クラス会議で平常授業 4
椎名湖畔、所持金127万円。
「じゃあ、いきますね」
湖畔は優しい手つきでルーレットを回して、コマを一つ一つ丁寧に進めて行く。
"賞与マス。コツコツ働いた功績が認められる。一般職と職人は15万円得る。泥棒と詐欺師は功績が警察に認められ、監獄ゾーンへ移動"
「湖畔は一般職だから15万円だね」
「あ、ありがとうございます」
筵は銀行エリアから15万円取ると湖畔に手渡し、湖畔はそれを男とは思えない、小さくかわいらしい手で受け取る。
「それにしても、湖畔くん凄いね。最初に6、5、3を決めたときから持ってると思ってたけど・・・」
続いての順番のれん子が湖畔の成績を賞賛しつつ、自分もルーレットを回す。
ちなみに、6、5、3とはこのゲームの開始時から3ターン目までにおける黄金パターンであり、この順番に数字を出せば14マス目までプラスマスのみで進むことが出来る。
「あちゃー、一番つまんないやつだ。心じゃなくて金を盗んで欲しいね」
れん子の踏んだマスは、このゲームのファンの中でも"何でこんなの作ったの?"と議論をよんでいるパロディマスであり、特に意味の無いものであった。
「れん子も所持金は開始時から殆どの変わってないけど厳しいかー、・・・でもまあ最初から、湖畔くんが勝つフラグ立ってたけどね。状況的に・・・」
れん子の二つ隣の席に座っている譜緒流手が頬杖を付きながら呟く。れん子の所持金は92万円であり、本来のこの所持金数は最高レベルなのだが今回は湖畔が圧倒的過ぎるため霞んでしまっている。
「いや、そんなことは認められません!」
譜緒流手の言葉を受けて、次の順番であるカトリーナが少し大きめの声で言い、軽く机を叩く。
「無欲の勝利なんてうちは認めません!物欲センサーなんて幻想、うちがぶち壊します!欲望こそが力。何かを貪欲に、強欲に、意地汚く欲し、庶幾う者の所に神は降りてくる。そう有るべきです。いや、そうで無くては可笑しいじゃないですか。・・・あと、あんなに11連引いているのに目当ての子が来ないのも可笑しい」
カトリーナは後半関係ない話を交えながら持論を展開し、さらに主張を続ける。
「そう、世の中可笑しい事だらけです。・・・だから、だからこそ、うちがこのターンで世界をあるべき姿に戻します!!」
カトリーナは大それたことを宣言した後、全神経を指に集中して、全身全霊を掛けて弾きルーレットを回す。どうやら世界の行く末は、カトリーナの一手にかかっているようだった。
血走った目でルーレットを食い入るように見つめるカトリーナ、そして、ルーレットは段々と回転が遅くなっていきやがて止まる。
"詐欺師マス。車で人を引いてしまう。慰謝料20万円を支払う。詐欺師の場合。"当たり屋"の詐欺師カードを使う事で15万円を得る。無ければ15万円支払い、詐欺師カードを1枚引く"
「無欲には勝てませんでしたよ・・・」
カトリーナはそう言い残し、机に突っ伏すと動かなくなってしまう。
それを横で見ていた譜緒流手はそんなカトリーナの所持金から容赦なく20万円を取ると銀行エリアに投げ入れ、ため息を漏らした。
「いやいや、オレは監獄ゾーン真っ只中だよ。シャバにいるだけマシでしょ?」
譜緒流手は苦笑いで言うと、監獄ゾーンにある自分のキャラクターフィギュアをボードの上に何回か打ち付ける。
監獄ゾーンは計12マスの円状の形で構成されていて、その中にある釈放マスはわずか3マスであり、8マスはマイナスマス、そして何故か、申し訳程度にプラスマスが1マスだけ存在する。
若干諦めモードの譜緒流手は先程のカトリーナとは対照的に、やる気無く、ルーレットを回す。
"囚人の中の売人から、『お薬』を買う。7万円失う"
「世界観!?ここは日本じゃ無いの?それに『お薬』って何だよ。可愛く言ってもダメなものはダメでしょ」
譜緒流手は今更ながらこのボードゲーム、"縮図"に不満をもらす。
そしてこの"縮図"が何故すぐに販売停止になったのか、この5ターン目を一周しただけでも至るところで伺うことが出来た。
それから、譜緒流手は大人しく7万円を支払い、続いて筵が賞与タイムを行った後、6週目に入っていった。




