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天地堕とし、異変解決班 前編8

 「ちなみにこの魔剣には、使用後、2分の1くらいの確率で使用者が死に至るという、それはそれは恐ろしいリスクがあるんだよ。だから出来れば使いたく無いんだけどなー」


 筵はわざとらしく棒読みで語りながら、禍々しい程に白いその容姿で笑ってみせる。


 しかし、風土にとって筵のその皮肉は、決して笑えるものでは無かった。


 風土は性格に難はあれど、人工能力者を実現させた人物であり、日本でも有数の天才である事は間違いなかった。


 故に今この状況が自分にとって好ましくない事に瞬時に理解出来ていた。


 「こうなったら毒ガスを・・・」


 「それは本当に困る」


 「・・・っ!?」


 風土が焦り、何かのボタンを押そうとした瞬間、高速で飛来する者により、風土のいる部屋のガラスが破られ衝撃が巻き起こる。


 そして風土はそれにより、数m後方へと飛ばされ仰向けに倒れ込む。


 小さく呻き声を上げながら状態を起すと、そこには圧倒的な黒さをほこる剣のような形の何かを持った筵の姿があった。


 「ならばこれならどうです」


 跪いた状態の風土は自身の手を筵に向けて突き出すと、服の裾の中から黒い蛇の形をしたエネルギー体の様なものが数匹現れ、筵に襲いかかる。


 そしてその蛇は筵の身体の至る所に噛み付く。


 「・・・はあ」

 

 蛇に噛まれた体を見下ろした筵は、ため息をつくと持っていた黒い剣を振るい蛇を振り払う。


 「いやー、君の言いたいことも分かるよ。この、まるで闇を圧縮して出来たかのような黒い剣はあまりにも、”アレ”過ぎるって言いたいんだろ?僕も思わずため息が出てしまうよ」


 続けて、その手に持った剣を苦笑いを浮かべながら眺めると、飽きたかのように、風土の方に目をやり、黒い剣は闇の煙のような物に変わり空気に溶けていく。


 「君の能力は強いけれど、今回は相性が悪かったね。今の僕はホワイトアウトで人間離れした身体になってしまってるから、人間には致死量の毒でも効かないんだと思うよ」


 「・・・」


 「ああ、もしかして、さらに強力な毒なら効くと思ってるかな?でもそれもどうだろう、僕の能力を考えたら時間の無駄なんじゃないかな?、・・・そう、例えば、超猛毒も薬物も、石化も幻覚も麻痺も、睡眠も催眠もそして、催淫(さいいん)も、そんなゲームで言うところの状態異常みたいなものは死んで直ぐに回復してしまうからね」

 

 筵はそう言うと、いつものように笑って見せ、一歩づつ風土に近づく。


 そして風土は筵の容姿と言動の噛み合わない不気味な雰囲気に怯え、後退りをする。

 


 「た、頼む命だけは助けてくれ!!・・・あ、ああ貴方なら分かるでしょう?私の発明はいずれは数百万という単位の人間を救う事になる。だがそれに比べて私が出した犠牲の数は百に満たない。殺す事と救う事は釣り合わないと世間は言うが、この一万倍の差を関係無いと一様に論ずることは出来ないはずだろう」


 風土は呆気なく、命乞いを始める。

 

 筵の立ち位置が風土に怒りを持つ人間だったなら、”ふざけるな”と怒りに任せて殴り飛ばして終わりだろうが、風土に何の恨みもない筵はその往生際の悪さと潔の良さに関心を抱いてしまう。


 それから筵は腕を組み、斜め上を見ながら風土の言ったことを吟味した後、口を開く。


 「・・・まあ、確かにそうだね〜。世界を救っている赤と白のヒーローだって、あの巨体で戦い合って誰1人踏み潰していないとは考え辛いが、あの世界で彼に文句を言う人間はいない。世界の平和が個人の平和より優先されると言うことはあの子供向け番組からも教訓として得ることが出来るこの世の摂理だからね」


 「お、おお!!さ、さすがは世界最強の能力者の息子。貴方なら分かってくれると思っていましたよ。そう世界平和のための僅かな犠牲なんですよ」


 風土は一縷の希望を見たかの様に前のめりになりながら語る。


 「世界平和の為の僅かな犠牲ね。確かにそんなのはあってはならないと言うのは、あまりにも綺麗事過ぎるよね」


 筵は打ち解けたかのような柔らかい口調でそう言い、風土は何度も頷き、相槌を打ちながら聞いていた。


 そして、言葉途切れ少しの沈黙の後、筵はため息をもらし話を続ける。


 「でもまあ、それはそれとして、取り敢えず犠牲者の無念を背負ってしまった僕としては、このまま音沙汰無しという訳にはいかない行かないんだ。だから一撃だけ殴らせてもらうよ」


 「ちょ、話が違っ!」


 さっきまでの許されそうな雰囲気だった事で緩んでいた風土の表情が焦りを帯びたものに変わる。


 「最初から、このまま見逃すなんて言ってないだろ?・・・でも安心してくれ、殺したりなんてしない。君が天才であり、君の研究がこの先、世界を救って行く事は紛れも無い事実。この世界には君のような奴も必要だ」


 「えっ?」

 

 筵は再び風土に笑ってみせると自身の拳を握り、気絶以上、死亡未満位の強さで風土を殴り飛ばした。


 

 


 


 ”おいおい、アイツあのままで良かったのかよ?”


 白いままの容姿の筵は気絶してしまっている繭里の事をかぐやに任せて最下層への道を1人で歩いていると、心の中に生意気な悪ガキのような声が響く。


 それは万年筆型の魔剣、サンスティロの物であった。


 「いいんじゃないかい?君のお陰で彼を無力化出来たし」


 ”まあ、そうだけど”


 「それに彼は間違いなく天才だよ?人工能力者も人間のハーベスト化も、とても画期的だ。冷静に考えてここで消えてもらうには惜しい存在だと思う」 

 

 ”仕返しされないように気をつけろよ”


 「ああ、だからそのために君を使ったんじゃないか?」


 筵はサンスティロとそんな会話をしていると、目の前にかなり怪しい、巨大なドアが現れる。


 恐らくロックが掛かっていると思われるそのドアは近づいても開く様子がない、仕方なく筵は再び闇の剣を形成して、ドアを斬り裂き、蹴破ると、その部屋の中へと入って行く。


 部屋の中心には巨大なクリスタルのような物が地面から天井付近まで伸びていて、その横には星宮蝶蝶が軽くクリスタルに触れながら立っていた。


 「貴方は筵ですか?少し見ないうちに随分と雰囲気が変わりましたね。そんな”カッコイイ”剣を使って、正直、幻滅です」

 

 「ははは、いきなり痛い所を付かないで欲しいな〜、僕も気にしているだから。それに僕は君を直接見るのは初めて、という事になっている。まずは自己紹介からじゃないかな?」


 そう言って2人は見つめ合い、筵は何時ものように半笑いを浮かべ、蝶蝶もまた、何時ものジト目でそれに答えた。

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