クラス 旅行で殺人事件 前編 4
“第三の魔王型ハーベスト討伐の英雄、本田古巣“
ハーベスト博物館の入口を入ってすぐ、そう説明書きがされた美化され過ぎてもはや誰かわからない、なかなか豪華な大理石の台座に乗った銅像を、筵たちはなんとも言えない顔で眺めていた。
筵たちはハーベスト博物館を一通り回っていて、その内容が、ほとんど本田古巣記念館であったことに落胆していた。
「まあ、ここは彼女の地元だし仕方ないよ」
筵は子供たちの肩を軽く叩き、次に進むように促す。
「なんじゃ〜、こんな所に鏡があるぞ〜」
筵たちがその銅像に背を向け立ち去ろうとすると、後ろから聞き覚えのある棒読みの声が聞こえてくる。
筵は数秒のタイムラグを経た後、声のした方へ振り返るとそこには、自分の銅像と肩を組んでいる古巣が浮かんでいて、ツッコミでも待っているかのようにニヤニヤとしながら筵の方を見ている。
幽霊である古巣は普通の状態では本田家の血筋のもの以外からは見えない。そのため銅像に抱きつくと言うSNSに投稿したら、即炎上しそうな行動をしていても騒ぎにはなっていなかった。
「これはこれは御先祖様、本当に“素晴らしい出来の鏡“ですね」
「ん〜、それはどう言う意味じゃ〜」
「いやだな〜、そっくりって事ですよ。・・・ああそう言えばみんな知ってる?、服屋の鏡って、ちょっとだけ凸面鏡になってて普通より痩せて見えるんだよ。だから気をつけた方がいいんだってさ」
筵は古巣に対して何時もの半笑いで返したあと、子供たちに豆知識を披露する。
「なんで今その豆知識を思い出したからは、聞かんでおこうかの〜」
古巣も筵の皮肉をあまり気にしていない様子で笑い飛ばすと、1回、空中を舞った後、筵たちの前に降り立つ。
「おお!!そこに居るのは、わっちの、え〜っと、玄孫たち?ではないか」
「ど、どうも」
「こんちわ〜」
「どうもっす」
急に古巣に話しかけられ、安住は驚き一歩引いて筵の影には隠れ、愛巣、アジトは普段と変わらない様子で返事を返す。
「なんじゃ、安住や。そんな怖がらんでも乗り移ったりはせぬぞ?」
「また懲りずに乗り移ろうとしたんじゃないですか?楼ちゃんの時みたいに」
「濡れ衣は困るの〜、そんなことした覚えは無いぞ。まあ未来の話は分からんがな」
古巣はそう言うと、更に筵の奥に隠れた安住をのぞき込むように見る。
「この様子だと、本当にやらかしてしまったらしいので、取り敢えず、安住ちゃんに謝ってもらっていいですか?」
「なんと!?未来の事を謝るハメになるとはの〜、・・・まあ良いか、謝る事だけならタダじゃし、嫌われるならともかく、怖がられてはやりづらいからの〜」
古巣は空中で浮いた状態で三指をつき、土下座の態勢をとる。
「この度は、本当に申し訳なかった。この通りじゃ。多分また繰り返すだろうが、深く反省しておるから許してくりゃれ」
古巣の今までのしてきた事に対しても、反省の気持ちゼロの謝罪に、やはり血は争えないのだと思えた。
「御先祖様のそういう所、僕は嫌いじゃないですよ。・・・安住ちゃんもこれで取り敢えず普通に話してあげて」
「まあ、パパが言うなら」
筵は安住に優しく語りかけると、安住はゆっくりと頷きそれを承諾する。
ドドドドドド!!
筵たちは古巣と和解して、次を見て回ろうとしていると機関銃の銃声の様な爆音が入口の方から響いた。
そしてゾロゾロと軍隊の服のようなものを着て機関銃を持った男女入り混じった者達が侵入してくる。
その者達は入るなり、機関銃で展示されているものを撃ち破壊していき、その破壊活動は先程の、古巣の銅像にまでおよび、粉々に破壊される。
「ああ!!わっちの銅像が粉々になってしも〜た」
館内はその集団の破壊行為により、パニックになっている中、古巣は自分の銅像の元まで飛んで行き、死傷を受けた戦友にするように寄り添い涙を流す。
しばらくすると、銃声は止み、その集団のリーダーらしき人物が一歩前に出る。
「我々の目的は、この博物館の展示物の破壊のみだ。変な行動を起こさなければ殺しはしない」
集団のリーダーと思わしき人物がそう叫び、ほかの客たちに動かないように指示を出し機関銃を向ける。
「ゆ、許さんぞ。わっちの銅像を粉々してからに、・・・行け!!我が子孫たちハーベスト信者共をボコボコにしてしまうのじゃ!!」
古巣は勢いよく飛び上がると、ほとんど古巣記念館と化しているこの博物館を破壊しようとするヤツらをハーベスト信者たちだと判断し、その集団に向かってビシッと指を指す。
「はい、みんな危ないから僕の後ろに隠れてね」
「何じゃ筵、わっちの銅像が破壊されたんじゃぞ。もっと悔しがらんか」
筵は冷静に子供たちを自分の後ろに誘導して庇うように位置取っていて、それを見た古巣は筵に対して抗議をする。
「おい、そこうるさいぞ!!・・・っ!?」
ハーベスト信者のリーダーはざわざわとうるさい筵たちの方に機関銃を向けて威嚇する。
しかし、すぐにまるで幽霊でも見たかのような血の気の引いたような顔になる。そしてその表現は正しく正解であり、ハーベスト信者のリーダーは古巣の姿を目撃してしまったのだろう。
古巣は普通は本田家の血筋の者にしか見えないが、ボルテージが高まってしまったことにより、他の者にも目撃できるようになってしまったようだった。
それに加えて、その幽霊が第3の魔王型ハーベスト討伐の英雄だったのだから、ハーベスト信者として思わず発砲してしまう理由には十分であった。
そして、次の瞬間には錯乱したハーベスト信者は古巣に向けて機関銃を乱射していた。古巣は幽霊なので当然のように銃弾をすり抜けたが、問題なのは近くにいた筵達であった。
筵は錯乱した様子のハーベスト信者を見るなり、子供たちを庇うように床に伏せさせ、その上に多いかぶさり、そのまま弾切れするまで待った。
「御先祖様困りますよ。彼らから見たらあなたは宿敵ですよ」
筵は銃声が収まった後、子供たちが無事である事を確認すると横にいる古巣に向かいため息を漏らしながら忠告する。
「すまんの〜、おや筵、そこ怪我しておるぞ」
「本当だ、痛覚を遮断していたので気づきませんでした。ははは」
筵は先程の銃撃で足に軽傷を負っていて、それを自身の能力により一度死に、復活する事で回復する。
その一連の動きにより筵が能力者であることがハーベスト信者にバレてしまい、本格的に戦う雰囲気になってしまっていた。
「全く仕方が無いな〜、君たちは頭を低くして隠れててね」
「□□□□□□□」
「あれ?安住ちゃん」
筵の言う事を無視した安住は俯き何かをボソボソと言いながら立ち上がる。
そして、安住の手元に禍々しい闇が煙のようになって集まり、凝縮して大きめの拳銃の様なものを形作っていく。
筵も見慣れているその禍々しい闇は、まさしく魔剣を呼び出す時のものであった。
「外刀、“銃持たせ“。パパを傷付けた罪償ってもらう」
怒りに満ちた表情の安住は“銃持たせ“を両腕で構えると、ハーベスト信者達に向け引き金を弾いた。




