浮世化異変で・・・ 8
「さあ、腹を割って話しましょうか先輩方。どうぞ席へついてください」
能力者たちの集まった会議では、大筋はスチュワートの2班に分けるという案で纏まったものの、結局具体的なことは決まらず、最終的には作戦参謀の蜂鳥などの教師陣に任せる事となり、その後、解散となった。
そして、Zクラスの生徒達と安住たちは地味に隔離された校舎の端にある自分たちの教室に帰って、結果を待つことなり、筵たち2年組は世間話をしながら、教室に入り自分の席に向かうが、淵を始めとする1年生組は真っ直ぐに教卓の前に立ち、先輩たちに着席を促した。
そしてその状況に空気を読んだのか一緒について来ていた安住たちはバレないように静かに退出する。
「さっきは流れ的に黙ってましたけど、きちんと説明してもらわないと困ります。作戦に参加するのは100歩譲っていいですが何で先輩達だけなんですか?」
「まあ落ち着けって淵、あの明らかに戦力不足の状況、コイツだけが戦いに参加するんじゃあ、向こうも納得しねーだろ?」
教卓から真面目そうな表情を浮べ訪ねてくる淵に対して、梨理は筵を指差しながら説得するように聞き返す。
「それだったら能力を無効化できるわたしや、影に隠れて攻撃を避けられる湖畔君も参加すべきだと思います。・・・それに梨理先輩が特に心配なんですよ。他の方達に比べて自分を守る手段が無いじゃないですか。いや梨理先輩だけで無く、他の方々もそうです。筵先輩はまあ置いておくとして、譜緒流手先輩は物理攻撃は無効でも、強烈な光や毒ガスとかは大丈夫なんですか?れん子先輩だって身体が常に火で覆われている様な能力者が来たらどうするつもりなんですか」
淵はそう言うと少しだけ呼吸を整え、一拍開けた後、続けて喋り始める。
「それとも何かあるんですか?例えば聖剣とか、まさか魔剣とか?筵先輩、わたし見てしまったんです武能祭の時に・・・」
淵は探るような視線を筵に向け、向けられた筵は周りを軽く見るとれん子、梨理、譜緒流手はまっすぐに淵の方を見ている。
しかし、それは知らんぷりをしているのでは無く、淵の追求に驚きながらも筵の判断でどっちにも対応できるように行動しているものであった。
2年組は全員、魔剣もしくは聖剣を所持していて、それをお互いに確認しあった訳では無いが、他の者が魔剣や聖剣を持っているとほぼ100%確信し、逆に自分がそれを持っている事を他のものたちに知られていると思っている、そんな関係性であった。
それ故に以心伝心で淵たちにこの事を知らせるか知らせないか、筵に託したのであった。
「はあ・・・いやー、見られてたか参ったな、ごめんね君たちにピッタリな剣を手に入れるまでは隠しておきたかったんだけど」
筵は少し考えた挙句、大きくわざとらしいため息をもらした後、諦めたように口を開く。
「筵先輩あんまり舐めないでくださいよ」
そんな筵に対して、淵は少しだけ怒ったような荒い口調でそれに答える。
「・・・どういう事かな?」
「さっきのブラフです。実際には何も見てません。ただずっとそんな気がしていただけです。・・・でも筵先輩がブラフという事を見抜いた上で騙されたフリをしている事くらいは分かっています。筵先輩から秘密を聞き出せたと喜ぶほどガキじゃありませんから」
そして、淵は少しだけ驚いたような表情の筵と一瞬だけ、見合うと間髪入れずに続きを話し出す。
「人が騙されたフリをする理由は、騙されたフリをした方が利益が大きい時。ここでの利益とは筵先輩が本当に隠したかった物を隠せるという事、そして、それは筵先輩に一泡吹かせる事が出来た、と言う達成感でうやむやに出来たかもしれないもの。・・・つまり何だか分かりますよね?」
「・・・ああ、分かるよ。でもそれは僕の口からでは無く、君たちの言葉で僕に突き付けるべきだ」
筵は1年生組も立派に成長している事を悟り、叱責を受ける覚悟を決め、淵に小さく笑顔を向ける。
「分かりました。では遠慮無く」
淵もそんな筵に軽く笑みを返すと息を大きく息を吸い込む。
「・・・わたしたちは実は先輩方がAクラス並に強かったとしても、見下されてると思い込んだり、ましてや先輩方の事を嫌いになったりしません!!舐めんじゃねー!!」
淵の怒鳴り声は、普段から大きな声を出し慣れていない人のそれであり、所々裏っ返ったりしていたが、それでも真剣さは伝わり筵の胸を打った。
筵は1度、淵に笑いかけると立ち上がり、教卓に立っている淵たちの前まで行き、そして、頭を下げる。
「ごめんなさい。御見逸れしてました」
それは芸術の様な謝罪であった。体は約70度に曲げられ体は微動だにしていない。
しかし、そんな状況に淵たちは慌てること無く、そのまま数秒の謝罪を受けた後、淵はため息をもらし口を開く。
「頭を上げてください。・・・以後気を付けて下さいね」
淵たちからの許しを得た筵は顔を上げ、そしてお互いに笑い合う。
それから話し合いが持たれ、魔剣や聖剣の事等について説明を行った。予想はしていたようだが、淵たちは実際にはそれらを見ると驚いていた。そして説明を終えると後腐れなく、ごく普通のZクラスに戻っていた。
「さすが筵先輩です。カッコイイです」
「しっかりと、うちにピッタリのヤツ見つけて下さいよ」
「わたしは要らないですけどね。自分で何とかしますから」
筵たちの話を聞いた1年生の反応は、様々であったが皆、その人らしい、いつも通りの様子で安心させられた。
「でも梨理先輩は本当に気を付けてくださいね。話を聞く限りでは少しだけ危なそうです」
「あ、ああ、任せろ」
梨理は少しだけ言葉を詰まらせながら答えと、そこに筵があえて皆に聞こえる声で呟く。
「梨理ちゃん、そっちも、もう隠さなくて良いんじゃないかな?」
「お、おい筵てめー」
梨理は筵を黙らそうとしたが時すでに遅し、その言葉は淵に聞かれ、しかもその事を知っている譜緒流手とれん子は首を縦に振り後押ししてくる。
「何ですか?まだ隠し事が有るんですか」
淵の再びの追求に観念した梨理は少しだけ嫌そうに口を開く。
「・・・はあ、分かったよ。これはあたしが何で能力無しの状態でもFとかEクラスの奴より強いかって話だ」
その後、梨理の口から話されたその話は、魔剣や聖剣の話並みに驚くべきものであったが、秘密を共有出来た、今のZクラスには何の問題もない、ただの武勇伝でしか無かった。




