クラス旅行で殺人事件 後編 3
「まさか全員能力者とは驚きましたね」
容疑者の中年男性、若い女性、三十路ほどの女性の3人の話を聞いた淵が筵に苦笑いを向ける。
「あれ?能力者って100人に1人くらいの設定じゃなかったっけ?」
「いや、設定ってなんですか?・・・まあ一般的にはそう言われていますけど」
「これも僕の悪運のなせる技だね。・・・待ってて今から対策考えるから」
筵は表情を崩すこと無く、片方の手の人差し指をこめかみのあたりに押し付ける。
「何ですかそのポーズ、一休さん的な感じですか?」
「これから僕の決めポーズにしようと思っいるポーズだよ。真似しないでね」
「誰も真似なんてしませんよ。あと自分から決めポーズにしようとか言わないでください・・・」
淵が呆れたように言うと、そこで一旦会話が途切れる。
そして筵は本当に何か考えているように数十秒黙り込み、その後口を開く。
「取り敢えず整理したいから、一人づつ名前と能力の詳細をお願いしていいですか?」
「散々考えた挙句、クソみたいな結論ですね」
「淵ちゃん、散々考えて結局、一番最初に考えていた事に回帰するのはよくある事だよ。だからって僕は回帰するまでに費やした時間を無駄だとは思わない。それは叶わなかった努力は無駄だというのと同じくらいの暴論であり、月並みな事を言うなら考えた結果、最初に思い付いたものがもっともいい結論であるという事が分かったという事であり・・・」
「ああ、もういいですから、早く聞きましょうよ」
淵は聞き飽きた筵の屁理屈を終始呆れ顔で聞いた後、適当なところで割って入る。
割って入られた筵もどうやらツッコミ待ちだった様で、特に表情を変えるわけでもなく、1度咳払いをした後、容疑者たちの方を向き直す。
「では、まずはあなたから話を聞かせてもらいましょうか。貴方たちの能力で密室の部屋の中にいる人物を殺すことが出来るのかどうかをね」
筵は最初に浴衣を着た中年男性を指名し、不適な笑みを浮かべると自己紹介と自身の能力の紹介をするように促す。
「あ、ああ、分かった。俺は代永大作。年齢は38歳で一応小説家だ。能力は骨折り折り紙。これは紙を操る能力で、紙を何枚も貼り重ねることにより簡単なものなら作れ、その紙を固くしたり、刃物にしたりすることが出来る。ただ俺は複雑なものは作れない上、部屋中にいる奴を操った紙で攻撃するなんて芸当出来ないぜ」
「・・・成程、あなた」
筵は一通り、素性と能力について語った大作の顔をのぞき込むように見て言葉を続ける。
「僕の活躍を元にのちのち、“被害者探偵“的な小説を書いて一発当てそうな雰囲気ですね?」
「えっ?何言ってんだ?お前」
脈絡無く会話が変化させる、筵の悪い癖であり、会話のペースを掴むテクニックでもあるその言葉使いにより、大作もそれなりに翻弄された様子で頭の上に疑問符を浮かべる。
「ただの冗談です。うーんなるほど。・・・ではいくつか質問させてもらいますが、紙を使って簡単なものなら作れると言いましたが、それはどの程度のものまで可能ですか?」
「そ、そうだなあ、何枚も貼り付けて刀とか棍棒とかかな?後は能力名の通り、折り紙で手裏剣とかを作れば、それを刃物にして攻撃する事くらいは出来るぜ」
「そうですか~、・・・つまり整理すると貴方の能力は、遠くにある紙を自由に動かすことは出来ないが、しかし、能力を用いて変化させた紙が、自分から離れても紙の硬質化や刃物化を継続させることは出来るという事ですね」
「まあそんな感じだ。もっとも俺はEクラスだったからな〜、上位の同能力保持者なら紙をドアの隙間から侵入させて、そのまま操り攻撃も出来るだろうが、俺にはできねえよ。まあ、俺が本当の実力を隠していると言われたら、それを否定する方法もないけどな」
「大丈夫です。嘘を見抜くのは得意ですから。・・・では次の人お願いします」
筵は少しの質問を終えると、大作に半笑いを向け、次の容疑者である、若い女性に話を振る。
「次は私ね。私は宮守穂麻里。年齢は24ね。仕事は地方アナウンサーって奴かな。能力は風神の息吹。まあ風を操るって言うわかり易い能力よ。そして確かに私の能力なら部屋の中にいる人を攻撃出来る、それは確かよ。でも、風を操るのはそんなに単純な事じゃないわ」
「と、言いますと?」
「じゃあ、逆に聞くけど貴方がよく分からない衝撃で死んだ後と前とで、部屋の中が荒れた形跡はあった?」
「そうですね〜、“僕の能力って復活する時に、死ぬ間際の記憶が少し曖昧になってしまうんですが“それでもそんな形跡は無かったと思いますが?」
筵の返答を聞いた穂麻里は少しだけ安心したように、表情を柔らかくする。
「確かに私に部屋の中にいる人を攻撃することは可能よ。だけど、あなたが部屋の何処にいるか、分かっていたならともかく、そうじゃなかったら部屋全体に攻撃しなくてはならないから少なからず部屋が荒れるはず」
「風を操ることが出来れば、それで中の様子とか探れたり出来ないんですか?」
「貴方それは漫画の読みすぎ。どんな強い風使いでも、そんな風に風を使えたりしないわ」
「ふむふむ」
筵は顎に手を当てながら、少しだけ小馬鹿にしたように笑う穂麻里の顔をよく観察する。
「まあとりあえず信じましょうか。では最後の方お願いします」
一旦、穂麻里の主張を信じた筵は、最後に三十路近くの女性の方を向き、手を前に出して“どうぞ“というようなジェスチャーをする。
「え、ええ、私は譲原真弓、年齢は29で銀行で働いているわ。能力は錬鉄錬金、これは鉄を操る能力で、さっきの小説家のおじさんの鉄バージョンって感じかしら、それに私も能力者としてはあまり強くないから能力で部屋の中の人物を攻撃するのも不可能よ」
「大作さんと同じような能力という事は鉄を加工してある程度のものなら作れるという事ですか?」
「まあね、でも本当に単純なものしか作れないわよ?」
「なるほど〜、・・・では今からいくつかの物を言いますので、どれなら能力で精製可能か答えてもらっていいですか?」
筵はそう言うと適当に鉄製の物をいくつか選別し質問する。
「ナイフ、コップ、ネジ、クリップまあこの辺ですかね?」
「そうねぇ、ナイフとコップとクリップは作れるかしら?ただクリップも市販されているものと全く同じものを作ることは出来ないわ。例えるなら、そこまで絵心のない人が絵を模写するのと同じようなイメージよ」
「ん〜、なるほど、分かりました」
真弓が質問に答えるのをまじまじと見ていた筵は納得したように頷き、左手の掌に、右手の拳を打ち付ける。
すると、その様子を見た淵が横にいる筵の顔を覗き込む。
「で、筵先輩。犯人は分かったんですか?」
「それは全くわからないね〜。分かったのは、今の所ここにいる3人は嘘をついていないという事だけ」
「なるほど、迷宮入りということが分かりましたね。取り敢えずこれ、解散ということでいいですか?」
淵は呆れたような表情で若干、冗談混じりに訪ねる。
しかし、淵の思惑とは裏腹に、解散すると言う意見は筵に採用されてしまう。
「・・・まあ仕方が無いね。では一旦お開きにしましょうか。勿論、皆さんの秘密は絶対に口外しないことをお約束させてもらいますので安心してください」
筵の言葉を聞いた容疑者たちは、あまりにも呆気なく解散になった事に面をくらった様な反応をした。
しかしその後、ぞろぞろと男子部屋を退出し、それぞれ自分たちの部屋へと戻って行った。
「わたしが言っておいてなんですけど、本当に解散して良かったんですか?」
「まあ餌は撒いたからね。後は引っ掛かってくれる事を祈るだけさ」
「餌ですか?・・・それって、まさかあの部屋が荒れているかいないかの時についた嘘の事ですか?」
淵は小声で筵にだけ聞こえるように質問をするが、筵はその質問には答えずに少し不気味な笑みを浮かべていた。




