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3章~記憶の奔流と回る運命の歯車~



玲龍(れいりょう)。」


堰龍(えんりょう)兄様!」



 神殿にいた玲龍は、不意の呼び声に振り向き驚きの声をあげた。



「どうなさいましたの、兄様?


 天央(てんおう)に兄様が参られるなんて・・・東天(とうてん)に何かありました?」



 下の兄達と違い、自分が治める天<各神殿を中心とした都市>を滅多に離れて来ない長兄と姉。


 その長兄に向かって、玲龍は何かあったのかと心配そうな表情を浮かべてそう言った。


 しかし、言われた当の本人はそんな妹に微笑みを返してこう言う。



「お前がそんなに心配せずとも、東天はいつもと何も変わらないよ。」



 彼がこんな微笑みを向けるのは、恐らくこの世界でこの妹ぐらいなものであろう。


 向けられている方の玲龍はそんな事は全く気付いていないようであるが・・・。






 玲龍達が今いるこの場所は、天上界の中心に位置する天央の更に中心部にある天央神殿てんおうしんでんである。


 この神殿の奥深くで、太陽を司る日の水晶と月を司る月の水晶を守り、この二つの水晶を使い地上に光を与えるのが、竜族の巫女姫---玲龍の務めであった。


 そしてこの二つの水晶と玲龍を守る為、天央神殿には竜族でさえも容易に通り抜ける事が出来ないように、幾重にも結界が張られていた。



 この天央神殿を中心として東西南北に分けられた四天を、それぞれの長---四竜帝が治めているのである。


 この四竜帝が自分の神殿を離れる事は少ない。


 但し、二・三番目の炯龍(けいりゅう)颯龍(そうりゅう)は時々天央神殿にやって来るが・・・四竜帝が神殿を離れる時は、大抵の場合が戦乱時期であった。


 というよりも、四竜帝が己が神殿を離れるのは、何か非常事態の時だけであると言われているくらいなのだ。






「では、どうなさったのですか?


 炯龍兄様や颯龍兄様と違い、堰龍兄様と汐龍(せきりょう)姉様がここにいらっしゃるなんて事、あまりございませんもの。」


「俺がここに来るのは、そんなに珍しい事か?」



 玲龍の言葉に、堰龍は心外だと言うような表情を浮かべて言った。


「以前いらっしゃったのは、確か一年程前でしたわよ?


 その間に地上の文明は一度滅んでしまいましたわ。


 私たちがよいようにと導いても、彼らの滅びを避ける事は出来ないのでしょうか?


 いつの時代も、必ず人族は滅びの道を選んでしまう。


 私達竜族にとってはほんの一時の短い時の中で、彼らは発展を遂げながら幾度も争いを引き起こして滅びの未来を選んでしまう。」



 地上を映す水鏡を眺め、玲龍は堰龍に言う。


 その水鏡を、堰龍も覗き込んだ。



「なるほどな。人は滅び、また始まりの時を迎えたのか。


 確かに、俺達にとってはたった一年でも、地上に生きる彼等人族にとっては百年近くになる。


 そうなると、俺が玲龍に会うのは百年ぶりという事になるな?」



 堰龍は苦笑いを浮かべ、玲龍に言った。



「炯龍兄様と颯龍兄様は、十日に一度はいらっしゃってますわ。」


「あいつらは・・・そんなに自分の神殿を離れて来るのか?


 一度じっくりと話をせんといかんな。」



 玲龍の言葉に、堰龍はまったく困った奴らだと言う風に小さく溜息を吐いた。


 その言葉に玲龍は、二人は二日ほど前にも来たと付け足した。



「それで・・・堰龍兄様は、今日は何の用で参られましたの?」


「別に用はない。久しぶりにお前の顔を見ようと思って来ただけだ。


 会う度に綺麗になって行くな、お前は。」



 そう言って、堰龍が笑顔を見せると、



「まぁ!堰龍兄様がそんな事を言われるとは・・・・驚きましたわ。」



 と、心底驚いたという風に、目を丸くして玲龍は言った。


 本当に本心から驚いているようだ。



「そんなに変か?」


「変です。炯龍兄様は、会う度に言ってくださいますけど・・・私自身には、そんな事わかりませんもの。


 気にもしませんし、別に美人でなくともいいのです。」


「そうか?俺は、お前は一族の中では一番の美人だと思うぞ?」


「あら。お母様の方がお美しいと言う者もいますわよ?


 それに、姉様も美人ですわ。」


「母上に汐龍なぁ・・・確かに母上も美人だったが、結局本質的にはお前の事だぞ?


 それに汐龍は気の強さが顔に出てるからな。男に近いものがあるな。」



 玲龍の言葉に、堰龍は少し呆れたように言ったのであった。







 四竜帝の母---前天央宝珠女神は玲龍自身でもある。


 それは、天央宝珠女神と四竜帝は自分達の死期(寿命)が近づくと、宝珠女神の身体の中にある竜珠から、新しい竜珠を創り出す。


 その竜珠と古い四竜帝の身体から新しい四竜帝を産み出すのだ。


 順番に新しい四竜帝を産み出した後、残った古い四竜帝の竜珠を一つにして、新しい天央宝珠女神の竜珠と身体を創り出して、宝珠女神はその生命を終える。


 つまりは再生を繰り返しているようなものなのである。


 但し、新しい身体---子供達がある程度成長するまで、四竜帝の記憶も力も、宝珠女神としての記憶も力も新しい身体に移る事はない。


 あまりに幼い身体と精神では、強大な力を持て余してしまうからだ。



 また、竜族全てがこのように再生を繰り返しているわけではない。


 他の竜族は、普通に夫婦で子を作り、年老いては死を迎える。


 彼等5人、つまりは長達だけが特別な生態をして、同じ記憶を持ち続けて再生を繰り返すのであった。


 ただ、四竜帝も宝珠女神も、新しく生まれる(再生する)時の姿や性格は全くの別人であると言っていい。


 記憶と力だけが以前と同じものを持つ事になるということだけで、全てに於いて同じ事は有り得ないのだ。






「あら、兄様。


 私とは言っても、容姿も性格も違うのですもの、結局は別人ですわよ。


 同じなのは、宝珠女神としての記憶と力だけなのですから、きっと前宝珠女神・・・お母様の方が綺麗だったのだわ。


 お母様に仕えていた者が言うのですもの・・・」


「そうかな?俺は今のお前の方が美人だと思うのだがな。」


「それだと・・・少しは嬉しいかも知れないわ。」



 そう言って玲龍は堰龍に、小さく微笑みを返したのだった。





********************************************





【ピピピピピピッ】



 軽快に目覚ましのベルが部屋に鳴り響く。


 珠姫はベッドから手を伸ばし、カチッとそれを止めた。



「また・・・・あの夢だわ。


 なにかしら?


 知らない場所で、見たこともないはずの場所で・・・違う姿をしているのにお兄ちゃんだと解る人と話をしている・・・夢。」



 ベッドから起き上がった珠姫は、そう呟いた。




 クモに襲われたあの時から、毎夜の如く見始めた夢。


 遥かな時の彼方の記憶。


 珠姫自身は夢と思っているが、心の奥底に確かに残っている玲龍としての記憶が、珠姫の中で目覚め始めていた。




「ああ、もう!


 毎日毎日、同じことで悩んでてもしょうがない!


 起きてご飯の用意しなくちゃ。」



 自分の頬をパチンと叩き、珠姫は着替えを済ませて階段を下りて行った。





********************************************





漲麒(ちょうき)煌麟(こうりん)。」


「何だい?」


「何よ?」



 薫---(めい)の言葉に(しょう)---漲麒と光---煌麟は振り向き返事をする。煌麟に至っては、ほとんど喧嘩でも仕掛けそうな勢いだ。



「竜族の弱点は何だ?」


「そりゃあ、竜珠だろ?」


「でも、竜珠を傷つければ彼らの逆鱗に触れることになるわよ?


 下手したらこっちの身が危ないわ。」



 瞑の言葉に、二人は当たり前のことを今更聞くなとでも言うような顔で答える。



「なら、四竜帝の弱点は?」



 もう一度瞑が聞いた。



「それはもちろん、玲龍姫だろ?」


「天帝達の竜珠は、宝珠女神そのものよ。」



 今度も二人は当たり前だと言うように答えた。



「その宝珠女神を死なせてしまったから、あたし達が滅ぼされてしまったんでしょ。


 竜珠を傷つけてしまったんだもの、天帝達の逆鱗に触れたのよ。


 破滅竜になった天帝達には、さすがに敵うわけないのよね。」



 煌麟は、付け加えてそう言った。


 漲麒の方は、なぜ今更こんなことを聞くのかと瞑に聞く。



「もちろん・・・竜族に勝つ為さ。」


「でも、姫を攻撃するのは四竜帝の逆鱗に触れる事だ。こっちの命が危なくなるよ。」


「誰も、竜の姫を殺すなんて言っていないだろ・・・手に入れるのさ。」


「手に入れる?」



 瞑の言葉に、漲麒と煌麟は口を揃えて聞き返す。それに、瞑は頷いた。



「手に入れるって・・・そう簡単にはいかないよ?」


「そうよ。常に彼女の側には天帝の一人がついているもの。無理よ。」



 漲麒と煌麟は交互に瞑に反論を返す。


 だがしかし、瞑の方はその言葉に口の端を笑みの形にして言葉を返す。



「そんなに無理とは思わないね。


 側にいるとは言っても、四六時中べったり寄り添っているわけには行かないものさ。


 どうしても、ほんの一時目が離れる時がある。」


「その一瞬の隙に攫うと言うの?」



 煌麟の言葉に、瞑は人族の男共ならば魅了されるであろう妖艶な微笑みを浮かべて頷いた。



「覚醒していない今ならば・・・普通の人族の娘と同じ。


 竜族の力で抵抗されるような事はない。」


「そうは言うけどさ・・・それでも結構難しいと思うよ?」


「一瞬の隙を見つけるのは難しいが、気長に行けばいいだろう。


 時間は十分にあることだし・・・まぁ、それも覚醒される前にという条件下でだけどね。」


「とりあえず、目の届く範囲で待機しましょうか。」



 煌麟の言葉で三人は車に乗り込み、雨宮家の様子が解る場所へと向かった。





********************************************





「行ってらっしゃい。」


 司、快、至の三人を送り出し、珠姫は家の中に入った。


「炯龍、颯龍。奴らの気を感じる。」


「うん。微かにだけど、結構近くにいるみたいだね。」


「姉貴だけで大丈夫かな?」


「纏めて来られると危ないな。」



 三人とも、歩きながら険しい顔つきで話を進める。



「僕戻るよ。」


「俺も戻ろうか?」


「いや、一人でいい。二人も戻れば珠姫が不審に思う。


 颯龍が戻れ。仮病でも何でも使って、珠姫に看病させろ。


 そうすれば珠姫の事だからほとんど側から離れないだろうからな。」



 司の言葉に至は頷き、快はそれなら自分でもいいじゃないかと言った。



「お前が病気になるような奴か?


 お前がもし仮病なんか使ってみろ、珠姫が余計に心配するだろうが・・・普段元気なヤツが病気になるほど、怖いものはないからな。」


「チェッ・・・わかったよ。颯龍、しっかり守れよな。」



 悔しそうに舌打ちして、快は至にそう言い放つ。



「もちろん、わかってるよ。」



 至はそう言って頷くと、振り返って家に向かって道を戻って行った。





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「北竜王が戻って来たみたいだ。」



 至が家に戻ったのに気付き、漲麒がそう他の二人に言った。



「気配に気付かれたか?


 なるべく隠したつもりだったが、案外敏感だな。」


「今日は素直に諦めた方がいいかもね?」


「そうだな。」


「もう少し遅く来ればよかったんじゃない?


 三人が出た後ぐらいの時間にね。


 そうすれば、天帝の一人が残っているだけになるわ。


 四人とも出て行く事はないでしょうからね。」



 煌麟が車のシートにもたれかけながら、そう二人に言った。



「確かにそうだな。次は、もう少し時間を考えて訪問するとしよう。」







「至くんどうしたの?忘れ物?」



 突然戻って来た至に、珠姫は驚いてそう聞いた。



「ううん・・・違うよ。なんだか頭が痛くて・・・戻って来たんだ。」


「やだ!風邪引いたのかな?・・・ん~、熱はないみたいだけど・・・引きかけかしら?


 とりあえず、部屋に行って寝てて。一応体温計持って行くから。」



 至の額に自分のそれをくっつけた後、珠姫はそう言って薬箱を取りに行く。


 言われた方の至は階段を上って自分の部屋へと向かう。






「どうしたの、珠姫?」



 珠姫が慌てて薬箱を持って行くので、リビングで本を読んでいた怜香はそう聞いた。



「至くんが風邪引いたみたいなの。頭が痛いって今戻ってきたから。」


「風邪?酷くならないうちに治さないといけないわね。


 私はレポートがあるから部屋にいてるわ。


 気にせず至の看病をしてちょうだい。」


「そう?でも、お昼ご飯は食べてね、作るから。」


「それはもちろん、喜んでいただくわ。」



 怜香は珠姫に笑顔で答えた。




「はい。体温計。これは、風邪薬。


 熱があるようなら飲んでね。


 なかった時は、引きかけかも知れないから酷くならないようにこのまま寝ててね。」



 体温計を至に渡し、薬と水の入ったコップを机に置いた。



「まだ洗濯が残ってるから、先に終わらせて来るわね。


 その間に熱測っておいてね。」



 そう言って珠姫は、至の部屋を足早に出て行った。


 珠姫が階段を下りて行くと、入れ替わりに怜香が至の部屋に入って来た。



「颯龍、これは兄さんの命令なの?」


「そうだよ。奴らが側に来てたみたいだから、もしもの時の為にって僕が戻ったんだ。


 仮病で戻ってきても怪しまれなかったのは、僕ぐらいだったからね。」


「確かに、炯龍が風邪を引いたなんて嘘はすぐばれてしまうわね。


 彼等は今日は退いたみたいだけど、ばれないようにしっかりとやりなさい。」


 快が仮病なら確かにばれると苦笑してからそう言った怜香に、至は任せてよとウインクを返した。







「う~ん・・・ちょっと熱があるみたいね。まだ頭の方は痛い?」


「薬飲んだから大分マシになって来たよ。大丈夫。」


「無理はダメよ。何か欲しいものはある?桃でも持ってこようか?」



 心配そうに至の顔を覗き込み、珠姫はそう聞いた。


 至の方は心の中で珠姫に謝りながらいらないと返す。



「そっか・・・まぁ今日一日はこのままゆっくり寝て、元気になってね。


 快くんと違って至くんは小さい頃よく風邪を引いていたけど、最近はあまり引かなくなってたから油断したのかな?」


「珠姫ちゃんが帰って来たから気が緩んじゃったのかもしれないよ?


 大丈夫、昔より体力もあるんだからしんどくはないよ。」



 にっこりと笑って至がそう言うと、珠姫も笑顔を返す。



「本当にしんどいようならちゃんと言ってね。お昼は玉子雑炊作ってあげる。」



 そう言って珠姫は至の部屋を出た。





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「時間をずらすとして・・・いつぐらいがいいかな?


 あまり遅すぎてもダメかもよ?」


「昼過ぎ・・・中にいる竜帝は部下に(おび)き出させるか・・・何かに気を引かせる方がいいな。」



 煌麟の言葉に漲麒が返す。それに対し瞑が言葉を続けた。



「そうだな・・・もうすぐ兄弟達が帰って来ると気が緩んだ時に、部下に気を引かせる。


 ・・・いや、私達の誰かが相手をした方が時間が稼げるかな。」


「そうだね。」


「でも相手によるわよ?


 東竜王か西竜王が相手じゃ、あたしには苦しすぎるもの。」



 瞑の言葉に頷く漲麒の横から煌麟が言う。



「ならば、残っている天帝で誰が行くか決めればいい。


 そいつの相手を一人がしている間に、残りの二人が竜の姫を攫う。」



 瞑がそう提案すると、即座に煌麟と漲麒は言葉を返す。


「じゃあ、あたしは南竜王か北竜王の時に相手をするわ。」


「なら僕は、後の二人の相手をするよ。」


「そうなると私は、誰が残っていても竜の姫を連れ去る役という事になるな。


 それでいいのか?」



 瞑の言葉に、二人は頷いた。





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「今日はいないみたいだが、油断するなよ。」


「解ってるよ。任せときなって!


 兄貴達は何の心配もせずに行ってきなよ。」


「その言葉がイマイチ信用ないんだけどね。


 まぁ、ここは信用して行ってくるわよ。」



 司の言葉に快は自信満々に答えたが、怜香は小さく溜息を漏らしてそう言ったのだった。



「お兄ちゃん達何してるの?遅れちゃうわよ。」



 玄関で話をしていた四人に、階段を下りて来た珠姫が言った。



「あぁ、行ってくる。」


「行ってきます。」


「いってきま~す。」


「はい、いってらっしゃい。」



 三人を送り出し、珠姫は快に洗濯物を干すのを手伝ってくれるように言った。

 因みに快は『今日は高校の創立記念日で休み』ということになっている。



「快くん。これが終わったら掃除も手伝ってくれる?」


「いいよ。その代わり、お昼ご飯は俺の好きなチャーハンにしてよ。」


「いいわよ。大盛りにしてあげるわ。」



 洗ったばかりの洗濯物を干しながら、珠姫はそう言った。


 その言葉通り、珠姫は快の昼食にチャーハンを大盛りで作ったのだった。





********************************************





「今日の守役は南竜王のようだな。」


「じゃあ、相手をするのは煌麟だね。」


「よかったわ。」



 煌麟は嬉しそうにそう言った。それに対し、漲麒がなぜかと聞く。



「だって宝珠女神を攫うだけの役なんて退屈なんだもの。


 それくらいなら、天帝の相手をする方が絶対面白いじゃないの。」


「あははは、煌麟らしいや。」


「じゃあ始めようか。


 煌麟は計画通りに天帝を誘き出しておく。その間に私と漲麒が竜の姫を攫う。」


「わかった。」


「任せてちょうだい。」



 煌麟は喜びを隠しきれないというような笑顔で頷き、漲麒もずっと手に入れたかった玲龍を手中に収める機会を得た事に嬉々としていた。





********************************************





「!?・・・この気配・・・麒麟か!」



 家の近くから感じられた敵の気配に、快は小さく舌打ちをして呟く。



「くそっ!よりによって俺一人の時に大物登場かよ・・・結界を張ってやり過ごすか?


 ・・・いや、玲龍の周りに結界を張っておいて離れて片付ける方がいいか。」



 昼食を食べ終えて部屋にいた快は、階下で夕食の下ごしらえをしている珠姫の周りに自分の結界を張り、部屋の窓を開けた。




「どこだ?」



 外を見て快は自分が察知した敵の気配の出所を探す。



「!・・・あそこか!」



 少し離れた場所に煌麟の姿を見つけた快は窓から飛び出し、煌麟の元へと向かう。


 この時もう少し快が冷静であったならばあと二つ、微かに敵の気配を感じられたはずであった。


 だがしかし、この時の快は煌麟が発していた強烈な殺気から珠姫を遠ざけることが先に出て、残り二人が押さえ込んでいた微かな気配に気付くことが出来なかった。


 もしも気付いていたならば、結界を張ったとはいえ珠姫を一人にする事などあるはずがなかったのだから・・・






********************************************






【ピンポーン】


 雨宮家のインターホンが鳴り響く。



「は~い。」



 珠姫はパタパタと走って行き、モニター越しに応える。



「どちら様ですか?」


【雨宮さん、小包をお届けに参りました。受け取りにサインをお願いします。】



 珠姫の問いに帽子を被った青年の声がモニターから聞こえた。



「はい。ちょっと待ってくださいね。今行きますから。」



 ガチャッと受話器を置いて印鑑を手にし、珠姫は玄関へと急いだ。


 そして扉を開ける。



「お待たせしました。荷物は・・・」



 そこから先、珠姫の意識は闇の底へと向かい、次に目覚めるまで自分の身に何が起こったのか、珠姫には知る由もなかった。


 気を失った珠姫の身体を抱き上げ、漲麒は瞑の乗っている車に乗せた。



「いたたた・・・強烈な結界を張ってくれたものだよ。


 右手が焦げちゃった。でもこんなに上手く行くとはね。」



 漲麒は嬉しそうに自分にもたれかかっている珠姫の髪を梳き、運転席に座る瞑に言ったのだった。





********************************************





 煌麟の目の前に立った快は煌麟に向かって叫ぶ。



「よく俺の前に一人で現れたな!


 玲龍には指一本触らせないからな!」


「あら、それはどうかしら?


 あなたをここで倒してしまえば、宝珠女神を攫う事なんて簡単じゃないの。


 そうすれば残りの天帝もあの娘を盾にしてしまえば簡単に倒せるわ。」



 この時、快が自分の言葉を反芻するだけの余裕があったならば、まだ珠姫の元へと戻れば間に合っていたのだ。


 だがしかし、早く珠姫の元へ戻らなければという焦りが、快に冷静な判断力を失わせ、煌麟の言葉が挑発である事に気付かせなかったのであった。



「何だと!お前が俺を倒すだって?・・・笑わせるな!」



 まんまと煌麟の挑発に乗せられてしまった快は、怒りのオーラを全身に纏っていた。



「あら、人の姿のままで行くのね?


 まぁいいわ。さぁ、はじめましょうか。」



 煌麟の言葉で、二人は同時に炎の塊を相手に向けて放った。


 二人共力は同じ火属性である。



 二度三度と二人は炎の塊を相手に向けて放つが、炎は二人の間でぶつかり四散する。



「さすがね。あたしと同じだけの炎の力を持つ者なんてあなたぐらいだわ。」


「こっちも褒めてやるよ。俺の炎と互角の炎を出すヤツなんか、お前がはじめてだ。


 あの時はお前が相手じゃなかったから知らなかったからな。」



 煌麟の言葉を返すように快も煌麟の力を褒めた。



「それはどうも。・・・でも、この決着はまた今度ということになりそうだわ。


 始めたばかりでもっとあなたと遊んでいたいところなんだけど、どうやら時間みたいなのよね。」



 何かに気付いた煌麟は構えを解き、ふと残念そうにそう言った。



「どういう事だ!」



「それは家に戻れば解るわよ。じゃあねぇ、南竜王。また遊びましょ。」


「待て!」



 快の言葉など気にも留めず、煌麟はその場から姿を消した。



「どういう・・・!?・・・玲龍!」



 ハッと気付いたように快は踵を返し、急いで家へと戻った。


 そこにはすでに珠姫の姿はなく、ただ外に出ようとして開けたのであろう玄関の扉がそのままにされているだけなのであった。



「玲・・・珠姫ちゃん!珠姫ちゃん・・・」



 玄関から中に入り、快は珠姫の名前を呼ぶ。


 だがしかし、いつものように珠姫の返事は返って来ることもなく、家の中は静まり返っていた。



「何てこった・・・兄貴達に何て言やいいんだよ。・・・クソッ!」



 家が揺れるのではと思うほどに壁を叩きつけ、快はそのまま壁にもたれた。


 そして、冷静さを失いまんまと敵の罠にかかってしまった自分の不甲斐なさを呪った。






********************************************





「ただいま。」


「おかえり。楽しめたかい?」



 戻って来た煌麟に漲麒が聞く。



「まだ始めたばかりだったのよ。


 もう少し遊びたかったかな?


 まぁ、まだ機会はあるしね。それで、そっちの方は?」



 遊び足りないと言う風に不満顔で煌麟は答えてから言う。


 その言葉に漲麒は嬉しそうに答える。



「もちろん、上手く行ったさ。今は隣の部屋にいるよ。眠っているけどね。」


「次は天帝達ね。」


「これからが本番だよ。」





********************************************





「何だと!」


 帰って来た司がそう怒鳴った。


 珠姫が連れ去られた事を怜香に聞かされたからだ。



「炯龍!お前が付いていながらどうして守れなかったんだ!」


「兄さん、炯龍を責めても仕方ないわよ。


 炯龍が白火麟はくかりんの相手をしている間に連れ去られたんだから・・・。


 いくら快でも、一度に相手は出来ないわ。


 それよりも今は、玲龍のことよ。」



 怜香が司を宥め、その場は一旦落ち着いた。


 怜香が司を抑えなければ、快は司に殴られていたであろう。




「玲龍を殺さずに連れ去ったと言う事は、俺達に対する盾か・・・」



 落ち着きを取り戻し、冷静になった司はそう判断した。



「多分そうでしょうね。


 玲龍を傷つければ私達の力を制御するものがなくなるから、彼らに勝ち目はないわ。」


「反対に玲龍を盾にすれば、僕達は手が出せないもんね。」



 怜香の言葉に至が続ける。



「それがわかっているからこそ、奴等は玲龍を攫って行ったんだろう。


 まだ覚醒していないのだからな。」


「覚醒していれば、玲龍を攫う事など出来ないわ。


 特に黒水麒こくすいき・・・漲麒はどんな目に遭うか、身をもって知っているのだから。」



 まだ珠姫が玲龍であった遥かな時の彼方、漲麒が連れ去ろうとした時のことを怜香は言った。






 漲麒は戦闘の最中に天央神殿に入り込み、玲龍を攫おうとした。


 だが途中で気が付いた玲龍が、恐怖のあまり発した力の為にそれは失敗に終わった。


 この時に月の水晶と日の水晶は砕け散り、自らで天に月日は昇るようになった。


 そして玲龍は暴走した力の放出を止められず、命を落としたのであった。





「そうだ。覚醒していないからこそ、玲龍は余計に危険なんだ。


 ここでもし力だけ覚醒してみろ・・・自分で制御出来ずにあの時の二の舞だ!」


「危険を察知して無意識に力を放出してしまっては・・・覚醒していない今の玲龍に止めることは出来ないからね。」


「早く探さないと・・・」


「・・・あいつはまた会おうと言ったんだ。」



 三人が話している間、一言も喋らなかった快が突然そう呟いた。



「炯龍、何と言ったの?」



 その快に怜香が聞き返す。



「白火麟は・・・煌麟はまた会おうと言ったんだ。」



 今度は呟きではなく、ハッキリと言う。



「また会おうと言った。


 つまりは彼らはすぐに私達に接触してくるという事かしら?」


「かもな。」


「そうなると、待つ方が得策でしょうね。

 居場所も解らないのに動き回るよりも、あちらから出向いて来るのを待つ方がいいと思うわ。」


「だがあまり待ってもいられないな。


 いつ玲龍が覚醒するともわからない。


 この状態で覚醒すれば・・・それこそ玲龍は恐怖のあまり力を暴走させてしまうだろう。」



 以前のことが頭から離れない司は、苦悩を隠しきれなかった。






********************************************






 玲龍はいつものように日の水晶を使い地上を照らしていた。


 そんな玲龍を呼ぶやさしい声が聞こえて来た。


 玲龍が振り向くとそこには、少し長めの青銀の髪を風になびかせた碧緑の瞳をした美しい女性---玲龍の姉、天帝西竜王汐龍が部屋の外に立っていた。


「汐龍姉様、いらっしゃいませ。


 今日は何の用ですの?それとも何かよくない事でもございました?」


「何も悪い事は起きてないわ。今日は聖水が切れたので貰いに来たのよ。」



 汐龍は笑顔でそう言いながら部屋の中に入って来た。



「姉様が直々にですか?


 使いの者をよこしてくだされば、お渡ししましたのに。」



 玲龍は汐龍にそう言いながら、巫女の一人に聖水を持って来てくれるように伝えた。


 玲龍に仕えて天央神殿にいる者は、全て巫女である。


 戦士などは全て、他神殿にいるか警備に廻っている。


 但し巫女とは言っても、戦士に負けない力を持っているのだが・・・。



「そうはいかないでしょう?


 ここには幾重にも結界を張ってあるから、一族の者でも入る事が出来る者は限られるわ。


 それに、玲龍の顔も久しぶりに見たかったしね。」


「そう言えば、結界が張ってありましたわね。


 私はここから出ることがありませんから、忘れていました。


 そうそうつい先日、堰龍兄様もいらっしゃいましたわ。


 姉様と同じように、久しぶりに私の顔を見たくなったとおっしゃっていました。」



 堰龍が訪ねて来た事を玲龍は汐龍に言った。



「兄さんが?・・・それは珍しいわね。」


「ええ。堰龍兄様にお会いしたのは、一年ぶりでしたわ。」


「それはそれは、随分と久しぶりね。そう言えば私も兄さんには一年程会ってないわね。元気そうだった?」


「お元気でしたわ。でも、姉様。


 そう言う姉様も、ここにいらっしゃるのは一年ぶりぐらいですわよ。」



 クスクスと笑いながら、玲龍は汐龍に言う。


 一方の汐龍は、そうだったかなと苦笑を返したのだった。



「姫様。聖水をお持ち致しました。」


「ありがとう。姉様にお渡しして。」


「汐龍様、どうぞ。」


「ありがとう。貰っていくわ。」



 汐龍に笑顔を向けられ、巫女は汐龍が女性だとわかっていながら、思わず顔を赤らめた。


 女性である汐龍も入れて四人の竜帝達は一族の女性達の憧れの的なのだ。



「姉様。そういえば最近、麒麟族の動きが活発になっているようですわ。


 地上で争いが絶えません。


 鳳凰族も動いているようです。


 何事もなければよいのですけれど・・・」



 少し表情を暗くして、玲龍はそう言った。


 そんな玲龍に、汐龍は優しく微笑んでこう言う。



「玲龍が心配する事はないわ。


 そんな血生臭い事は、私や兄さん達に任せておけばいいのよ。


 大丈夫だから、玲龍は地上の人族や動物たちに光を与えてあげなさい。」





********************************************





 珠姫が目覚めると、そこは見知らぬ部屋の中だった。



「また、夢・・・ここ・・・は?」



 目覚めた珠姫は、自分が見知らぬ場所にいる事に気付いた。


 そこはとても綺麗な部屋で、家具などもキチンと調えられていた。


 なぜ自分がこんな場所にいるのか、と珠姫が思案していた時、不意に部屋の扉が開かれ漲麒が中へと入って来た。



「やぁ。気が付いたんだね。気分はどう?」



 部屋に入って来た漲麒は珠姫が目覚めていることに気付き、すぐさまそう優しく声を掛けた。



「あなたは?・・・ここはどこなの?


 なぜ私はこんな所に・・・」



「質問は一つずつにして欲しいな。別にいいけどね。


 僕は、天海翔。ここがどこなのかという質問には、生憎と答えられないよ。


 それから、なぜ君がここにいるのかというのは、僕達が君をここまで連れて来たから。


 理由はすぐにわかるよ。」



 漲麒がそう言った後、扉をノックする音がした。入って来たのは、煌麟だ。



「あら・・・目が覚めたのね?」


「あなた達・・・双子?」



 部屋に入って来た煌麟の顔を見て、珠姫はそう言った。



「そうよ。漲麒とは双子なの。ところで漲麒、瞑が呼んでるわよ。」


「わかった。じゃあね、姫。また後で・・」



 漲麒は珠姫にそう声を掛けて、部屋から出て行く。




「彼は自分達が私をここに連れて来たと言ったわ。


 それは、どういう事なの?誘拐したという事?」



 漲麒が部屋を出た後。残っている煌麟に珠姫は自分の疑問をぶつける。


 一方、イキナリそう聞かれた煌麟は、一瞬キョトンとしてから、クスクスと笑った。



「誘拐・・・ね。まぁ、そんなところだけど、ちょっとばかり違うわね。


 すぐにわかるわよ。」


「答えてはくれないのね。・・・一つ聞いてもいいかしら?」


「どうぞ。あたしが答えられることなら、いくらでも。」



 珠姫の言葉に、煌麟は笑顔のまま答えた。



「彼は自分の事を、『天海翔』だと名乗ったわ。


 なのに、なぜあなたは彼の事を『チョウキ』と呼ぶの?」


「あら・・・漲麒ってばそう名乗ったの?


 それなら私の名前は、天海光よ。


 漲麒というのは、翔の本当の名前、私は煌麟よ。


 あなたが玲龍という名前であるようにね。」



「レイリョウ?それは、私の事なの?


 夢に出て来た名前・・・それが私の名前だと言うの?」



 自分の夢に出て来た名前。


 兄であって兄でない青年達が呼んだ名前。


 それが煌麟は自分の名前であると言う。


 その煌麟の言葉に珠姫は激しく動揺したのだった。


 そんな珠姫の言葉を聞き、煌麟はもう一度笑った。



「夢?・・・夢ですって!あははははっ!


 ・・・それは夢なんかじゃないわよ。それはあなたの記憶。


 天央宝珠女神、玲龍の記憶よ。」


「私の記憶?・・・私が、『レイリョウ』という女性だというの?」


「そうよ。あなたは天帝である竜帝達の妹姫、天央宝珠女神玲龍よ!


 あたし達一族の宿敵、竜族の姫だわ。」



 煌麟の顔からは先ほどまでの笑顔は消え失せ、険しい表情を浮かべて珠姫にそう答えたのであった。



「そうよ・・・漲麒があなたの事を欲しがりさえしなければ、天帝を倒した後にあたしがこの手で殺してやるのに・・・


 まぁいいわ。漲麒に捨てられないように、せいぜい気をつけなさい。


 捨てられたその時には、すぐにでもあたしが殺してあげるわ。」



 冷笑を浮かべてそう言った後、煌麟は部屋を出て行った。





「・・・私が・・・レイリョウ?・・・どういう事なの?


 あれは夢・・・でしょう?・・・どうなっているの?


 誰か・・・誰か教えて!」



 珠姫が混乱して何度も繰り返し叫ぶ疑問の声に、この時誰も答えるものはいなかった。


 ただ、部屋中に珠姫の悲痛な声が響き渡るだけなのであった。





********************************************






「瞑、何の用だよ?


 せっかく姫と話してたのに、邪魔しないでくれよな。」



 瞑の部屋に来た漲麒は、入るなりそう文句を言う。


 瞑の方は椅子に座り、その漲麒の言葉を何食わぬ顔で聞いて、そして表情一つ変えずにこう言った。



「それは悪かったね。」


「それで?・・・用は何?」


「天帝達に使いを出すが・・・どうする?」


「そんな事、勝手にやればいいだろ。


 煌麟とでも相談してさ。」



 瞑の言葉に、漲麒は興味なさそうに答えた。


 自分が遥かな時の彼方から欲していた者は、既に手中にある。


 この先の事には、漲麒にとって関心が薄れていたとしてもおかしくはなかった。



「それなら勝手にやるが、後で文句を言い出すなよ。


 それから、天帝を倒すまでは竜の姫に触れるな。」



 漲麒の言葉に瞑は答え、そう忠告する。


 これに、漲麒は解っていると言い返した。



「僕だって怪我でもさせて、四竜帝の逆鱗には触れたくないからね。


 用はそれだけ?だったら僕は、姫のところに戻るよ。」



 漲麒はそう言い残すと、瞑の部屋を後にした。


 漲麒が珠姫のいる部屋に向かう途中、廊下で煌麟に会い珠姫の所へ行くなと告げられた。



「何で?」

「きっと今ごろ混乱してるわよ。


 自分が何者なのか、イキナリ教えられたんだもの。」


「姫に言ったのか!?」


「そうよ。お前は天央宝珠女神、玲龍だ。天帝の妹だ・・・ってね。」



 煌麟はそう漲麒に答えてから、漲麒の前から去って行った。







 珠姫のいる部屋についた漲麒は、少し間を置いてから軽くノックし、部屋へと入って行った。



「姫?」


「・・・誰?・・・私は誰なの?」



 入って来た漲麒に視線を合わすことなく、珠姫は小さく呟く。



「私は一体誰なの?


 あなた達は一体何者なのよ!


 ねぇ、教えてよ!?」



 漲麒に視線を向け、今度はハッキリと珠姫は叫んだ。


 漲麒の姿を見据えた瞳には、溢れんばかりの涙の粒が浮かんでいる。



「レイリョウなんて私は知らない。天帝なんて知らないわ!


 私は雨宮珠姫よ。普通の女の子だわ。


 なのに・・・なぜ?・・・なぜ、あなた達は私をレイリョウと呼ぶの?


 ・・・なぜあなたは私を姫と呼ぶのよ!教えて・・・教えてよ。」



 嗚咽交じりにそう言い、珠姫は涙を流した。



「姫・・・」


「姫なんて呼ばないで!私の名前は珠姫よ!?」



 漲麒の声に、珠姫は泣きながら怒鳴ったのであった。










「瞑。天帝に使いを出すのでしょう?あたしが行くわ。」


「私は構わんが、漲麒がなんと言うか。」



 煌麟の言葉に、瞑は少し表情を崩し驚いた。



「漲麒のことなんかほっときなさいよ。


 宝珠女神の事で今は頭がいっぱいなんだから・・・あたしが行くわ。


 何と伝えればいいの?」



「伝える内容は煌麟の好きなように。


 天帝達がここに来るようにさえしてくれれば、それでいい。」


「わかったわ。」



 瞑にそう答え、煌麟は姿を消した。








「汐龍!奴等はまだ来ないのか?」


 司は苛立ちながら、怜香にそう言った。


「兄さん、少しは落ち着いてよ。


 兄さんが落ち着いてくれないと、炯龍と颯龍まで落ち着かなくなるわ。」



 怜香はいつも通りに冷静な顔で、イライラと歩き回る兄にそう言った。



「お前はよく落ち着いていられるな?


 玲龍が攫われてすでに二日経つんだぞ!


 玲龍がどれだけ心細い思いをしているか・・・何も出来ずにこんな所にいる自分がもどかしい。」



 同じ場所を行ったり来たりと、司はどうしても落ち着かない。


 そんな二人の所へ、快と至が戻って来た。



「どうだったの?」


「ダメだ。麒麟の奴等も、鳳凰の奴等も影も形もねぇよ。


 どこに行っちまったんだよ、いったい!」


「そう。・・・やっぱり待つしかないようね。」



 偵察に行っていた二人の言葉に、怜香は少しだけ肩を落とした。



「俺があの時玲龍を一人にしなければ・・・こんな事にはならなかったのに!」


「今更後悔しても始まらないわよ。


 それよりも、相手の出方によって、こちらがどう行動するかを考える方が先決だわ。」


「姉さん、何かいい方法でもあるの?」



 怜香の言葉に至が聞く。



「そうね。今の所まずは・・・彼等がどう出るかを待つことだけだわ。」


「それしかない・・・か。・・・玲龍・・・」

まだお付き合いください。

早ければ今夜次話投稿します。

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