天地堕としで・・・ 2
翌日、午後。
筵たち2年組は再び招集を受けて、生徒会室に集まっていた。
そこには能力をまだ所持している者達が、昨日とほぼ同じ位置取りですでに着席していた。そして今日は後ろ姿ではあるものの、日室刀牙の姿も確認できた。
「はあ、やっと来ましたねZクラス、早く座りなさい」
「呼ばれてからすぐに来たはずなんですけどね。まあ何分、Zクラスは学園の隅っこの方にあるもので」
スチュワートの小言を皮肉でスルーしつつ、筵たちは用意されていた椅子に座る。
それを見た、蜂鳥は手元にある資料に目を落とし、喋り始める。
「えー、昨日言っていた2班の組み分けが決まった。発表するぞ。異変解決班は藤居かぐや、名雲聖、白井繭里、本田筵、四ノ宮れん子、筒崎譜緒流手、以上だ。防衛班はそれ以外で、今回は数が多いので割愛させてもらう」
蜂鳥は班分けの発表を終えると、手に持った紙を置き、着席する。
Zクラスで唯一、梨理だけが名前を呼ばれなかったが、それは昨日の段階でせめて1人だけは防衛に回して欲しいと筵たちから頼まれた蜂鳥によって計られたもので、4人の中で唯一、自己防衛以外ができそうな洗脳能力持ちの梨理がそこに当てられたのは、妥当であると言えた。
ちなみに異変解決班に入っている白井繭里とは、日室ハーレムに最新で入った人工能力者の本名であり、ハーベストを呼び出すことの出来る能力者。
そして、名雲聖は幼女付きの魔剣使い。
「何というか、人を守るのに色んな意味で適していない者達が厄介払いされた感じだね」
「おい?それはどういう意味だぁ?」
筵の何気無い呟きを聞いた聖は怒りを帯びた表情で筵の方を振り返り、威嚇にも似た睨みを効かせる。
「そんな顔で見ないでよ。怖いなー。攻撃特化って事を言いたかったんだよ。ねー、ののみちゃんもそう言ってあげて」
筵は聖に睨みに対して、半笑いで返すと聖の隣に座っている幼女、山下ののみに話しかけるが、筵に急に話しかけられたののみは筵を警戒して押し黙る。
「はあ、ちょっとアンタ達、まとめ役の私の身にもなりなさいよ」
「あれ?藤居さんは何時からまとめ役としてこっちに配属されたと錯覚しているんだい?」
「えっ?ス、スチュワートそういう事よね。私、厄介払いじゃないわよね」
筵の作り真顔で放たれた言葉を間に受けてしまったかぐやは、振り返りスチュワートに訪ねる。
「かぐやさん、乗せられてますわよ」
スチュワートは少し慌てた様子のかぐやにため息混じりに答えると、話を仕切り直すために数回手を打つ。
そして生徒会室の、黒板代わりのモニターに地図が映し出され、天地堕としの効果範囲と思われる円が表示され、同時にその中心付近には赤く塗り潰された円も出現する。
「えー、ここからが本題ですわ。調査の結果、この異変の中心地の位置はだいたい把握出来ました。場所はここより北西に60kmほど行った所。この赤い円で示した範囲で高層ビルの建ち並ぶ地帯との報告がありました。よって異変解決班には今より1時間後、学園のヘリで現場に向かってもらいます」
スチュワートは表示された赤い円を指しつつ宣言する。しかし大体の位置は分かったのは大きいが、その赤い円は半径500m程はあり、実際に行ったら探すのに苦戦するのは目に見えていた。
「異変解決班はこの会議終了後、各自出撃の準備。そして防衛班は再び集まり見張りのシフトを決めます。・・・って、本田筵!携帯をいじってないでちゃんと聞きなさい」
「いや、聞いてました聞いてました。・・・あー、ところで、今現在ハーベストが出現したらどうすることになってるのかな?」
聞いてたと言いつつ、筵は尚も携帯を弄り続けていて、さらにそれと同時に質問を返す。
「えっ?あ、ああ、ハーベストの出現は、その間、民間に委託しています。今も数分前に小規模ですがハーベストの出現が確認され、向かってもらっています」
「ふーん?もしかしてその民間の人達ってハーベストが出現していなかったら防衛に来てくれる予定とか?」
携帯の操作を終了し、画面を閉じた筵はわざとらしく首を傾げる。
「ええ、まあそれは、そう・・・」
スチュワートは筵の質問に答えている途中、口を押さえ言葉を詰まらせる。
強化合宿で孤島に閉じ込められた時に、空の学園の防衛範囲にはワープホールが有り得ないくらいに頻繁に出現していて、その事からハーベスト教団は何らかのアイテムもしくは技術で小規模のワープホールを強制的に作り出せるのではないかという噂が流れていた。
そのことに気づいたスチュワートは作戦参謀である蜂鳥、同じ3年の海堂、そして刀牙の顔を伺い、アイコンタクトを交わし合う。
「・・・私の杞憂かも知れませんが、異変解決班は直ちに作戦を開始。防衛班は臨戦態勢で待機をお願いします!」
筵の意見を採用するのが癪だったのかスチュワートは一瞬、言葉を詰まらせたが、そこは学園の生徒のトップに立つ者。すぐに仕切り直し命令を下す。
そして、その命令により、その場にいた全員が立ち上がり忙しなく動き出す。
「じゃあ、梨理ちゃん行ってくるね。無理はしないでね」
「おう、おめーらもな」
そんな中、筵たちはほかの者達よりも少しだけゆっくりと立ち上がり、梨理に別れを告げる。
そして一瞬だけ、刀牙の後ろ姿を確認すると“早くしろ“と騒ぎ立てるかぐやの後を追って生徒会室を退出していった。




