終章~そして悠久の彼方へ~
炯龍と颯龍が地上に来て四年が過ぎた。
「後一年だな。半年でもいいのか?」
「そうだね。僕が玲龍よりも年上になればいいんだから。」
後半年で颯龍が玲龍よりも一つ年上になる。
そうなれば二人は天上に戻れるのである。
「後少しの辛抱だ。」
「そうだね、兄さん。
記憶の削除も後はこの周辺だけだし、後少しで玲龍や兄さん達に会えるんだ。」
「と言っても、玲龍達からすればオレ達が出たその日のままだけどな。
オレ達には五年でも、あっちにとっては数分か十数分ほどか。
堰龍兄貴なんかきっと冷たいんだぜ。」
「でも玲龍は優しく迎えてくれるよ。
きっと今も水鏡で地上の僕たちの様子を見えるんじゃないかな?」
まさにその通りであった。
「まだダメなのかしら?もう十分私よりも年上だと思うのだけど・・・」
「颯龍がお前と同じくらいじゃないか?」
「でも元々颯龍兄様とは一つしか違わないわ。
もう帰ってきてもいいと思うのに・・・
それにしてもずっと見ていると地上の時の流れは本当に早いわね・・・目が疲れてしまったわ。」
水鏡を見ていた玲龍が、まぶたの上から目を押さえて言った。
「あまり無理をするなよ?どうせすぐに帰って来るんだ。」
「そうよ。玲龍がずっと見ている必要はないでしょう。
こっちで私とお茶でも飲んでいましょう。
飲み終わる頃には帰ってくるわよ。」
「兄様達って冷たい・・・二人の事が心配ではないの?」
少し呆れたように、それでいて少し怒って玲龍は二人に言った。
「あの二人の心配なんかしてどうするんだ?」
「私達より年上になったらなったで、今度は私達が地上に行けばちょうどいいでしょ。」
三人がそんな話をしているうちに、地上では半年が過ぎていた。
「やっと半年だ。これで天上に戻れるぞ。」
「本当に・・・」
そういって二人は住んでいた家を消し去り、隣人たちの記憶を消し去り、天央神殿へと向かった。
「炯龍兄様、颯龍兄様。お帰りなさい。
病気など、何もありませんでした?」
二人の帰りを喜び、玲龍は言った。
それに対し、堰龍と汐龍はというと・・・
「割と早かったな。」
「もう少し、地上にいると思ったのだけど・・・意外と早く帰ってきたわね。」
と言うだけだった。
「もう、堰龍兄様も汐龍姉様も・・・もう少し暖かな言葉はないのですか?」
「ない。」
「ないわね。これが玲龍だったなら、優しく出迎えもするでしょうけど・・・炯龍達ではその気になれないわ。」
「同感だ。」
と、堰龍は汐龍の言葉に頷いた。
「そうだろうとは思ってたけど、思ったとおりの出迎えだな。
兄貴も姉貴も、別にいいけどね。」
「でもこれでやっと元通りの生活に戻れる。
地上はやっぱり暮らし難いよね・・天上が一番だ。」
力いっぱい伸びをして、颯龍はそう言った。
遥か悠久の時から続いた三族の争いも終止符が打たれ、新たな時が流れ始める。
そして、全ては円満に落ち着き、竜達は静かな時を過ごす。
それは遥かな時の彼方、人が預かり知らぬ世界の話・・・
~FIN~