クラス会議で平常授業 3
現在、5週目。
本田筵、所持金32万円。詐欺師カード4枚所持。
「最悪の状況ではないけど、そろそろ詐欺師マスを踏みたいね」
筵は愚痴をこぼしながらルーレットを回わし、出た目の数だけコマを進める。
"泥棒マス。援○交際をしようとしたら金だけ持っていかれる。泥棒以外は5万円失う。泥棒はルーレットを回して1、5、10以外なら5万円を得る。1か10で失敗した場合は監獄ゾーンへ移動"
「まあ、5万で助かったよ。クレジットカードは無事だしね」
筵は胸を撫で下ろしながら銀行エリアに5万を入れる。
他のメンバーはそれを少しだけ引いた様子で見ている。
「クレジットカードとかこのゲームにねーだろ。・・・あとそのマスぜってーお前が踏むと思ったぜ。てかお前が投獄ゾーンに行くべきだろこれ」
「ちょっと待ってよ梨理ちゃん。相手が未成年だなんて何処にも書いてないでしょ?殆どの場合は未成年の時に使われる言葉だけど」
梨理は筵にツッコミを入れ、その後、筵は言い訳を述べる。しかし、梨理はその言い訳を軽く無視してルーレットに手をかけた。
「まあいいや、次はあたしだな、泥棒の力見せてやるぜ」
天喰梨理、所持金77万円。所持金といい好調な滑り出しの梨理は、上機嫌でルーレットを回す。
「まあ、5以外ならいいぜ、高望みしないのがこのゲームの鉄則だからな」
「梨理先輩それフラグですよ?」
梨理の発言に対してカトリーナが含みのある笑みを浮かべる。
「!?」
ルーレットの指した数字は梨理がそれ以外ならいいと言っていた"5"であった。
梨理は嫌々ながら、コマ一つ一つ進めていく。
"詐欺師マス。マルチ商法。マルチ商法に引っかかり洗剤を大量に買わされる。25万円失う。詐欺師の場合、"マルチ商法"の詐欺師カードを使う事で12万円を得る。無ければ12万円失い、詐欺師カードを1枚引く"
「本当、詐欺師ってクソだな!!筵も含めて」
「おいおい一緒にしないでくれよ。僕は弱きを助け強きを挫く系の詐欺師を自負しているよ」
「だったら、あたしは詐欺師カードとすら奪う系の泥棒だぜ?だから"マルチ商法"よこせ」
梨理は隣に座る筵の詐欺師カードに手を伸ばし、筵はそのカードを梨理から離すように、斜め上に上げ、それを取ろうとする梨理とじゃれ合う様な態勢になる。
「り、梨理先輩そんなルールは無いですから、席に戻ってください」
淵は筵と梨理のやり取りを少し恥ずかしそうな、それでいて少しだけ煮えきらない様な表情を浮べながら止めに入る。梨理も筵も気にしていないようだったが、梨理と筵の身体は完全に密着していて、パーソナルエリアというものは存在していないように感じた。
「ちぇ、分かったよ。ほら持ってけ、泥棒っな」
淵の注意を聞いた梨理は、筵から離れ、自分の所持金からピッタリ25万円を取り銀行エリアに投げ捨てるように入れる。
「筵先輩も筵先輩ですよ。もっと強く抵抗してくださいよ・・・勝負なんですから」
淵は少し不機嫌そうな表情で呟く。
それを見た筵は、何時もの半笑いをさらに強調して、揶揄うような笑みを向ける。
「ふ、淵ちゃん・・・そんなに本棚が欲しかったんだね」
筵はこの時、淵自身すら整理出来ていない、嫉妬の一歩手前のような、複雑な心境を察した上で言っていた。
「うわー、この人、すげー腹立つなー」
そんな筵の言葉と表情を受けた淵は、怒りも羞恥心も無い悟ったような表情で呟く。淵も自分の心の内を読まれた上で、筵があえて、鈍感主人公のような事を言っているのが分かったのだろう。
「はい、ちゃっちゃと回しますよ」
淵は悟ったような表情のまま、ルーレットを回す。淵の現在の所持金は41万円であり5ターン目でこの所持金はごく普通と言った成績であった。
「おー、珍しくプラスマスに止まりましたね」
"人助け。ほかのプレイヤーが社会的に殺されそうになっている所を助ける。好きなプレイヤーから7万円受け取る"
「なるほど、じゃあ筵先輩で」
「即決!?いいかい淵ちゃん。こういう時は一番勝っている湖畔から取るのが定石であって・・・」
「社会的に殺されそうになったって、これさっきの筵先輩の事ですよね。それに好きなプレイヤーって書いてるじゃないですか。わたし筵先輩のこと"大好き"ですから」
淵は少し怖い笑顔を筵に向けながら、"大好き"の部分を強調して言った。そしてその様子から完全にさっきのことを根に持っていることが分かった。
「ご、ごめんなさい。さっきのは謝るから勘弁してください」
筵の謝罪に対して、淵が怖い笑顔のまま筵に握手の要領で手を差しのべる。
しかしその手は、急に90°反転して掌を上に向けた状態になる。
「ほら筵先輩、7万円ですよ。早くしてください」
淵はその後も何度か手を上下させて催促し続け、渋りながらゆっくりとお金を差し出す筵から、なかば強引に金を奪い取ると、本物の銀行員がお金の数える時の数え方で枚数を確認する。
「やっぱり弱者から巻き上げるのは楽しいですねー」
少し恐ろしいことを言う淵の表情は、悪魔のような笑顔をから小悪魔のそれに変化していて、それには筵からも自然に笑みが溢れた。