浮世化異変で・・・ 6
ハーベスト教団襲撃よりは約1時間後。
Zクラス、クラス旅行を終え、学園へ帰還。
「いやー、やっぱり母校は落ち着くね~」
校門からZクラスと未来の子供たちを連れて学園内に入った筵は穴ぼこだらけになり、所々、崩れた学園を一通り見渡し呟く。
そしてそんな嫌われ者の凱旋を、校庭に出て怪我人の手当や、壊れた部分の一時的な補修を行っている生徒達は親の敵でも見るように睨んでいた。
「さすが筵先輩、この状況でその第一印象はなかなか出てきませんよ」
筵の少し後ろを歩いていた淵は呆れたような眼差しを筵に向ける。
「いやいや淵ちゃん、襲撃を受けた事を知っているから、対して驚いていないだけだよ」
「襲撃?そんな情報ありましたっけ?」
「あれ?何かニュース的なやつでやってた気がするよ。ハーベスト教団の能力者の襲撃を受けたって」
筵はいつもの半笑いではあるものの、少しすっとぼけた様なわざとらしい感じで説明すると、今度は譜緒流手が首を傾げる。
「能力者の?ハーベストではなくて?」
「あ、ああ・・・、ごめんごめんハーベストだったかも」
「何で全部曖昧なんだよ」
「おい、お前ら今まで、何してやがったんだ」
突然、筵たちの行く手を遮るように数名の人物が立ち塞がり、その中の代表者の様な者が怒鳴る。
筵はその人物達を見渡し、制服の紋章からCクラスの生徒である事を瞬時に理解する。
「いやー、僕達の所には連絡も無かったんでね。ニュースを見て状況を知り、おっとりと押っ取り刀で、旅行先から帰ってきたところですよ。ああ、お土産要ります?」
筵はそう言うと、手に持っていた紙袋を少しだけ前に差し出す。
その行動がさらに相手方の怒りに触れ、その代表者は筵の手を払い除ける。
「ふざけんじゃねーぞ。いつまで余裕でいるつもりだ?お前の自信の源である、能力はこの異変で無くなったんだろ?今までの仕返ししてやってもいいんだぞ」
「えー、止めましょうよ。怖いなー。今はそんな事で“仲間“同士争っている場合ではないでしょう?能力を失ったなら、せめて能力をまだ持っている人達の邪魔にならないように、せめて自分に何が出来るかを考えるべきでは無いですか?それが学園を死ぬ気で守ってくれた人達の為になると思いますよ」
正しく無い人物から出る正論。それはもはや“お前が言うな“という言葉を放つ気すら失わせ、先に拳を出させてしまう、それほど人をイラつかせるものだった。
次の瞬間、突如、逆上したCクラスの代表は筵の頬を殴り飛ばす。
なかなか大きな音が出る位の勢いで殴られた筵は吹っ飛ばされこそしなかったが、バランスを取り直すために1歩だけ後ろへ下がる。
そして殴られた頬をおさえながらも半笑いは崩さずに、Cクラスの人達の方を向き直すと再び口を開く。
「ちょっと、痛いじゃないですか・・・。まあ“痛覚は遮断“しているんで心がですけど」
筵に怒っている感じは無く、いつもと変わらない様子であった。そして、そんな不気味な雰囲気に呑まれたCクラスの生徒達は後退りをして警戒する。
また、Zクラスの反応というと、筵を心配している者、バチが当たったと冗談半分にからかう者、喧嘩腰になる者と様々であった。
そして、筵はそんな状況で喧嘩腰になっている者達をなだめると能力を発動させて、1度死にその後、復活する。
「まあ、僕達の能力は消えてませんがね、さあ、退いてください。これからは能力がまだ残っている人の邪魔にならないようにしましょうね」
筵はそう言うとCクラス代表の肩を数回叩く。
そして筵の能力、安定死考が健在であることを知ったCクラスの生徒達たちは、筵の言葉とZクラスの全員が能力を使えるという事実に、今度は劣等感で言葉を失ってしまう。
筵たちはそんなCクラスをしり目に、その間をかき分けて校舎へと向かおうとすると、Cクラスの生徒達のその後ろから、聞き覚えのある声が響く。
「アンタ達、なに喧嘩しているの!」
その声の主は、学友騎士団の1人にして、筵と譜緒流手の幼なじみ、藤居かぐやであった。
かぐやが筵たちに喝を入れると、続けて嫌そうな顔をしながら話を続ける。
「Zクラス!能力が残っているなら貴方達はこっちへ来なさい。能力が残っている者達で緊急の会議があるわ」
「いやー、無事で何よりだね。能力者が攻めてくるなんて大変だったでしょう?」
筵はかぐやに連れられて、まだ能力を所持している者達が集められているという、場所へと向かっている途中、少し斜め前を歩いているかぐやに話しかける。
「アンタに心配されたらおしまいね。・・・それに、そのことはまだ、マスコミにも伏せられていた筈だけど、何でアンタが知っているのかしら?・・・ああ、やっぱり言わなくていいわ、その分なら楼の居る中学も狙われたことも知っているわね」
「知っているよ。3人目が出てきた時は焦ったけど、無事でよかった。そっちは信用できそうな子も居たし任せてみたよ」
「中学の方はほぼ無傷だったという報告は私達も受けてるわ。・・・こっちはこの通り大変だったけど、理事長のお陰で何とかなったわ。まあ本人はそのせいで重症なんだけど・・・」
「理事長、大変だったんだね。・・・はいこれお見舞いの温泉まんじゅう。土日でクラス旅行に行ってきたからみんなで食べて」
筵は先程のCクラスの生徒にも渡そうとしたお土産を差し出すと、かぐやは諦めと少しの嫌悪感を持ったような顔で筵を見る。
「アンタは本当に不謹慎が服を着て歩いているみたいな奴ね」
かぐやの言葉に筵は顎に手を当て少し考え、一本取られたと言う様な表情に変わる。
「ほう、それはそれは、僕を表すのにこれ以上ないくらい的確な言葉だね。でもこれが僕だから仕方が無いよ。服を着ていないよりはマシだと、諦めてほしいものだね」
筵はかぐやに屁理屈をたれるとそれを聞いたカトリーナが、突然、筵の腕にしがみつき会話に参加する。
「そうですよ。藤居先輩。不謹慎が全裸で走っているよりは幾分もマシです」
突然会話に入ってきて、訳の分からないことを言うカトリーナに対して、困惑した様子のかぐや。筵はそんな様子を見るとカトリーナに笑いかける。
「ははは、カトリーナちゃん。何でも逆さの言葉にすればそれっぽく聞こえる法則を使いこなしてきたね」
「筵先輩直伝ですから」
Zクラスの嫌な師弟関係の2人はお互いに笑い合うと、筵はかぐやの方を向き直す。
「例えば“絵に書いたような不謹慎“という言葉があったら、“高感度2200万画素で写したような不謹慎“と言うだけでそれっぽくもじったみたいになるんだよ。これは名言の作り方とも少し似ているから藤居さんも今度やってみてみるといいよ。“夢は叶うものじゃない、叶えるものだ~“みたいな」
ここまで来るとかぐやの抱いていた少しの嫌悪感すら完璧に諦めに変わり果て、ため息をもらす。
「アンタのせいでこれからそういう名言をまともに受け取れなくなったわ・・・」
その後、会話は途切れたが、それから十数秒後、気まずさなどを感じるよりも先に集合場所へと到着し、ある教室の前で立ち止まる。
そこは生徒会室であり、その教室の大きさを考えると少し嫌な予感が頭を過ぎる。
そして、かぐやはドアを数回ノックし“失礼します“と声かけて生徒会室のドアを開けた。




