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異端覚者の英雄譚  作者: 北乃雪路
序章 変わらぬ世界、変わる自分
9/13

第8話 決戦前

本日は2話連続投稿です。

ご意見・ご感想をお待ちしております。

「つぅ……やっぱ、キツイな」


 かろうじて着地することができたが、身体中に衝撃が駆け抜け、身体がジンジンと痺れていた。


「お兄ちゃん、大丈夫だよね!?」

泣きそうな顔をしながら雪が聞いてくる。


「あぁ、なんとかな」


 俺は笑顔を見せ、雪を安心させようとしたが、少し引きつった笑顔になっていた。


「無茶しないでよ、お兄ちゃんのバカァァ!」

「悪い悪い」


 雪が目尻に浮かんだ涙を拭いながら罵声を投げかけてくる。


「お兄ちゃん、あっちに道があるよ」

「あれが来る前に急ぐか」


 泣き止むと雪は奥に続いている道を指を指した。

 俺は身体に鞭を打ちながらも立ち上がり、雪と共に道なりに走っていった。

 道の突き当たりにあった部屋に逃げ込み、扉の鍵を閉め、一息ついた。


「とりあえずは助かったかな」

「この部屋の扉にあった魔障壁発生器に魔素注いで魔障壁を張っておいたからちょっとの間は大丈夫そうだね。お兄ちゃん、ちょっと下がってて、今シロを呼び出すから」


 レッグポーチからさっきよりも複雑な紋章が書かれたお札を出し、さきほどよりも強く魔素を流す。


「来て、シロ」


 魔素を流し終えたお札を地面に置くとそこから白く綺麗な毛並みで誰もが感じられるほどの威厳と風格を兼ね備えた体長2mほどの虎のような幻獣が現れた。

 第五階位幻獣 白虎。

 それが雪が召喚した幻獣だった。


「何用だ我が主よ、いつもの惚気話なら聞かぬぞ」


 威厳ある声で白虎___雪が勝手に名付けてシロと呼んでいる___が嫌そうな顔をしながら呼び出されて々そんなことを言った。


「……お前シロにいつもなに話してんだよ」

「いつもじゃないよ! 本当にたまにだよ。シロも余計なこと言わなくていいの! 今日呼んだのは別の事」


 俺が雪をジト目で見ると雪は慌てた様子で弁解しながらシロをポカポカと殴っていたが、シロには全く効いていないようだった。


「では、主よ、何用だ?」

「悪性霊体がここに来るから、シロはそれの迎撃」

「ほぉ、そのようなまともな呼び出しは久方ぶりだな」


 満足そうな声とともにシロの目に好戦的な光が宿った。


「久しぶりだな、シロ」

「久しいな小僧、前よりは幾分かマシな面構えになっておるではないか」


 俺は近づきながら話しかけるとシロはニヤリと笑いながら生意気な事を言いながら返事を返す。

 雪が初めてシロを召喚した時にも立ち会っており、シロとは昔からの顔馴染みであった。


「我が来てやったからには安心しろ、お前らの命は守ってやる」

「そりゃ、ありがたい。なら俺はこの部屋の探索をしてくるから雪を見ておいてくれ」


 俺は雪がいる方に視線を向けると度重なる召喚と今までの疲労が重なり、疲れたのか雪は地面にぺたんと座り込んでいた。


「心得た。小僧もあまり無茶するでないぞ」

「分かってるって」


 シロの言葉を受けながら俺はシロと雪を置いて部屋の探索を開始した。




「でも、ここは何の施設なんだ? 軍の施設……なんだろうが、最近使われた形跡がないな。大戦時の地下司令室それとも研究施設か?」


 机の上に溜まっていた埃を指で撫でながら辺りを見回す。

 部屋はそれなり広く、コンソールのようなものが置かれ、字は掠れてボロボロになっているが辛うじて日本国防陸軍総司令部発と読める何かの作戦指令書のような書類が乱雑に置かれたりしているところから軍の施設であることは間違いなかった。


「ん、これは……隠し扉か」


 俺がさらに部屋の中を入念に探索していると別の部屋に通じているであろう隠し扉を見つけた。


「これは……」


 隠し扉の先は小さくこじんまりとした部屋で、その部屋の中央には一振の刀がまるでこの部屋の主だと言わんばかりに鎮座していた。

 その刀は色々な管で繋がれており、まるでこの刀を封印しているように見える。

 俺は小さく息を呑みながらその刀をただ見つめていた。


「お兄ちゃんどうしたの?」


 ある程度体力が戻ったのか隠し扉から雪が顔を出してこちらを覗き込んだ。


「雪、これ見てみろよ……」


 俺が放心状態でその刀を指差す。


「これ、すごい魔素放ってる。これはたぶん神魔武装(デウス・アルマ)。お兄ちゃん、コレ絶対使っちゃ駄目だよ。お兄ちゃんは覚者じゃないんだから」


 雪は俺に厳しい視線を浴びせかけてきた。

 それもそのはず神魔武装は神器と呼ばれるかなりの魔素を秘めたオーパーツの一種を術式回路___霊魔技巧(マグナテクノ)の根幹となる部分。車で言うとエンジンにあたり術式回路が無ければどの霊魔技巧も動かない___に加工し、それを核として使い造られた武装であり、絶神技と呼ばれる固有技を持ち、神魔武装一つで戦況をひっくり返せると言われるほどの武装である。

 しかし、まず神器自体が希少で限られた数しかなく、さらに術式回路への加工が難しく、総じて神魔武装はその絶大な威力に比例して魔素の消費量が尋常じゃなく多い、加えて神魔武装には意思のようなものがあり、選ばれた者しか扱うことが出来ず、選ばれなかった者が無理やり使用しようとすると死に至ることすらある。


「分かってるよ」


 苦笑を浮かべながら俺は返事をした。

 確かにこの刀に惹かれるものがあるが、同時に自分には扱えないということをひしひしと感じていた。


「……なら、いいけど」


 雪をまだ納得し切れていない様子だが、一応了承した。

 隣の部屋からひときわ大きな衝突音とともに獣の唸り声のようなものが聞こえてきた。


「主よ。奴が来たぞ」


 隣の部屋で待機しているシロの声が響いてきた。


「分かった。お兄ちゃんはここに居て、ここなら多分戦闘に巻き込まれることはないと思うから」

「お前が行くなら俺も」


 俺はそこら辺に落ちていた少し古くなっているが十分使える鉄パイプを刀の様に振るいながら、身体を解していると。


「確かにお兄ちゃんは強いけど、でも今のお兄ちゃんは正直足手まといだから」

「だけど……」

「大丈夫だよ、すぐに戻るから」


 俺の言葉を遮るように言葉を畳み掛け、雪は笑顔を見せると部屋を出て、外から扉を閉めた。


「……くそっ! 大切な時に俺は、無力だ」


 俺の自分のやるせなさと不甲斐なさに歯噛みしながら拳を壁に叩きつけた。




「お兄ちゃん、ありがと心配してくれて」


 部屋を出た後、雪ははにかみながら聞こえないように小さい声で呟いた。


「シロ、勝てる?」


 雪はサッと顔を引き締め、シロに問いかける。


「無論、と言いたいが悪性霊体とは生憎戦ったことがないから何とも言えんな」


 魔障壁で保護されているとはいえ悪性霊体の体当たりを受け続け、扉は音を立てて軋み始め、もうすぐ破られるだろう。


「いいのか主よ。あの小僧に助力を請えば勝つ可能性が上がるぞ」


……確かに脆くはあるが決して弱くはなく、この中で一番戦闘経験があるであろう一条 暁(こぞう)が戦列に加われば今よりも格段に勝率を上げる事が可能だ。


 そう考えた上での発言であったが。


「いいの、今度は私が助けてあげるの、あの時(・・・)とはもう違う。お兄ちゃん一人ぐらいは助けられるぐらい強くなったんだから」


 あっさりとその意見を却下し、雪はギュッと手を強く握りしめ、病的なほど悲壮な決意を滾らせていた。


「主よ、まさか死ぬ気ではあるまいな?」


 雪の病的なまで悲壮感に嫌な気配を感じとり、我が子を心配する親のような気分でシロが問いかける。


「あぁ、それは大丈夫。私はお兄ちゃんと結婚して幸せな家庭を築き上げるまで死ぬ気はないから」

「欲望に忠実だな我が主は、だが、そこが主の良いところだ」


 雪の自分の欲望全開の答えに安堵し、フッと笑うとシロは表情を引き締める。


「さて、久方ぶりに暴れるか」

「うん、思う存分暴れて」


 シロが体内の魔素を変換し、身体中に雷撃を纏わせて臨戦体勢に移行する。

 ついに魔障壁の扉を破られ、悪性霊体が盛大な唸り声とともに乗り込んできた。

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