クラス旅行で殺人事件 前編 3
筵が娘の一言により、死傷を負ってから、更に十数分ほど坂道を道沿いに歩くと、目的地である温泉旅館が姿を表した。
その旅館は決して大きくは無く、新しくもないが、嫌な感じの古さではなく老舗感があり、なかなかいい雰囲気を醸し出していた。
「ここが、オレ達の泊まる旅館か、風情があっていいじゃん。オレはてっきり強化合宿の時みたいなのを想像してたよ」
「譜緒流手ちゃん、それはあそこにいる一星君の友人に失礼だよ」
筵は譜緒流手の少々失礼な発言に答えながら、一足先に旅館の入口の前で待っていた、この旅館の息子である一星の友人を指差す。
旅館の息子は法被を着用していて、もてなす気満々な様子であり、そこに駆け寄っていった一星と少しだけ話すと、活気のいい声でその場にいる全員を旅館の中へと誘導する。
そして旅館内に入ると、一通り、部屋や大浴場などの説明を受け、そのまま部屋へと通される。
簡単に説明すると、この旅館は東棟、西棟に分かれていて、筵達は東棟に一星たちとは別で、男子部屋、女子部屋1、女子部屋2と言うような割り当てで部屋を借りていた。
しかしながら、Zクラスのメンバーは一度、それぞれの部屋に荷物を置いた後、Zクラスと同様に、当たり前のように、もしくは習性であるかのように一つの部屋へと集合し、これからの予定を話し合おうとしていた。
最初だけは真面目に話し合いをしていたのだが、なかなか決まらずに、結局、予定を話し合うのを止めてくつろぎ始めていた。
Zクラスのメンバーは揃いも揃って、教室での自習時間に使っている暇つぶしアイテムで持ち出すと、それぞれが窓際の椅子に座ったり寝転がったりしながら自分の世界に入ってしまっていた。
その姿は最早、教室で自習しているのと何ら変わらない状況であった。
「あ、あの、パパ、何この状況は?」
その状況に唯一、異論を唱えることが出来た安住が苦笑いを浮かべながら筵に訪ねる。
同じ未来の子供たちでも、アジトと愛巣は既に場に適用してしまって、漫画を読んだりゲームをしたりしていた。
「皆、旅行というある意味での非日常の空間で、普段通りに過ごすと言う、例えるなら真夏に冷房を効かせた部屋で、熱々の鍋を食べる的贅沢感を感じているんだよ」
「分からなくはないですけど、そこはカキ氷を食べようよ!?」
安住はそう言うとロビーにあったパーフレットを筵に渡す。そこにはこの旅館の近くにあるレジャー施設いくつか紹介されていた。
筵は安住からパンフレットを受け取ると、そこに描かれているパッとしない地味なレジャー施設に目を落とす。
そして安住はそんな筵の顔を神妙な面持ちで見つめていた。少したつと筵もその視線に気付き、同時に先程の“筵の嫌いな所“の内容が頭を過ぎる。
「じゃあ、まあ何処でもいいから行こうか?」
筵は安住に対して何時もの半笑いを向けると、安住の表情がまるで花が咲いた様に晴れやかに変化し、コクリと頷く。
「僕と安住ちゃんはどこかに行く事にしたけど、他に行く人いるかい?」
筵はゆっくりと立ち上がりながら全員に向けて訪ねる。
「そういうことなら、子供たち連れて行ったらどうだ?アジトもつれてさ」
「そうだね。愛巣行ってきたら?」
梨理と譜緒流手がそれぞれの子供を推薦すると、アジトと愛巣も多少なりとも安住と同じような経験があるのか行くことに承諾する。
「湖畔も来るかい?」
「・・・い、いえ、ぼくはいいです」
湖畔も多少、行きたそうにしていたものの、親子水入らずの空間を邪魔してはいけないと思ったのか、筵の申し出を断り、カトリーナとスマホゲームの協力に戻った。
そして筵も湖畔の心遣いを受け取り、それ以上追求はせずに子供たちを集めると身じたくをして部屋を後にした。
「じゃあ、何博物館にいこうか?ブリキ博物館?ぬいぐるみ博物館?それともまさかハーベスト博物館とか?」
「何で博物館しか選択肢が無いの?」
「だって博物館しか紹介してないんだもの、ほら」
筵と子供たちは旅館の入口あたりで立ち止まり、行く先について話していた。
そして筵は先程、安住から渡されたパンフレットを指差すと子供たちの目線まで下げる。
「見事に博物館しかない」
「しかも微妙なのばかりだな」
それを見せられた愛巣とアジトも苦笑いを浮かべながらお互いの顔を見あう。
しかしほかの2人とは違い、安住はかなり真剣にパンフレットと睨めっこをしていて、しばらくそのまま吟味したあと結論を出した。
「まあこの中なら、ハーベスト博物館かな。私達、一応夏休みでここに来ていることになってるからね。自由研究みたいな事もしないと」
「ああ!確かにそうだな」
「後で写させてねー」
安住の発言により、子供たちの意見は固まり、旅館から歩いて十数分のハーベスト博物館なる箱物に行く事になった。




