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異端覚者の英雄譚  作者: 北乃雪路
序章 変わらぬ世界、変わる自分
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第5話 1日の終わり

「くそっ!」


 夕陽に染められた道場で、俺は門下生たちが一人また一人と帰っていき、自分の他に誰もいなくなっても、ただひたすら一人で鍛錬を続けていた。


「俺がちゃんとした覚者だったら………」


 刀を振るいながら唇を噛み締める。


 本来の覚者は自らの魔素を使用し、霊魔体法(マグナ・アーツ)___体内にある魔素が体の各器官に宿り、身体能力を飛躍的に増加させる術や、魔障壁___魔素を自分の周囲に展開し、バリアの様に機能させるもの、を覚者は常時展開しているため魔素を纏わせていない真剣や銃弾程度なら魔障壁が弾き返してしまう。

 よしんば魔障壁を超えたとしても、勢いを削がれた銃弾や真剣ならば、霊魔体法で強化された肉体の前には無意味だ。


 そのため覚者を倒すには、自らの魔素を武器に纏って戦う覚者同士、もしくは霊魔技巧を用いられ造られた魔導兵器を使うことでしか勝ち目はない。


 そのため覚者は国の貴重な戦力として見なされており、覚者としての能力が目覚めたら、国に対して報告義務が課され、その報告義務を怠ると実刑判決は免れない程の重罪となる。


 そのうえで覚者はランク付けされており、そのランクに応じて様々な特権とも言える権利が付与されていく。

 当然だが、上のランクになると、その分義務も増える。


 ランクは上からSランク、Aランク、Bランク、Cランク、Dランク、Eランクとランク付けされている。

 俺は体内魔素生成量はSランク並に多いが、魔素を扱うことが何故ができない。


 例えるならダム並みの水を持っているが、それを自由に扱うことが出来ないといった感じだ。


 幾ら膨大な量の魔素を持っていようと使えなければ意味がないので、俺は国家から覚者認定を受けていない。


 霊魔体法は魔素を体内に宿していれば勝手に身体能力を上げてくれるので、俺は霊魔体法で身体能力は覚者並でありながら覚者ではないという異端児であった。

 もし親父があの模擬戦の時、咄嗟に刀に分厚い魔障壁を張らなかったら、幾ら霊魔体法で強化された肉体とはいえ、刀が鳩尾に突き刺さっていただろう。





「お兄ちゃん、叔父さんと叔母さんがもうすぐご飯だから戻って来なさいだって」


 どれぐらいの時間が経ったのか、夕陽も沈み、薄暗くなっても一人鍛錬を続けているところに雪がやってきた。

 実家の手伝いをしていたのか雪は制服姿ではなく巫女装束を身につけていた。


「雪か、なんでまたこんな時間に道場に来てるんだよ?」


 刀を鞘に収め、置いてあったタオルを拾いあげ、汗を拭きながら、雪のほうを向く。


「お母さんが漬け物作ったから持っていけって、お兄ちゃん、お母さんの作った漬け物好きでしょ?」

「あぁ、叔母さんの漬けた漬け物は美味いからな」

「だから、お兄ちゃんの好物を持ってきた、良い子な私にご褒美をくーださい!」


 雪がいきなり抱きついてこようと飛びかかってきたが、それを華麗に避け、床に激突しそうになっている雪の巫女装束の首の部分を掴んだ。


 それはさながら親犬が子犬の首根っこを咥えて運ぶようだった。


「こら、危ないだろ?」

「お兄ちゃんが優しく受け止めてくれるって思ってたのに……… あ、でも、これはこれでありかも……」


 顔を赤くし、何故かモジモジし始めた雪を一瞥したあと、ゆっくりと床に降ろす。


「アホなこと言ってないで戻るぞ」

「はーい」


 刀を蔵に戻し、道場を施錠して雪と共に道場から家に向かった。





「あらあらようやく帰ってきたのね。お帰り、暁」

「ただいま、母さん」


 道場から家に戻り、リビングに入ると、テキパキと料理を机の上に並べていきながらニコニコ顏で出迎えてくれたのは一条 綺音(いちじょう あやね)____俺の母で、確かもういい歳だったはずだが、二十代後半と言われても十分に通じる程の若々しい美貌を保っている。


「雪ちゃんもありがとう。折角だから晩御飯食べていく? 綾香の方には私から伝えておくし」

「いいんですか!」

「いいわよ。食事は多い方が楽しいし」

「ありがとうございます、叔母さん」


 思わぬ提案を受け、驚いていたが、嬉しそうに快諾した。

 ちなみに綾香とは雪の母の名前であり、母さんとは親友同士だ。





「そういえば、そろそろ研修旅行ね。今年はどこに行くの?」


 食事を食べ進めていると、ふと思い出したかのように綺音が聞いてきた。


「今年は旧兵庫絶対防衛圏ですよ」


 ちゃっかりと俺の隣の席を確保して、食事を取っていた雪が答えた。


 研修旅行とは俺たちが通う学校の一年生が最初に行う行事で、大戦の跡地などを見て回り、大戦についての学習と入学したばかりの一年生同士の交流を深める事を目的としていた。


「へぇ、あそこなんだ。確か、泰時さんが軍属だった頃に配置されてた場所よね」

「そうだな。……思えば、あそこで俺はお前との運命の出逢いをしたんだな」

「ふふっ、そうね。大戦終戦後、あそこで物資配給を受けにいったとき、泰時さんと出逢って………」


(また始まったよ)

(だね。叔父さんと叔母さん、コレになると中々戻ってこないもんね)


 ヒソヒソと雪と俺は小声で話していた。

 親父と母さんは近所の人たちからも、おしどり夫婦と言われるほど仲が良いことで有名だが、反面、一旦二人だけの世界に入ると、中々現実に戻ってこない事でも近所では有名だった。


 俺と雪は苦笑を浮かべながら、親父と母さんが二人だけの世界に入っているのを見ながら食事を続けた。





「ほら、遅くなる前に戻るぞ」

「付いてきてくれてありがとね。お兄ちゃん」

「気にするな。お前一人じゃ危なっかしいしな」


 夕食を取ったあと、夜も深まっていたので雪を家まで俺が送る事になった。


「研修旅行楽しみだね。兵庫って言えば、お土産はカステラとかプリンかな?」

「そうだな。ワインとかも有名だけど買えねぇしな」


 二人で夜道を楽しく会話しながら歩いていった。










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