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天地堕とし、異変解決班 前編7

 「まあ、と言っても僕と君では根本的に違う。僕は屑ではあるけれど外道ではないからね。まず人を殺したりしない。まあ、そもそもそんな事する勇気がないのだけれど、それでも苦しんでいる人を見ても興奮したりしないし、友情を踏み(にじ)って遊んだりもしない。かと言って君のような人を見て、苛立ちを覚えたりするほど、正義の心を持ち合わせてはいない。東に病気の子供がいたら、遠くから回復する事を、夕食に好きなおかずが出てくれる事の次くらいに願い。西に疲れた実母がいれば、それはもちろん手伝って、死にそうな人を見て諸行無常を感じ、喧嘩や訴訟を他山の石とする。僕はそういう人間だからね」


 筵は持論を展開しながらゆっくりと風土のいる部屋に近づいていく。


 突然、割って入って行った筵により、良くも悪くも流れが一旦途切れ、繭里の暴走は一時的に収まり、それに気づいたかぐやが直ぐに繭里に駆け寄っていく。


 「ん〜、誰ですか貴方は〜。今せっかくいい所だったと言うのに」


 「ああ、ごめん、名乗り忘れたね。僕は本田(ほんでん)(むしろ)。ただの一般市民代表のような男さ。・・・そう、他人の不幸を横目に見て、同じ人間としては何かするべきだとは思いつつ、結局は何もしない。そんな一般市民のね」


 筵は何時もの半笑いに優しめの口調で喋りなから自己紹介をする。


 そして、筵があえて自分に注目を集めたという事に気づいたかぐやは、ぐったりと倒れ込んでいる繭里に手を貸して、端の方へ移動し壁にもたれかかるように休ませる。


 「本田(ほんでん)?と、言う事は世界最強の能力者の息子という事ですか〜」


 「まあそうだね。ああ、聞いた話によると、あの子の能力は母さんのが元になっているらしいじゃないか。にしてはイマイチではあるけど」


 「・・・」


 筵のちょっとした挑発により、風土は一瞬だけ眉を歪め、押し黙る。


 「いやー、それにしても日室刀牙と学園も酷いことをするよね。折角作り上げた英智の結晶である人工能力者を非人道的とかいう理由で没収するなんて。科学の発展に犠牲は付き物なのにね」


 筵はそう言うとその場にしゃがみ込み、骸となったハーベスト人間を観察する。


 「うーん、でもこれは、あれだね。犠牲者の憑き物にも十分気を付けた方がいいかもね。いつかバチが当たるかもしれない」


 筵の問を聞いた風土は下を向き、震えている。


 「・・く、・・くひひ、バチ?・・・バチですか〜、それはそれは、ご忠告ありがとう。でも、残念ながら幽霊は信じていないのでね。それに正義は勝ち、悪は負けるなんてものはマンガやアニメの中だけの話しなんですよ?・・・まあ、確かに私は前回、アイツに敗れましたが、しかし、それまでには何回も正義を気取ったヤツらを実験台にしています。ああそう言えば2人組のヤツらを殺し合わせた時は大変に興奮したものですね〜」


 風土は息を吹き返したようにそう述べると、今は攻撃を止めているハーベスト人間で戦力差を強調し、過去の思い出を振り返り興奮した様子で語る。


 「ふふ、君こそどうやらバチの正体に気づいていない様子だね。・・・それは、ただの人生における予測や回避不可能なミスもしくは不幸の事なんだよ。そして、日室刀牙の様な奴がこれを起すと周りからは手が差し伸べられ、僕や君のような奴が起すと、指を指され嘲笑され、”やはりバチが当たったのだ”と言われてしまう。これが嫌な奴にしかバチが当たらない理由さ」


 筵は回りくどくそう言うと、骸のハーベスト人間の目を閉じさせてやり、話を続ける。


 「そしてもう一つの幽霊の件もあながち、嘘でもないんじゃないかな?現に僕の知り合いに一人いるし、そうでなくても、君を倒してこの先に進み、異変を止めたいと考えている僕の心に、彼らの無念を一掬(ひとすく)いほど汲んでもいいと思っているからね。こうすれば君はこれから彼らの亡霊にやられる事になる」


 筵は語りながらゆっくりと立ち上がり、一度、かぐやのいる方を確認し、コンマ数秒ほど考え、直ぐに風土の方を向き直す。


 そして、右手を何かを持っている様に構えると、そこに闇の煙の様なものが集まっていく。


 「君は毒と薬を操る能力者らしいね。だから、目には目をということで、今回はこれを使わせてもらうよ」


 筵の手に集まっていた闇の煙はどんどんと何かの形に収束して行き、そして闇が晴れる。


 それは、大きめの注射器のような形をとっていた。


 「そ、それは魔剣?」


 「そう、これは酒刀(しゅとう) ホワイトアウト。見ての通り注射器型の魔剣さ」


 「ちっ、出てきなさいハーベスト人間ども」

 

 風土は筵を警戒して、さらに多くのハーベスト人間を呼び出す。


 「君たちの無念は晴らしてあげるから、大人しく殺されてくれ」


 左手の裾を捲り、少しだけ前に突き出した筵は、ホワイトアウトを針を左手の血管の辺りに突き立てた。





 十数秒後、ハーベスト人間は全滅し尽くされていた。


 それは、暗黒の黒髪を白く変色させ、漆黒の黒眼と白眼部分の配分を入れ替えた、一種の悪魔のような容姿の本田筵による所業だった。


 そして、その一瞬の出来事の目撃者であったかぐやは、ただただ唖然とすることしか出来ず、それと同時に、その白くなった筵の悪魔の様な容姿と強さ、さらに黙々と敵を倒し尽くした様子から、”暴走”の2文字が嫌でも浮かんでしまっていた。


 そして、ハーベスト人間の死体の山の中心に立つ、筵はそのおぞましい眼で周りを観察し、かぐやを発見すると、ゆっくりと歩み寄ってくる。


 「と、止まりなさい!」


 かぐやは近寄ってくる筵に聖剣を向けながら叫ぶ。


 もし、ここでこの状態の筵と戦う事になったら自分は勝てるのだろうか?そう考えると聖剣を持つ手が少しだけ震えた。 


 しかし、かぐやの後ろには、気絶している繭里がいる。最悪の場合を想定するならここを退く訳にはいかなかった。かぐやは覚悟を決め、聖剣を構え直す。


 だが、それでも筵はやや斜め下を見ながら、近寄るのを止めない。


 「ちょっと、しっかりしなさいよ。アンタそう言うキャラじゃないでしょ?」


 数mのところまで来た筵に対してかぐやが再び問いかける。しかしそれでも、筵はそれを無視し、かぐやの様子を上から下まで値踏みする様に観察する。



 そして数秒間後、それはかぐやにとっては緊張の時間だった。だが、その沈黙はようやく終わりを告げ、誰かが耐えきれずに笑い声をもらす。



 「・・・ふ、ふふ、いやーごめんごめん。途中で藤居さんが勘違いしてるのには気付いてたんだけどさ、面白いから続けちゃったよ」


 「えっ?」


 「だから至って普通の本田筵だよ?性格から価値観までね」


 筵はそう言い両腕を上げて、害がないことをアピールすると、かぐやは力が抜けたように座り込む。


 「は、早く言いなさいよ」


 「ごめんね。ああ、あとごめんねついでに、この事は内緒にしてくれるかな?その口止めをしに来たんだけど」


 「く、口止めやっぱり殺す気!?」


 「いや殺さないよ。それに強制でもないし」


 「ま、まあそれはいいけど・・・って後ろ、残党が!」


 話の途中、かぐやが筵の後ろを指差す。指した先には片腕を失い、すでに死亡していると思われていたハーベスト人間が残ったもう片方の手で筵に斬りかかろうとしていた。


 「いやー助かるよっ!!」


 かぐやの承諾にお礼を言いつつ筵は、振り返り、ハーベスト人間に斬られるより先に、手を手刀の様にして敵を切り裂くと、敵は片方の肩から、もう片方の腰にかけて両断されて崩れ落ちる。


 「な、なんです。その力は」


 風土が小部屋のガラスを殴りつけながら、少し焦ったような様子で言う。


 それを聞いた筵は、そのおぞましい容姿で何時もの半笑いを浮かべると得意げな表情を風土に向けた。


 「おや?知らないのかい?黒がイメージカラーの奴が白くなったり、逆に白がイメージカラーの奴が黒くなったりするのは急激なパワーアップを意味するんだぜ」

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