天地堕とし、異変解決班 前編5
「オレも悪運が強いみたいだね。命拾いしたよ」
「急に天井が崩落したのは驚いたが、でもあんな事なくてもやりようはいくらでもあっただろ?」
白々しく笑う譜緒流手に対して、少しの疑惑を抱きながらもそれに答える司。
再び、状況はお互いに距離を取り合いながらの硬直状態に戻り、お互いに出方を伺っていた。
譜緒流手はその時間を利用して再び、思考を巡らせる。
フェイトの能力について分かっていることは、まずビームを出す能力、そして未来を見る能力、さらに先ほどの反応から360°見渡す様な能力は宿している可能性が高いことも分かった。
そして、ここまで来るとある仮説が成り立つ、それはフェイトの能力が眼や見るという事に限定したものである事だった。
そして、眼に関する能力で絶対回避を可能とさせる残されたピースは何か?
読心、心眼、スロー再生、第3者視点、あるいはその全て。譜緒流手の想像できる範囲ではこの辺りだった。
譜緒流手にとってこの全てに対応出来る攻撃はいとも簡単な事ではあった。それはこの通路全体への逃げ場の無い最大質力の攻撃、しかし、それを使えばこの通路どころかビルを倒壊させかねない。
「なるほど、あなたの能力、見切ったよ。あなたの能力は眼や視覚に関する多くの能力を同時に宿す魔眼を操る事。そして、その眼に宿す能力はビームを出す事、未来を見る事、360°の視野を得る事、更にetc。それらの能力の併用が絶対回避の秘密だったんだね」
「・・・」
「・・・そして、ここからは予想だけど、絶対回避の肝となる未来を見る能力。それは遠い未来を断片的に見ている訳では無い、数秒後の未来を常に見ているんじゃないかい?だから、危機に気づくのがいつも数秒前なんだ。・・・しかし、能力も驚くべきものだけど、それらの視点を同時に処理できる、その脳が恐ろしいね」
譜緒流手は導き出した不確定で内心不安でもある推理をあたかも、完全に見抜いたと言うような自信満々な表情で言い相手の出方を伺う。
この行動には、相手の表情を見て合っているか確認する事ともう一つ、いると確信している見えない親友にこの事を伝える意味もあった。
「まあ、お前の予想が正解だったかは言わないがフェイトの本当に凄い所に気づいた観察眼は褒めてやるよ。だがそれが分かった所でどうしようも無いんじゃないかい?」
譜緒流手は司の返答を聞くと、小さく笑い山双を頭上で構える。
「いや、あるさ。・・・今からの君たちの数秒間を全て敗北で埋め尽くす!!」
譜緒流手はそう宣言すると、自分の言動と行動の意図が親友に伝わっていることを信じて、山双にエネルギーを貯め始めると、闇の粒子のような物が剣へと集まっていく。
「お前1人じゃ無理だよ。ましてや手加減してるんだろ?」
「ふっ、まあ、”1人”ならね・・・」
「・・・っ!!フェイトあいつの心を読め!」
譜緒流手は堪えきれずに不敵な笑みを浮べ、それに気づいた司は隣にいるフェイトに向って指示を出す。そしてフェイトは能力を発動させるが、時すでに遅しであった。
「もう遅いよ!れん子!!」
譜緒流手が叫んだ瞬間、譜緒流手と司たちの立っている丁度中間の場所の地面から何かが勢いよく飛び立った様な砂煙が上がる。
そして、フェイトは数秒後を見る魔眼の力で未来を予知し、何も無い筈の斜め上の天井を見上げる。
「半身よ、下がれ、あそこに何かいる」
「やあ、久しぶりだね」
何も見えていなかった天井付近に突然れん子が現れ、その手に持つ鞭、イロジカケには闇のエネルギーのような物が纏われている。
さらにそれと同時に司達と譜緒流手に、この場にれん子がいたという記憶が、何故忘れていたのか不思議な位にハッキリと蘇る。
「・・・なっ」
明らかに囮であるイロジカケから放たれた衝撃波による攻撃は、その役目をしっかりと果たし、大いに司達の回避スペースを制限させる。
そして攻撃を回避した先で、フェイトは見てしまう、数秒後の未来を。
そこには自分を庇い、譜緒流手の攻撃と真っ向から対峙し、そして何とか防いだ後、倒れる司の姿があった。
そして現実。フェイトの見た結末に向かい譜緒流手の魔剣、山双からは先程よりも強力な闇の斬撃が放たれ、フェイトの前方には司が割り込み、左手を襲いかかる斬撃に向ける。
更に司の左手には火、水、土、風を表した色の発光体の様なものが浮遊し、衝撃に備えるのだが、フェイトにはそれでは勝てない事が分かっていた。
そして予知をしたその瞬間。譜緒流手の攻撃が司達を呑み込もうとしたまさにその時。
フェイトは詰め込み過ぎな右眼の更なる能力を発動させた。
「逃げられちゃったみたいだね」
「ああ、まさかあんな事されるとはね。写〇眼かよ」
譜緒流手の攻撃により、倒れていた筈の司達が突然、霧のようになって消え去ったのを見たれん子達は呟く。
「まあ、男の人の方は、少しはダメージあったと思うから、この戦いからは退場してくれるんじゃないかな」
「はあ、とは言ってもオレも退場かな、だいぶ疲れたよ。あとは筵に任せてようぜ」
「そうだねー、私もアレやると一気に疲れんだよね」
譜緒流手とれん子はため息をもらし、その場に座り込む。
「ああ、れん子これ返すよ。と言うか何でこんなの持ち歩いてるの?」
「うーん、なんて言うか”戒め”かな」
「なんじゃそりゃ」
2人はそう言って笑い合い、譜緒流手はれん子に二つの円状の箱がついた手の平サイズの物を投げ渡した。




