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クラス旅行で殺人事件 後編 5

 筵が密やかに事件を解決した後、男子部屋に戻るため部屋の前まで来ると、そこにはドアにもたれかかった状態でスマートフォンを操作しているれん子の姿があった。


 そしてれん子は筵に気づくと、スマートフォンの電源を落とし、小さく笑いながら態勢はそのままに筵の方へ顔を向ける。


 「筵、お疲れ様」


 「お疲れ様って、僕が何に疲れていそうなのか知っているのかい?」


 「んー、半分半分?」


 れん子は筵の問に対して、悪戯な笑みを浮かべながら首を傾げる。


 「さっきの事件を何とかしていたって事は分かるけど、その方法と内容は分からない」


 れん子は笑みはそのままに瓶底メガネのフレームを指で押して掛け直し、話しを続ける。


 「でもそんなもの知る必要ないよ。だって筵は私たちを裏切る様なことはしない?違う?」


 「そうしようとは努力しているんだけどね。裏切るにも色々あるから、特に期待なんてものはこっちにその気が無くても知らず知らずに裏切ってしまうものだからね。日々ひやひやとしているよ」


 「その場合は私達が悪いって事だよ。私達が見る目がなかったって、それだけの事」


 「あれれ?それ僕が悪いってことじゃないかい?」


 「うーんまあそうなっちゃうかも。・・・でも人によって、どういう言葉がその人の為になるか考えて言ってるつもりだよ。筵にはこのくらい言った方がいいでしょ?」


 そう言って再び微笑むれん子の表情には、邪気が感じられ無かった。しかしそれは無邪気という訳ではなく、内に潜む邪気を征しているような印象であった。


 筵もそんな雰囲気を感じ取り、れん子の持つ一本真の通った大物の風格の様なものを再確認し、つられて笑みを浮かべる。


 「やっぱりれん子ちゃんには勝てないな〜・・・れん子ちゃんはきっと良い教育者とかになるよ。そして母親にもね」

 

 「ははは、そうかなー」


 そうして少しの間、笑い合うとれん子はドアにもたれかかった状態から歩き出し、筵の近くまで近寄り、その肩を軽く叩く。


 「・・・ふう、じゃあそろそろ私は自分の部屋に戻るね」


 「そうだね。おやすみ」


 筵は笑いながられん子の歩き去る後ろ姿を見送ると筵も男子部屋へと戻っていった。





 


 数十分後、れん子と別れて部屋へ戻ったはずの筵は再び、旅館の廊下を大浴場に向かって歩いていた。


 「あれ?筵もまた温泉?」


 丁度、大浴場の前の辺りまで歩いて来たところで、同じく温泉に入りに来ていた譜緒流手が声をかけてくる。


 「おや?譜緒流手ちゃんじゃないか、今何時だと思っているんだい?良い子は寝ないとダメじゃないか」


 「オレたち同い年の幼なじみだよね!?それにまだ12時過ぎだし、旅館に来たら3回は温泉に入るのが礼儀だろ?」


 譜緒流手は筵の真横まで駆け寄ると首を傾げ、覗き込むように筵を見上げ質問すると、共に大浴場に向かって歩き始める。


 「3回か〜、僕は今初めて入るからハードル高いな〜」


 「おいおいやる気あるのか?む<チェックインしてちょっとしたら1回、夕飯食べてから1回、あとは寝る前に1回と朝風呂で1回、常識だろ?」


 「それ3回じゃなくて4回入ってるけどね」


 「オレとしては寝る前と朝風呂どちらかは、苦肉の策、断腸の思いで諦めてもいいって言う配慮だよ」


 温泉というものに対して、譜緒流手が持論を展開していると、筵はなにかに気付いたように片方の掌に拳を打ち付ける。


 「ああ、でも僕の能力は死んで蘇ると体も綺麗になってるから、丁度、密室殺人で死んだしお風呂2回目と言ってもいいかも」

 

 「分かってないね筵。温泉とお風呂は違うからね。温泉は娯楽に近いから、身体を綺麗にするために入るってだけじゃ無いんだよ」


 譜緒流手はため息をもらしながら、首を横に振る。


 そしてその後、少しだけ真面目な表情に変わった譜緒流手は筵の方を真っ直ぐに見つめる。


 「・・・ああ、あと筵にこういう事、言うのは釈迦に説法かもしれないけど、死んでも直ぐに蘇れるからいくら死んでもいいととか、そういう考えは止めとけよ。今日だってお前が殺された事に対して、心痛めずに、すぐに復活できるからどうでもいいと思ってる奴はZクラスにはいないからな?」


 譜緒流手の真剣な表情から出たその忠告は筵にとっては、分かりきった事であったが、改めて譜緒流手の口から言われる事に大きな意味があった。


 「・・・それは正しく釈迦に説法だね・・・。でも常に心に留めている事だとしても、違う人から、特に譜緒流手ちゃんとか言われると、身が引き締まる感じがするからこれからも何かあったら言ってほしいかな」


 「まあ、任せろよ。・・・ああ、あと色々とご苦労さん」


 譜緒流手は再び、筵の顔を覗き込むように見上げると優しく微笑む。


 そして、譜緒流手は少し駆け足で、今いる所から数m離れた場所にある女湯と書かれたのれんの前まで行き、そこで振り返る。


 「オレ、長いからあがったら先に帰ってていいぞ」


 譜緒流手はそれだけ言い残すと勢いよくのれんをくぐり、女湯の中へと消えて行った。 

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