夢追い人
某小説講座に送った作品。
駅からある人物の家を訪ねる設定、原稿用紙3枚程度という規定でした。
それでは、どうぞ。
ねぇ牧ちゃん、待ってるから。戻ったら話を聞かせてね。離れても僕はずっと――。
洋司の言葉は列車の扉に阻まれ、消えた。
列車の扉が開き、牧江は一人、狭いホームに降り立った。草の香りの混じった風が頬をなでる。小さな駅を出ると、高い建物のない町が広がる。こんなに広い青空を見るのはここを出て以来だ。大きなバッグを手に、牧江は寂れた街並みを通る。最初に行くところは始めから決まっていた。洋司の家だ。
洋司は幼馴染の控えめな男の子で、活発な牧江の後ろを常についていっていた。牧江が町を出ると決めたとき、一番気にかかったのが洋司のことだった。
『夢のために県外に行くんだってね、牧ちゃん。僕もさ、牧ちゃんと同じように――』
『あたしが出ていくのは、この町が嫌いだから、洋司のことが嫌いだからよ』
途端に洋司の目が暗くなり、しまったと牧江は思った。自分を追いかけず、本当にやりたいことをしてもらいたいだけだったのに、考えと違う一言を思わず言ってしまった。駅のホームに送りに来てくれた時も、洋司の目はそのままだった。
線の消えかかった道路も、人通りの少なさも、何もかも出て行った時と変わらない。
まるで何も変わってないみたい。洋司もきっとあの時のままで……。
わき道に入ると水田が目の前に広がる。その手前にある大きな平屋が洋司の家だ。
にこにこ笑う洋司が好きだった。昔のようにまた笑いあいたい。
走っていってインターホンを押そうとした。どんどんと心臓が騒ぎ出す。牧江は震える指でインターホンを押した。
しかし、中からの応答はなかった。
出かけているのかと肩を落とし、水田を抜けた先にある自分の家に向かう。農機があぜ道をのろのろ進み、青々と伸びた稲穂は風に揺れる。肩にかけたバッグが先ほどまでより重く感じられたので、持ち替えようとしたとき、
「あれ、牧ちゃん? やっぱりそうだ」
農機の上から声をかけられた。昔のように目を輝かせた洋司がそこにいる。跳ぶように農機から降りると、洋司は駆け寄りながらつづけた。
「おかえり。ほら、見てよこの田んぼ、綺麗だろ。僕、家を継いで日本一の田んぼを作ろうと育ててるんだ。僕も牧ちゃんと同じように目標見つけて頑張りたかったから」
「うそ……?」牧江は目を丸くして洋司を見つめた。「あの時あんなこと言ったから、あたしのこと嫌いになったでしょう。それなのに」
「嫌いに? まさか。すぐに僕の為を思ってだってわかった。それに僕はずっと、牧ちゃんのこと好きだよ」
「なんで?」
「なんでって、前にも言ったけど……」
洋司は頭を掻きながら頬を染める。
「牧ちゃんが僕のことを好きなら、僕は牧ちゃんのことが大好きだからだよ。ねぇ、向こうでの話、聞かせて」
声をあげて泣きたかった。牧江はそれを抑え込み、ただ、ありがとうと何度も言い、洋司に抱き付いた。
講師のかたに オチの弱さや言葉の選び方を
いろいろと指摘されましたが、そのままお届けしました。
うん、確かに、最後の洋司の台詞が弱い。
本当はもう少し違う設定だったのですが、
設定の指定により、物語を少しだけ変えました。
その結果、一番書きたかったところを省くことに……。
登場人物二人の名前はその名残です。
書きたかったところを書いた作品は、別タイトルで載せます。
辛口コメントも甘口コメントも大歓迎!
評価だけでも喜びますので、よろしくお願いします。
……それにしても、農家設定が唐突すぎて今更ながら少し後悔しています。
うーん、伏線をどこかにおくべきでした。