、暇そうに呟くと淵は少し慌てながら突っ込みを入れる。
「まあ、攻めて来たら来たで、最初の計画通り湖畔君の能力でみんな隠れれば問題ねーだろ。後は急にこの教室が爆破とかされない限りは大丈夫だ」
梨理はちょこんと椅子に腰掛ける湖畔、こんな時にスマホゲームをやっているカトリーナ、そして3人で話している子供たちを見渡し確認しながら呟く。
そして淵が梨理の再びの危うい発言に対して、”だからそれがフラグなんですって”と突っ込みを入れようとした時、代わりに何者かの声が響く。
「随分と余裕ですね。分かっていると思いますが貴女も少しは役に立ってもらわないと困りますからね」
その声の主は生徒会長の席でイライラした雰囲気で目の前の資料を見ていたスチュワートであり、梨理達のだらけた様子を見ると手を止め、横槍を入れてくる。
「へいへい、まあ奴等と交渉する機会があったら任せろよ。あたしの巧みな話術で無血に終わらせてやるから。・・・生徒会長も1人だけここに残って日室刀牙と別行動だからって、そんなにピリピリすんなよ。あたしを見習えって、筵達に置いていかれてもこの落ち着き様だぜ?」
梨理は斬人とスチュワート以外の主要メンバーが外で警戒に当たっている事を指して、そう言うと、スチュワートは梨理を軽く睨むように見る。
「まあ、あの薄っぺらな男では嫉妬のしようも無いのでは?」
「はあ?確かにアイツの薄っぺらさはスゲーけどよ、何事も度を過ぎれば一芸なんだぜ?・・・それにあんたの所だって顔がいいだけで、後は朴念仁で優柔不断であたしは面食いじゃないからちょっと無理だわ」
「なっ、私だって、みんな命懸け戦っている中、ただ安全な場所で不謹慎に遊んでいられる様な人、無理です」
「・・・ああ?、テメー、裸踊りでもさせてやろうか?」
「貴女こそ、私の能力のウォーミングアップになりますか?」
梨理とスチュワートはお互いに立ち上がり、今度は睨み合う。
「り、梨理先輩、こんな時に喧嘩なんてしないでくださいよ。あと安住さんも落ち着こうね」
淵はその喧嘩が始まりそうな雰囲気に割って入り、梨理をなだめると共に地味に怒っている様子の安住にも声をかける。
「生徒会長もZクラスに構っている暇ではないでしょう」
そして、ほぼ同時に、スチュワートの方は同じ学友騎士団であり、筵の送り込んだスパイでもある斬人が説得した。
その甲斐あって、梨理と安住、そしてスチュワートは不機嫌ながらも仕方なく、淵たちの意見に同意して、スチュワートはデスクワークに戻り、梨理と安住は再び適当な椅子に着席し、また暇を持て余し始める。
その様子を見た淵は安堵から来るため息をもらし、不意に周りを見渡すとスチュワートの近くに立っている斬人と目が合う。そして2ヶ月ほど前の初めて戦闘に参加した時の事を思い出した。
斬人は淵と目が合うとすぐに逸らして、仕事に戻ったが、斬人に対して気になる事が出来た淵は立ち上がり斬人に近づく。
「あの、破魔野先輩、少し話したいことがあるのですがいいですか?」
「え、ええ、何ですか?」
「ここでは少し話しづらい事なので、出来れば廊下でお願いします」
「・・・分りました」
淵の言葉に斬人は少しの間考え、その後それに同意し、淵と一緒に生徒会長を退出する。
そして、その様子を少しだけ不思議そうにその場に居た者達は眺めていた。
生徒会室を退室した淵と斬人は廊下に出て少し離れた、階段の踊り場の様な所に来ていた。
「破魔野先輩は筵先輩と知り合いなんでしたよね?」
「え、ええ、そうですが何か?」
淵の突然の問に斬人は少し驚きながらも、天使型ハーベストの一件でその事は淵に知られているため躊躇せずに答える。
「・・・あの、間違っていたらすみませんが、破魔野先輩はもしかしてハーベストとかじゃないですよね?」
淵は今思っている事を率直かつ、堂々と述べる。そしてその堂々とした様子からは、淵がその事をほぼ確信している事も伺えた。
「・・・何を突然」
斬人はその質問に少し焦りながらも冷静さを偽りながら答える。しかし、淵は斬人の微妙な様子の変化を見て、自分の考えが合っている事を確信し、話を続ける。
「今日、筵先輩たちの魔剣の事を聞いて、色々怪しいと思い始めたんですよ。そもそも筵先輩にAクラスの友人がいること自体がおかしな話です。さらにそれをひた隠しにするのも、時々、言わされているかの様にZクラスを下に見ている様な発言をするのに、天使型ハーベストの一件では筵先輩に頼まれたからと言って、常に目を掛けてくれていたのもの少し変です。そして、わたしにはそれが友人関係と言うよりも主従関係に思える・・・貴方が・・・そう例えば、筵先輩のお母さんの能力で召喚されたハーベストであると考えた方がしっくり来ます」
「・・・」
「それにわたしは、天使型ハーベストの襲撃の時に見たことも無いハーベストに助けられた記憶が薄らと残っています。あれは貴方ではないんですか?」
淵は探りを入れるように下から覗き込むみながら訪ねる。
それから2人とも押し黙り、数秒が過ぎ、斬人は諦めたようにため息をもらす。
「・・・はあ、筵様の言っていた通り、貴女は随分と目敏いようですね。・・・ええ、私は栖様により呼び出されたハーベスト。そして今は筵様の補佐役を仰せつかっています。鈍空様は気づくかもしれないから問い詰められたら正体をバラしていいと筵様より言われてはいましたが、まさか見られていたとは・・・」
「いいえ、さっきのは嘘です。しっかりと気絶してました。ただ貴方が本当は人間ではないということは何となく確信がありましたけど」
「・・・ふっ、なるほど」
斬人は手を握った状態で口元に持っていき、普段は見せない笑みを小さく浮かべる。
「・・・これは貴女にとって褒め言葉になるかは分かりませんが、今の感じ、なんだか筵様に似ていましたね」
斬人の笑みとその言葉に釣られ、淵も小さく笑い、少しの間、笑い合う。
そして、淵は先ほどの斬人の問に対する、嘘偽りの無い率直な感想を口にする。
「いえ、最高の褒め言葉ですよ。本人の前では絶対に言いませんけどね」
淵はそう言って、口元に人差し指を持っていき、照れくさそうに笑う。
「そうですか。それは嬉しい事です。それで私の正体を暴いて何をしますか、目的を聞きますよ?」
斬人は優しい口調で訪ねる。すると淵は少しだけ真面目な顔で斬人の目を見る。
「いえ特には何もありませんよ。破魔野先輩の正体がバレて困るのはわたしも一緒ですし、ただ、嫌だったんですよ。隠し事をされた事も、隠し事なんて誰しもがやる当たり前の事に腹を立ている自分も・・・だから全部知ってやるんです。全部知って、受け入れて、そして打ち明けてくれた時には、そんなのとっくの昔に知っているとドヤ顔で笑ってやるんですよ」
そう言った淵の顔は凛としていて、斬人は淵に対して数ヶ月前の事件で守っていた時とは全く違う印象を受けていた。




