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異端覚者の英雄譚  作者: 北乃雪路
序章 変わらぬ世界、変わる自分
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第3話

更新が遅くなって申し訳ありません

今年一年は忙しく、あまり更新できないと思いますが、ご容赦願います


「そのまま刀を振り下ろすんだ」


 胴着に着替えた暁が門下生に対して指導をしていた。

 暁と泰時の醜い言い争いはお互いに馬鹿らしくなり、自然と両者が矛をおさめる形で終結していた。


「よし、今日の締めは見取り稽古だ。暁、お前が相手だ」


 暁と泰時がある程度門下生たちに対する指導を終えて休憩を取らせていると泰時が言い放つ。


「いきなり稽古の内容変えるのか?」


 呆れたように暁は泰時に視線をやる。


「まぁ、いいじゃねーか見取り稽古もいい鍛錬になるんだし。それにお前だって久々に戦いたいだろ?」

「そりゃ、まぁ」


 カカカッと笑いながら木刀を肩に担いで泰時は笑っていた。

 泰時の言葉を受け、武人としての血が騒いだのか武者震いし、自然と口角が上がっていた。


 暁は幼少の頃より泰時から剣術の手解きを受け、才能もあったおかげで常勝不敗と呼ばれるほどの実力を備えていた。その実力は同年代では負け知らず、年上であろうと易々と下してしまうほどで相手を探すのが困難なほどであった。

 そんな暁が一度も白星をあげたことがない相手が泰時であった。

 それもそのはず、泰時は霊魔技巧確立時から確認される覚者の一人であり、霊魔技巧が確立される前から”地獄の片道切符”と揶揄された最前線の兵庫絶対防衛圏での戦闘を生き延びた古兵の一人でもあった。

 軍を除隊後は剣術道場を開き、華はないが堅実な実践剣術を学んだ門下生たちが軍や警察などから高い評価を受け、現在でも軍から教官として現役復帰を望まれ、声をかけられている程優秀だった。


「やる気のようだし、とっとと刀を取りに行くぞ。お前たちは少し待ってろ」


 暁の口角が上がっていることに気づき、ニヤリと笑いながら暁を連れて道場のすぐ脇にある蔵に向かう。

 蔵の鍵を開けると手入れの行き届いた無数の刀剣が綺麗に並べられていた。

 覚者に対して霊魔技巧を使った魔導兵器ではない普通の刀剣や銃器では魔力障壁の貫通することが出来ない。そのため覚者には訓練の名目で刀剣の所持が緩和されていた。



「今日の気分はこれだな。俺は先に戻ってるから鍵はちゃんと閉めて戻ってこいよ」

「あぁ」



 泰時は好みの服を選ぶような感覚で刀を選ぶと佩刀し、鍵を暁に投げ渡して道場に戻っていった。

 生返事を返しながら投げられた鍵を暁は受け取るが、視線は刀だけを見つめていた。

 刀を手にとり、数回振って確認する作業を何回か繰り返していく。



「これだな」



 数回目の作業で手に馴染んだ刀を数回振ってから頷くと佩刀し、道場に戻っていく



「待ってたぜ」



 道場に戻ると泰時が道場の中心に立ち、不敵な笑みを浮かべて暁を待っていた。

 暁は泰時に向かって軽く会釈をしてから泰時の前に立つ。



「ルールは時間無制限の一本勝負、禁手はなしでどうだ?」

「分かった」


 ルールを確認し終えると暁と泰時は共に礼をしてからそれぞれ構えをとる。暁が刀を選んでいる時に泰時から審判役に選ばれた経歴の長い門下生が二人に間に立つ。



「それでは始め!」


 開始の合図と同時に斬りかかるなんてことは起こらず、刀を構えたまま両名は動かずに互いを牽制しあっていた。

 数分程度の睨み合いしかしていないが、そこには数時間を経過させたような濃密な空気が流れており、門下生たちも固唾を呑んで見守っていた。


 最初に動いたのは泰時であった。

 軽やかな足取りながらも、どれだけ身体を鍛えても人間では到底出せないような速さで暁に肉薄する。そして一般人では気付く前に真っ二つにされるような鋭く重い斬撃を繰り出す。

 暁はそれを危なげなく躱しながら後退し、距離を取る。


「ま、これぐらい軽いだろうな」

「当然だ!」


 距離を取った直後、暁は足で床を蹴り飛ばすように泰時に向けて距離を詰め、斬撃を振るう。

 泰時はそれを難なく躱して近づいてきた暁の胴体目掛けて蹴りを入れる。

 蹴りを入れられた暁はそのまま吹き飛ぶかと思われたが、その蹴られた勢いを横に流すことで、そのまま一回転しながら刀を横薙ぎに振るう。


「おっと、あぶねぇあぶねぇ。そのまま吹っ飛ぶと思ってたのに、やるじゃねーか」


 横薙ぎ振られた刀を避けるために泰時は後退するとケラケラと笑っていた。


「いきなり禁じ手とか普通するか?」

「戦場じゃ何しても生き残れば勝ちだからな。剣術大会じゃ一発アウトだが、実戦じゃコレぐらいしないと。お前の場合だいぶマシになったが、まだ大会用のお座敷剣術が抜けてねぇから禁じ手なしにしてんだよ」


 暁は軽く恨み言を口にするが、バッサリと泰時に切り捨てられる。

 痛む腹を気力でねじ伏せ、油断なく泰時を見つめる暁に対して、すかさず泰時が距離を詰めて多方向から斬撃を繰り出してくる。暁はそれを最低限の動きで躱し続けていた。


「おいおい、逃げてばかりじゃ俺には勝てんしつまらんぞ」


 暁の逃げの一手に拍子抜けしたのか、退屈そうに泰時が言うが、その手は攻撃を止めず、それどころかさらに攻撃の速度を速めていた。


「逃げは、終わりだ!」

「っ!?」


 躱し続けていた暁が一転攻勢に回り、泰時に対して刺突を繰り出すと今まで攻勢を続けていた泰時が守勢に回った。


「まさか、あの短時間でパターンを読んでくるとは思わなかったぜ」

「このまま押し切らせてもらう」


 嬉しそうな顔をしながら泰時は暁の攻勢防いでいた。

 泰時の言葉通り、暁は泰時の攻撃を受け続けることで泰時の攻撃のパターンを読み、そのパターンの死角を突くことで泰時を守勢に回らせていた。


(死角を突いても長くは続かないか)


 攻勢に回った強気な言葉と共に暁は泰時に攻撃を続けていたが、頭ではまた攻守反転することが分かっていた。

 なんと泰時は暁のそれを上回る速度で自分の攻撃パターンの死角を自覚することでパターンを変更することで対処し始めていたのだ。

 事実、泰時は暁の攻勢を徐々に弱らせ、逆に泰時が守勢から攻勢に回る場面が増えていた。



「前よりもずっと強くなってるな」

「伊達に毎日剣術を研鑽してないからな」



 遂に暁の攻勢が泰時によって打ち破られ、乱戦に持ち込まれる。

 鍔迫り合いをしながら言葉を交わしあっているが、両者どちらも譲らず、予断を許さない状態であった。


(そこだ!)


 その鍔迫り合いの最中、両者が一旦距離を取ろうと放れた瞬間を狙い、暁は腰に下げていた鞘を泰時の顔に目掛けて投げつける。一瞬、驚いた表情をする泰時であったが、すぐさま刀を振るって顔目掛けて投げられた鞘を弾く。

 当然、鞘を弾くために刀の軌道は別の方向を向いてしまい、隙が出来る。その隙を逃さずに暁は必中必殺の斬撃を放つ。


「……狙いも思いきりもいいが、まだ俺から一本取るには甘ぇな」


 泰時がニヤリと笑って刀を振るう。

 放たれた斬撃を避けるのではなく、刀を持っていない拳で刀の横っ腹を叩いて斬撃をずらすという離れ技をやってのけた。


「化け物かよ」

「そりゃどうも」


 常人には思いつかない、否、思いついても出来ないような事を平然とやってのけた泰時に暁は悪態と共に賞賛を浴びせる。

 斬撃を思いも寄らない方向にずらされたため暁は体勢を崩し、胴がガラ空きとなる。

 当然、そのような隙を泰時が見逃すわけもなく、容赦なく暁のガラ空きになった胴に刺突を放つ。

 肉を打つ鈍い音が道場中に響き渡る。

 暁は人体の急所の一つである水月を的確に狙った鋭く重いその一撃を真正面から受け、堪らずその場に膝をつき、突かれた場所を押さえ、荒い息を吐く。


「一本! それまで」


 審判役である門下生が手を掲げ、終了を宣言した。

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