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浮世化異変で・・・ 2

 一方、学園中等部、生徒会室。


 現在の時刻、午前11時。


 「楼様、こちらが結果です」


 「ご苦労さま」


 学園中等部、生徒会長である楼は副会長兼秘書の紅來莉子(くくりこ)から資料を受け取ると筵譲りの腐った目でそれに目を通す。


 「全く嘆かわしい結果としか言えませんね」


 「ええ全くその通りです楼様」


 楼の受け取った資料には浮世化異変に関する、現状報告と現在能力を使う事が出来る人物の名簿が記載されていて、その数はわずか12人であった。


 恐らく深夜に起こったであろう異変に対し、緊急で招集が掛けられ、学園やその中等部の生徒達は一度、それぞれの教室に登校し能力などに関する報告を行っていた。


 中等部の生徒達は一応全員が能力者ではあるものの、まだ完全に成熟してもいない上、その多くは学園に入学する事も出来ない能力者も多く、冷静に考えると12人は悪くない数字と言えた。


 「はあ・・・紅來莉子この異変がどのように起きたのか心当たりは無いの?」


 「申し訳ありません。存じ上げておりませんわ。どうか役に立たない私にお仕置きを」

 

 「・・・じゃあ、そこの端っこでドラゴンフラッグ、100回」


 「は、はい、分かりました楼しゃま♡」


 楼の冗談のように放たれた命令を受けた紅來莉子は、恍惚の笑みを浮かべながら、飛ぶように部屋の隅に移動し、紅來莉子の華奢な身体からは想像がつかない様な綺麗なドラゴンフラッグを始める。


 しかし、命令した張本人である楼はその芸術の様に整ったドラゴンフラッグをチラリとも見ること無く、先ほどの資料に再び目を通していた。


 何時ものと言えば何時もの学園中等部生徒会の姿がそこにあったが、それを打ち破る様に生徒会室のドアが勢い良く空き、慌しく1人の少年が入ってくる。


 その少年は中の中ほどの容姿と身長を持っていて、どうやらずっと走って来たようで肩で息をしながら、なんとか呼吸を整えていた。


 「た、大変です。生徒会長!!そ、ぞとが」


 「はあ、平山くんいいから落ち着きなさい。外が何なの?またハーベストでも出たのかしら?」


 楼に落ち着くように言われ、一度深呼吸をした少年は、手始めに何時もの恒例である名前に関する訂正を入れる。


 「あ、あの、取り敢えず僕の名前は平山じゃないんですけど・・・」


 「知っているけれど」


 「そ、そうですか」


 楼によって平山と命名されているその少年は、楼や紅來莉子と同じ3年であり、生徒会メンバーでもあった。そして多少なりと楼に気に入られている事から、紅來莉子からは強い敵対心を持たれていた。


 「おい平山!!さっさと要件をまとめて報告し、その後速やかに退出しなさい」


 「ふ、副会長?なぜ、そんな所に!?と言うかあの、スカートが・・・」


 ドラゴンフラッグを尚も継続している紅來莉子のスカートの中身は、入口の方から見るとまさに丸見えの状態になっていた。


 「はあー?スカート?んんなんどうでもいいんだよ。問題なのは私と楼様の百合百合空間に土足で踏み込んで来た事だろうが」


 紅來莉子の発言に平山は“この状況に一片も百合なんて要素無いよ“と心の中で突っ込みを入れつつ、実際には言えない完全な女社会の生徒会に思わずため息を漏らす。


 そして、そうしている内に気が付くと息切れも完全に治まっていて心も幾分か落ち着いていた。


 「生徒会長、とにかく校庭を見てください。先程、謎の侵入者がありまして、先生達がそれと交戦しているんです」


 「謎の侵入者って、校庭に犬でも出たの?」

 

 「そんな、学園生活のほのぼのしたワンシーンじゃないですよ」


 「あら、今もしかして、犬と“ワン“シーンを掛けたの?平山くんらしい。ユーモアだこと」


 「掛けてません。いいから見てください」


 平山に促され、楼はため息を1回吐いた後、重い腰を上げ生徒会長の席から立ち上がると、校庭が見える窓へと移動する。



 そして、楼が窓から外を見た瞬間、爆音が響き渡り、その後、爆炎が発生し、ガラス越しでも感じられるほどの衝撃があった後、校庭に巨大な爆煙を形成する。


 いきなりの事に2人は何も反応を示さなかったが、平山が驚き過ぎて言葉を失っていたのに対し、楼は水面を見つめているように冷静であった。


 暫しの沈黙を経て、段々と爆煙が収まっていくと、その煙の中から、倒れている教師陣の姿が見え、その中心でケタケタと笑っている古傷だらけのスキンヘッドの男が姿を現す。


 その男は校舎を値踏みする様に見渡し、楼のいる生徒会室を凝視する。


 それに怯えた平山は思わず一歩後退りをしてしまう。しかし楼はそれと対照的に一歩踏み出しガラスに手を付ける。

  

 「これはなかなかに汚い駄犬が迷い込みましたね」

 

 そう言って不敵に笑う楼はどこか楽しげでもあった。

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