クラス会議で平常授業 1
「ここに武能祭の賞金と模擬店の粗利益があります。・・・ということで使い道を決めましょう」
筵は最早、恒例となった会議スタイルで、教卓の前に立つと、その上に封筒を二つ置き、今回の議題を述べる。
武能祭中止の知らせから、数日後、日室刀牙も無事退院し同時に、人工能力者の少女もはれて日室ハーレムの一員となり、Aクラスへの編入を果たした。
そこには、本学園の理事長がかなり絡んでいるらしく、転んでもタダでは起きないという精神で、貴重なサンプルである人工能力者の少女を模擬戦の会場と引換に確保する形となった。
余談だが、人工能力者の少女の能力のベースは、筵の母親、本田栖だったようで、その少女の能力が栖の劣化能力だったのはその為であった。
そして、余談の余談で言うと、栖は出産のため、自分の使役する世界に留まり療養していて、現在、この世界の防衛力はおそらく半分以下くらいにまで低下していた。
「はい、はいはいはい!!テレビと据え置き機が欲しいです」
「おいおい、ここは学校だぜ?そんなのより、ジョ○ョ全巻買って教室に置いた方がいいだろ、後はGA○TZとキング○ム、進撃とかもあると嬉しいぜ」
カトリーナと梨理はその議題を待っていたとばかりに、我先にと発言する。
「2人とも欲望に素直だね〜、・・・それにしても梨理ちゃんのチョイスは如何にも男子高校生がロッカーに入れていそうなものばかりだね。もっと女子力高めにBLとかを所望しようよ。ねえ?淵ちゃん」
「それは女子力高いって言うんですか?もし高いとしても、恐らく、それは悪魔に魂を売って手に入れたら類の力ですよ・・・あとわたしはBL好きでは無いですからね」
筵に話をふられた淵は読んでいた本から目を逸らし、筵の方を向くと面倒臭そうな顔を浮かべながら答えた。
「因みに筵?その二つあわせていくら位あるの?」
続いて譜緒流手が教卓の上にある二つの封筒を指さしながら言う。
「まあザッと新入社員の初任給くらいかな〜」
「そうなんだ、じゃあ栖さんに何か買ってあげたら?」
「譜緒流手ちゃん、それは新入社員の初任給に引っ張られすぎだよ。出産祝いと言うことで何かを贈るのは、やぶさかではないけど、それはそれとして、このお金はZクラスで使いたいと思っているよ」
「へえー、じゃあオレは高級なイヤホンで」
筵がZクラスで使いたいと言った矢先、譜緒流手は前者2人にならい、とても個人的な要求を口にする。
「そういう流れなら、私はブランド物のバックかな~」
「ならわたしは本棚を設置したいです」
その流れに乗り、Zクラスの常識人かつツッコミ役であるはずの、れん子と淵も自分たちの個人的に欲しいものを言い出して、いよいよ持って収集がつかない現状であった。
「みんな欲望に忠実で、大変よろしいね。こうなったら湖畔も何か欲しいものを言ちゃったら?」
「ぼ、ぼくですか?・・・そ、そうですね・・・」
湖畔は筵の質問を受けて考え込んだのだが、なかなか欲しいものが浮かばない様子であった。
「湖畔は欲が無いね〜、それもまた大変いい事だけど、今回は時間を上げるから欲しいものを決めておいてね。・・・なぜならZクラスで意見が分かれた時の決闘方法、伝統のあれで勝敗を付ける事にするからね」
筵がそう言うと、Zクラスの生徒達は、遂に来たかと言うような顔で息を呑む。
♪♪♪♪♪♪
筵が次の言葉を言うのにたっぷり間を取っていると、教室のスピーカーから警報音が鳴り響く。そしてそれと同時に、窓の外からも微かに警報の音が聞こえてきた。
これはハーベストが出現した事を表す警報で、窓の外からもそれが聞こえているという事は学園の近くにハーベストが出現する事を表していた。
しかし、そんな事はZクラスには、対岸の火事、同然であった。
まさに原点回帰、筵はざわざわと少しだけ騒がしくなっている学校内と町をまるで、テレビで報道されている異国で起こった事件でも見ているように、自分とは関係無いものとして、同時にそのニュースに飽きて、アニメ番組にチャンネルを変更するように喋り始めた。
「え〜、これよりZクラス内ルールに基づきまして、第7回ボードゲーム大会、"縮図"を開催したいと思います」
筵はいつもの半笑いを浮かべながら、大会の開催を宣言した。
筵の急な開会宣言にも、他のクラスのメンバーからツッコミは無く、この決闘方法を何回か体験しているようだった。
そして、ただただ嵐の前の静けさのような沈黙がその場を包んでいた。