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浮世化異変で・・・ 5

 「くそが!!外しやがれ!!」


 「不覚」


 数分後、校庭には楼の鎖で身体を貫かれた状態で跪く灼火と達人の姿があった。


 彼らは、休み無く襲い掛かるゾンビハーベストたちに対応仕切れず、その波にゆっくりと押し潰されるような形で敗北することとなっていた。


 そしてその後、楼によって打ち込まれた鎖により、体の自由は完全に奪われ、睨みつけることしか出来ないでいた。


 そんな敵能力者を少し離れた場所から見下している楼の隣には紅來莉子がいい汗をかきながらも、呼吸は乱さずに立っていて、他の生徒会のメンバーは灼火にやられた先生達の手当を行っていた。


 「さあ、貴方達?確か、11人の能力者幹部と言っていましたね?どういう事か詳しく説明して貰おうかしら」


 「・・・」


 「なるほど口を割りませんか、これは拷問が必要ですかね?」


 楼は大悪魔(サタン)的な笑みを浮かべながら指を少し動かす。すると敵能力者たちは自身の首を自身の片方の手で軽く持つ程度に締め始める。


 「あるいは自分たちの能力で拷問されてみますか?」  


 「楼様、楼様。それよりもエクロキサの○○で廃人にしてしまうのはどうですか?」 


 「なるほど貴女にしてはいい考えね紅來莉子」


 2人の少女がブラックなガールズトークに華を咲かせながら、横目で少しだけ恐怖しているような表情の灼火たちを眺める。


 「ちょっとお二人共、 何を恐ろしい事言ってるんですか。ここは素直に学園の本部に連絡しましょうよ」


 そこに先程まで先生達の手当をしていた平山が、先生達の世話を低学年の生徒会メンバーに任せ、会話に割り込む。


 「だから平山!お前はなんで、私と楼様がガールトークに黒百合の華を咲かせているところに土足で入って来るんだ?」


 「え?黒百合の華!?・・・ああ、でも黒いって自覚はあったんですね!逆に少し安心しましたよ」


 「因みに黒百合の花言葉は“呪い“。この花言葉をお前に贈るわ。さっさと失せなさい」


 「花言葉を贈るというロマンチック行為を全然ロマンチックじゃない感じでされた!」


 手で払い出すようなジェスチャーをする紅來莉子に対して、平山がツッコミを入れる。するとそれを見ていた楼は小さく笑う。


 「良かったじゃない平山くん。黒百合には“愛“という花言葉もあるわよ。ヤンデレよ」


 「どちらの意味でも嫌ですよ!と言うか副会長は分かりますけど、何で会長も花言葉に詳しいんですか?」


 「失礼ね。私だって女の子なのだから花言葉の1つや2つ知っていても可笑しくは無いでしょう。弟切草とかトリカブトとか」


 「意味は分からないけど、いい花言葉でないことは分かる!もっといい意味の四葉のクローバーとか無いんですか」


 平山の問に、楼は顎に手を当て少しの間、考え込む。


 「いい意味と言う事は“復讐“ではないのよね?では何かしら・・・予想するに“選ばれし一握と踏み潰されるその他“とかかしら」


 「全然、いい意味じゃないですか!!・・・はあはあ」


 何回もツッコミを入れていた平山は、さすがに疲れたのか、息切れした様子で呼吸を整えると、ハッとして本題に戻る。


 「と言うかこの状況で、何時もみたいな会話している暇ではないですよ。とにかく学園の本部の指示を仰ぐという事でいいですね?それまでこの人達に手を出しちゃダメですよ」


 「はいはい指示を仰ぐのね。・・・まあもっとも学園がまだ崩壊していなかったらの話だけどね・・・」



 

 「それなら、安心してください。残念ながら、学園は無事ですよ」




 落ち着いた声が楼の疑問に答え、皆が声がした校門の方を見るとそこには灰色掛かった白髪でジト目をした少女がゆっくりと歩いてくるのが確認できた。


 その少女が歩く度に、足元から光る蝶がひらひらと飛び立ち、幻想的な雰囲気を醸し出していて、その怪しくも美しい光景に、楼は少しだけ警戒し、再び鎖を呼び出し構える。


 「貴女は何者、そいつらの味方かしら?」


 「一応、そういう事になっています」


 楼の質問に答えながら、尚も歩みを止めず、灼火たちの近くまで来たその少女は楼の鎖が刺さっている部分に触れる。


 すると胸に刺さっていた鎖はジャラジャラと音を立てて地面に落ち、灼火と達人を解放し、それと同時に2匹の蝶が舞う。


 「それではお二人共、撤退しましょう」


 「えっ?お、おい!!星宮、反撃しねーのか?それに学園が無事ってどーゆー事だ?」


 「残念ながら作戦は阻止されてしまったんですよ。流石は日本2位の能力者という所ですかね。龍子(どらこ)も敵の聖剣使いとの戦闘でハイになってしまいましたし、やむなく撤退するしかありませんでした。それでも一応、深手は負わせたと自負していますよ。それに引き換え・・・いえ何でもないです」


 「な、何だよ。・・・チッ、分かったよ」


 星宮と言う少女のいつものジト目で見られた灼火は仕方なく諦め、退却するため楼たちに背中を向け歩き始める。


 「逃げられると思っているのかしら?」


 楼は自身の周りに呼び出していた鎖で少女を貫く。


 しかし、次の瞬間には鎖は地面に落ち、再び光の蝶が舞う。そしてその少女は、顔だけで振り返り、楼をよく観察するにように見る。


 「なるほど、そのお顔、あの人の関係者ですか。となるとますます、戦いたく無いです。どうか逃がして欲しいものですね」


 「あの人?まさかお兄様の事かしら?」


 楼は表面は穏やかながら、少しだけ気が立っているような雰囲気を内に秘めながら訪ねると、今度は鎖を地面に刺し、臨戦態勢を取る。




 「生徒会長ダメです!!」




 そこに普段とは違うハッキリとした口調と真剣な表情の平山が叫ぶ。


 「おい、平山のくせに楼様に意見する気か」


 紅來莉子はそんな平山に対して睨みつけるが、当の本人はそれを完全に無視して尚もまっすぐに楼の方を見る。


 その様子を見た楼は、手を前に出し、紅來莉子を黙らせ、平山の顔を横目に見ると、臨戦態勢を解除する。


 「“戻ってきたのね“平山くん。・・・私は負けたのかしら?」


 「いえ、でも彼女と戦う事は霧と戦う様なものだったんです。あのまま続けていたら、きっと・・・」


 楼は真剣に語る平山の顔を品定めする様に見ると、ため息をもらし、鎖をしまう。

 

 「・・・まあいいでしょう。貴方の能力、一周廻った選択(テイク2)は主人公みたいで腹立たしいですが、信用に値します。・・・貴女、今日は見逃してあげます。取り敢えず名前を聞いておきましょうか」


 楼は平山に、見間違いかと錯覚させる程一瞬だけ、柔らかい表情を向けると、続いて敵の少女に問いかける。


 するとその少女は、今度は首だけで無く、完全に振り返えるとジト目で楼を真っ直ぐに見つめる。そして片方の足で地面を踏みつけ光の蝶を生み出すとその蝶は天へと登っていく。


 「ワタシは星宮蝶蝶。呪いの被害者です」


 蝶蝶はそう名乗ると、さらに振り返り歩き去ってゆく、そして先程の光の蝶が空にとけて消える頃には、星宮蝶蝶らの姿も見えなくなっていた。

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