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武術大会で平常授業 3

 文化祭当日。


 一週間前にハーベストとの戦闘があったものの、附属中学の生徒の協力により、どこのクラスも当日までに出し物を完成させることが出来て、無事に文化祭当日を迎えていた。


 そして文化祭のメインイベントであり、(むしろ)が勝手に出場させられるという騒動があった武術大会に関しても、滞りなく進められていて、今は丁度、予選が()り行われていた。


 武術大会は模擬戦用のコロシアムのようなところで行われ、勝利条件は、相手に”参った"と言わせるか戦闘不能にするかのどちらかということになっていた。


 本来、予選の観客は少なく、友達同士の応援程度なのだが、そんな中、ある会場にはおよそ予選とは思えないほどの人が集まっていた。


 そう、(むしろ)の試合である。 


 集まった客の動機は単純に戦いぶりに興味があるや、無様に負けるのを見に来た、はたまた、不戦敗になるのを笑いに来たなど様々であった。


 そして、リングの上で来ないはずの対戦相手を邪悪な笑みを浮かべながら待つ男は、Bクラス2年の黒崎修哉、風を操る能力者でBクラスの中では限りなくAクラスに近いと言われている人物である。


 間もなく対戦時刻となるが、そこには勿論、筵の姿はない。それを見た黒崎はさらに邪悪な笑みを強調させる。


 「落ちこぼれクラスの本田筵くんは自分で参加票を出しておいて相手が俺だと分かって怖気付いたのかな?」


 黒崎のその言葉で会場に笑い声が巻き起こる。


 そんな風に会場が黒崎の一人舞台で盛り上がっているその時にも、徐々に試合開始時間は近づいていき、試合開始30秒前ほどになってた頃には、そこにいた誰もが、筵がこの試合会場に来ることは無い、と考えていた。



 しかし、その時。



 「本当はギリギリに入場して盛り上げようと思ったんだけど30秒も残ってたか、つくづく締まらないな僕は」



 



 その男、本田筵は、試合開始0.1秒前に駆け込んでくるわけでも、空から飛び降りて来るわけでも無く、ただ普通に入場口から入場して、ごく一般的な速度の歩行でリングへと向かって行った。


 

 そして筵は何時ものにやついた表情のままリングへと上がっていき、それと同時に、筵の登場に驚き、唖然としていた観客から一斉にブーイングが巻き起こる。 


 「お、怖気付いたのかと思ってぞ本田筵」


 筵が来ることなど想定していなかったのか、黒崎は少し噛みながら筵を指差す。


 「後輩を説得しようとしたら、逆にこっちが説得されてしまってね。蜂鳥先生には悪いことをしたよ」


 筵は横目で観客席の前の方の席を見ると、そこにはZクラスのメンバーが観客席から筵の試合を見学していた。




 そうこうしている間に30秒が過ぎて、試合時間となり、審判が声を上げる。


 


 「両者、尋常に」


 その審判の声を聞くと筵はサバイバルナイフを構えた。


 それを見て、黒崎もレイピアのような剣を構える。


 「始め!!」


 審判のその声で黒崎は筵に切りかかり、その強烈な斬撃を筵はサバイバルナイフでなんと受け止めた。


 「こんなんで、止められたと思うな!!」


 黒崎は叫ぶと彼の持つレイピアは風を纏い初め、そのまま筵に向って突きを放った。筵はこれもサバイバルナイフでなんとか受け止めたが、そのまま風圧でリング外の壁まで飛ばされ激突する。


 しかし、今回はリングアウトが無いためまだ戦いは終わっていない。


 「ははは、雑魚すぎるんだけど、所詮Zクラスなんてこの程度なんだよ」


 黒崎は嘲笑しながら、筵が激突した壁側がよく見える所まで移動し、完全に勝ちを確信したように、邪悪な笑みをもらしながら、壁が崩れることで生じた砂煙を観察する。


 しかし数秒後、その砂煙の中から立っている人影が現れる。


 「いやー、リングアウトが無くて助かったよ。・・・この程度の攻撃で負けになったら、さすがの僕も恥ずかしいからね」


 砂煙が収まると、そこには無傷の状態の筵の姿があった。


 その様子に会場はざわめく。


 それは、ここに集まった観客の中で筵の能力がどういう物なのか知っている者達がごくわずかな為であった。






 「本当にあいつの能力便利だよなー、普通の人間だったらただじゃ済まねぇだろあれ・・・まあ筵も"ただ"では済んでねーんだけどな」


 その様子を観客席から見ていた、梨理が鼻で笑う。


 「でも、筵先輩は勝てるんですか?」


 心配そうな表情の湖畔(こはん)が隣の席の譜緒流手(フォルテ)に尋ねる。


 「心配ないよ、この大会の勝利条件だったら負ける要素がない」


 譜緒流手は湖畔をなだめると再びリングに目を向けた。





 筵はリングに戻りながら黒崎を挑発すると、黒崎はまんまとその挑発に乗ってしまう。


 「調子に乗ってんじゃねーぞ、分かった、あー分かったよ、この技でミンチにしてやるよ」


 風の能力をさらに強く発動させると、黒崎の周りに3つほどの巨大な竜巻が出現する。そして出現した竜巻をレイピアで指揮を取っているかのように操作して見せた。


 「これがBクラストップの実力だぁ!!」


 黒崎がレイピアを筵の方へと向ると、竜巻は号令を受けたかのように筵の方へとスピードを上げて向っていく。


 「死んでも後悔するんじゃねーぞ!!」


 黒崎が叫んだその言葉に、筵は思わず笑ってしまう。


 死んで後悔する、それは本田筵にとって、もっとも縁のない言葉だったからである。


 竜巻は、最初から避ける気のない筵に直撃した。さらにその衝撃は地面を抉り観客席にも突風をもたらした。


 しかし、抉れた地面の上には再び無傷の状態の筵の姿があった。


 「死技 初見殺され・・・」


 筵が何やら技名を叫ぶ。


 観客は筵が無傷なことに驚き、皆シーンとしているが、その技名を聞いた梨理たちは爆笑していた。


 「なんだそりぁ、だっせー」


 「と言うか安定死考リビングダイイングデッドって言う能力名もどうかと思うけどね。部屋の間取りのリビングとリビングデッド、ダイニングとダイイングをかけたんだろうけど、キッチンも部屋もないのにどこが安定思考なんだか」


 梨理に続いて譜緒流手もこらえきれずに、その能力名をネタにする。


 「・・・でも、もう勝ちは確定かな?相手は能力を使いすぎたね」


 れん子も他の2人とともに笑いあった後、再びリングに視線を戻し、先ほどとは違う意味合いの笑みを浮かべた。






 「いったい、何をしたんだ」


 疲れた様子の黒崎が息絶え絶えに呟く。


 「さあ?それは自分で考えて、それじゃあ次はこっちから行くよ」


 筵は黒崎が疲れているところを間髪入れずに、サバイバルナイフで斬りかかる。


 黒崎はそれを何とか交わして武器をぶつけ合う、疲れているとはいえ普段から剣の鍛錬を行っている黒崎は、それでも筵と互角以上に立ち回っている。


 「いったい、どんな手品を使ったかは分からないが、剣の技術でも俺の方が上なんだよ」


 黒崎は筵に向かって叫ぶがどうしても決定的な一撃を与えることが出来ないでいた。


 そして、ジリ貧のまま5分ほどが経ち、黒崎の疲労はさらに積み重なっていった。


 一方、筵は息ひとつ上がっていない。


 そんな状況を目の当りにし、状況を把握出来ないでいる黒崎は困惑した様な表情を浮かべる。


 「そろそろ、決めようかな?どうしようかな?」


 筵が再び黒崎を挑発する。


 黒崎はその言葉に怒り、力を振り絞ると再びレイピアに風が纏う。


 「Bクラスの俺が、Zクラスのお前に負けるなんてありえないんだよ!!」


 黒崎はそう叫びながら、全身全霊を懸けた突きを筵の体に向って放った。


 そして次の瞬間、鈍い音と共に、その一撃は筵の左肩の辺りを貫いていた。


 「・・・へ?」


 さっきまでとは違い、あっさりと攻撃が通ったことに驚いた様子の黒崎。

 

 「死技・・・・・」


 筵は自分の左肩を貫いたレイピアを持った黒崎の腕を掴んだ。


 「”骨切らせて肉を断つ”」


 再び技名を叫び、サバイバルナイフで黒崎のレイピアを持っている手を少しだけ斬りつける。


 すると、黒崎は腕に力が入らなくなったのか力無くレイピアを手放してしまい、そのまま数歩後ろにさがる。


 それから、自身の体に刺さったままとなったレイピアを引き抜いた筵は、一瞬、光に包まれ、その光が収まった時には左肩の傷が治っていた。


 驚愕した様な表情の黒崎は、何も言葉に出来ず震えた指でただ筵を指差す。


 「僕の能力、安定死考リビングダイイングデッドは死んだら10秒以内に生き返らなければならない能力。そして復活の際には、100円を入れて体力が全回復の状態で復活するアーケードゲームの如く、万全の状態で生き返ることができる」


 筵は自分の能力について説明し、そして、さらに重要な追加事項について話し始める。


 「さらに僕は自分の意思で心臓を止めることが出来る・・・故に安定死考、疲れたなら死を選び、眠くなったら死を選ぶ。この意味わかるよね?分かったら負けを認めてくれるかな?」


 筵はいつものニヤけた顔のまま黒崎に提案する。


 その後、完全に戦意喪失した黒崎は膝から崩れ落ちてしゃがみこむと、肩を落しながら”参った”を宣言し、筵の勝利で予選が終了した。


 そして、静まり返る観客を後目(しりめ)に筵はリングから下りて出口へと向った。

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