クラス旅行で殺人事件 前編 1
「ここに集まってもらったのは他でも無い。僕を殺した犯人は、この中にいる!!」
筵は何時もの、腐った目を光らせ、不敵な半笑いを浮かべながら、片方の手の人差し指をこめかみの辺りに押し付け、決めポーズのようなものをとるとZクラスメンバー、安住などの未来の子供たちなどを含む数名の人物達に宣言する。
Zクラス全員で旅行に行きたいという湖畔の要望により、旅行先を模索していた筵たちは、何の因果か本田家の本家がある中部地方の少しだけ山間にある旅館に、武能祭で知り合った本田一星、本田庵に誘われ訪れていた。
そして共に休日を過ごしていたのだが、これまた、なんの因果なのか、一星たちは急なハーベスト出現により、少し遠くへと赴かなくてはならなくなり、旅館を後にしてしまった。
こうして状況は何時もの様に、示し合わせたように、ハーベスト出現という大きな事件の裏で、小さい事件が起った構図となった。
そして月並みな言い回しで時間を少し前に巻き戻すなら、"あの時の彼等はまだ楽しい旅行先でこの様な事件に巻き込まれるとは予想だにしていなかった。"と言うべきだろう。
「いやー、ありがとうね一星君。助かったよ」
筵は旅館の最寄り駅から、その旅館に向かう道すがら駅で待っていた一星に向って言った。
「いや、俺は何もしていないよ。ただ単に友達の実家を紹介しただけであって、客寄せしたみたいなものさ」
「面倒くさい手続きをやってもらったり、料金も安くなったりしただろ?それだけで充分だよ。それにあのままだったら一生何処に行くか決まらなかっただろうからね」
一星、筵が並んで歩いている少しだけ坂になっている旅館へ続く道の前方には、筵以外のZクラスメンバーと未来の子供たち。一星の妹、庵。さらには少し真面目そうな、委員長を思わせる感じの少女が一緒に歩いていた。
どうやら、その真面目そうな少女は一星の連れであり、いつもは、そこに実家が旅館を経営している友達を含めた4人で行動しているらしい。
筵はそんな先頭集団を見たあと、今度は山々の景色に目を移す。完全な見ごろでは無いにしろ、山は綺麗に紅葉して美しく、筵の腐りきった目には少々毒だと思えた。
しかし、"頑張って何かをなそうとしている人を見ると自分は逆に萎えて絶対に頑張りたく無くなる"という、筵の歪んだドドメ色の心も流石に直接的な美しさには敵わず、図らずも感動というものを覚えてしまった。
「ここら辺は有名な、紅葉のスポットなんだ。もう少しだけ前だったら、完全に見ごろだったんだけどね」
「おいおい、これ以上のものを見せられたら、僕は聖人君子に生まれ変わってしまうよ。逆にこれ以上のものを見て、悟りを開かない人が可笑しいと思うほどだね」
筵はいつもの調子でふざけたように言い、それを聞いた一星は苦笑いを浮かべる。
「自然に対しては凄い褒め方をしているけど、人間に対しては厳しいね」
「全く、人間てやつは本当に有害な生き物だからね」
「君は一体、誰視点なんだい!?」
「強いていえば人間の自然破壊に地球が怒り、その憎悪がなにかの原因で集まって出現した、大地の怒りを体現せし存在、みたいな視点かな」
「自然破壊をテーマにされると大勢の人が殺されたとしても、完全な悪でなくなってしまう分、厄介だね」
一星は筵にツッコミを入れると、少しだけ間を開けた後、本当に話したかった事を喋り始める。
「武能祭は中止になって、ろくに話せないまま終わってしまったな。・・・あの時は本当にすまなかった」
一星は立ち止まり律儀に頭を下げて謝罪してくる。
「なあに謝る事は無いよ。君は君の大切な人のために必死だっただけだからね。でも君はそれでは収まりがつかないかもしれないから、ここは"許す"と言わせてもらうかな」
「ああ、ありがとう・・・・・・」
一星は謝罪を終えた後、少し考え、何かを言うのか、言わないのか迷っているような素振りを見せる。
「ところで君のあの時見せた力は一体何だったんだ。あれが君の真の実力なのか?」
一星の言っている力とは、淵を助けるために使った魔剣の事であろう。一星は筵に謝罪する事と同じくらいの割合で、その事についても聞きたいと思っていた様だった。
「うーん・・・・・・まあ話してもいいか、・・・あれは魔剣だよ。生命力と引換に膨大な力を与えてくれる。そんな曰く付きの1品さ」
筵が説明をすると、一星は驚いている様子だった。恐らく、筵の能力と魔剣のリスクの噛み合いに気づいたのだろう。
「でもそんな物を持っているとバレたら、戦いに駆り出されてしまって、Zクラスに居続けることが出来なくなってしまう。だから隠しているのさ。・・・僕が守りたいのは僕の周囲の世界だけだからね。いや僕にとっての世界とは僕の周囲だけである。と言った方がいいかも知れないね」
「・・・」
一星は沈黙して、ただただ筵の話を聞いていた。一星は今まで筵と自分はどこか似ていると思っていた。
そして、今でもその感情は残っていた。しかし、どこか最も根本的な部分の違いに気づたようだった。
「ああ、あと魔剣の事は何時かあの子達にも明かさなくてはならないとは思っているけど、今はまだ言えないから、一星くんも出来れば内緒にしてくれると助かるよ」
「・・・あ、ああ、分かった。約束しよう」
一星は不意に話を振られ、慌てたように反応し、カラ返事をしてしまったものの、約束は守ると誓った。




