クラス会議で平常授業 5
ボードゲーム"縮図"はプレイ時間、約1時間程で、勝敗が決した。結果は聞く必要もなく分かると思うが、湖畔の一人勝ちであった。
しかしながら最初にプラスマスを踏みまくっていた湖畔ですら、最終的な所持金は25万円程であり、その他のメンバーに至っては全員が全員、多くの借金を抱えて終了、という為体であった。
そして、このゲームの目的である"マシな人生"を送る事の基準は借金を残さずに終了することである為、今回の勝者は湖畔のみとなった。
因みに教室の窓から外を覗くと、まだ少し離れたところで戦闘が行われている様子が伺え、能力による、爆発やら雷やら炎やらの光が、まるで花火のようにぼんやりと見えていた。
「・・・筵先輩、うちライオンに腕を噛みちぎられたり、カースタントで失敗して火傷を負ったりしましたけど、・・・今際の際、こんな人生も悪くなかったかも知れないと、思ったかも知れなくもないです」
「カトリーナちゃん・・・いくら補正をかけて、マシな人生だった事にしようとしても無駄だよ。だって君、借金塗れだからね?」
カトリーナの最終的な借金は300万円位だったが、このゲームのお金の価値は現実と少し異なり、一般職の給料が5万円だと考えれば300万円がどのくらいの借金なのか分かるだろう。
するとカトリーナの言い訳を聞いた梨理が便乗して、筵の肩を軽く叩く。
「いやいや筵さん。借金なんて下らないものよりも、あたしたちは大切な宝物を。そう、この過酷な人生を共に生きた掛け替えのない仲間を手に入れる事が出来たんだぜ」
「今度はいい話風にしているけど、泥棒と詐欺師の方々はしっかりとその仲間から金を奪っていたよ」
梨理の言い訳も筵にバッサリと斬られてしまい、梨理は大きめの舌打ちをした後、作戦を変更し、いい笑顔で湖畔の方を見る。
「な〜、湖畔くん?湖畔くんもアニメとか好きだろ?その原作が教室にあったら良くないか?」
「いやいや、湖畔くん。テレビゲームを買って、うちと一緒にやりましょう。きっと楽しいはずです」
梨理とカトリーナは自分達が勝ったことには出来ないと悟り、湖畔を懐柔する作戦に打って出た。
その2人の申し出を聞いた湖畔は戸惑っていて、そんな状況を見兼ねた譜緒流手が湖畔に助け舟を出す。
「ちょっと、ちょっと2人とも、湖畔くん困ってるから止めたげてよ」
「おいおい、譜緒流手のは湖畔くんに取り入っても意味無いやつだからってあたしらの邪魔すんなよな〜」
「いや〜、そんなこと思ってないよ〜?ただ、勝者の意思を尊重するのが大切だと思ってね。オレは後でウジウジ言ったりしない派なだけだよ」
梨理と譜緒流手はお互いに腹の内を探り合うような笑顔で静かに見つめあっていた。
現在の状況は、カトリーナと梨理が、まだ自分の希望を通すのを諦めていない感じで、それを希望は通したいが、その内容的にどうしようもない譜緒流手が、2人の希望が通る事だけは避けさせて、道連れにしようとしていて、れん子と淵はこの謎の第2ラウンドから完全に降りて、2人でこのボードゲームについての会話をしていた。
そして、そのいざこざの渦中にいる湖畔は、今だに何が欲しいか決まっていない様子だが、たとえ決まっていたとしても、自己主張の弱い湖畔が自分の欲しいものを言える雰囲気では無かった。
筵はZクラス全体を見渡し、そんな状況を少し引いたところから見ていると、懇願する様な目で筵を見ている湖畔と目が合う。
その少し潤んだ目を見た筵は湖畔に何時もの半笑いを向けた後、譜緒流手たちの方に目を向ける。
「梨理ちゃんも譜緒流手ちゃんも、それじゃあ、湖畔が自分の希望を言いにくくなるでしょ?」
筵は譜緒流手たちの争いを一旦止めた後、再び湖畔の方を見る。
「・・・それで、湖畔は欲しいものとかは見つかったのかい?」
「・・・」
「うーん、そうか〜それは困ったね〜。・・・まあ僕から、そんな欲のない湖畔に少しだけヒントを出すなら、別に欲しいものってのに囚われなくていいんだよ?やりたい事、行きたい場所
何だっていいんだよ。そう言うのも含めれば何かしらあるんじゃないかな」
「やりたい事、行きたい場所ですか・・・」
湖畔は筵の言葉を復唱しながら少しだけ考え込む、そして少し考えた後、胸のつっかえが取れたような晴れやかな顔で筵を見た。
「そうですね。旅行とか行きたいですね。みんなで・・・。あの・・・具体的に何処とかは決まってないんですけど」
湖畔は言った後少しだけ、恥ずかしそうモジモジとしながら、みんなの反応を待った。
「それ、すごくいいと思うよ。私は」
最初にれん子が湖畔の意見に同意して笑顔を向ける。すると、それに続いて全員が次々に賛成して行く。
そしてクラス内はさっきまでの争いが嘘だったかのように静まり、今度は"何処に行くか"という話しで盛り上がり始めた。
「旅行に行くってのはいいけどよ〜、・・・筵、テメー、湖畔くん誘導しただろ?」
「えっ?何の事だい?」
梨理は盛り上がっている中、急に筵の方を横目で見ると疑いをかけてくる。そしてそれは湖畔以外の全員が気づいていた様で、筵は湖畔以外の全員に白い目を向けられる。
「嫌だな〜これはコンサルティングだよ。あくまで解決策を提案しただけ、何なら納豆1年分でも良かったんだよ」
「納豆1年分・・・」
筵の言い訳を聞いた湖畔は、納豆1年分という言葉にかなり魅力を感じている様だった。
「すみません誘導してました。だから今のは無しでお願いします」
筵が罪を認め、皆に謝罪をすると白い目で見ていた者達からも暖かい笑いが起こった。




