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異端覚者の英雄譚  作者: 北乃雪路
序章 変わらぬ世界、変わる自分
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第10話 決着

「お…………ちゃ………。おに……ちゃん。…お兄ちゃん!」


 俺はふらつく頭をゆっくりと持ち上げながら辺りを見回した。

 自分の胸元を見ると雪が泣きながらしがみついていた。


「お兄ちゃんが、お兄ちゃんが、死んじゃう、かと思って……」


 雪が綺麗な顔をぐしゃぐしゃに歪めながら俺の胸に顔を擦り付けながら泣いていた。


「大丈夫だ。今ケリをつける」


 俺は微笑みながら雪の頭を撫でてから悪性霊体の方を振り向くと、シロがこちら側に来ないように戦っていてくれていた。


「シロ、あとは俺に任せろ」

「分かった。任せたぞ……暁よ」

「あぁ!」


 いつもは俺のことを小僧としか呼ばないシロが名前を呼んだことに驚きながらも嬉しさが込み上げてきて笑みを浮かべながらシロに返事をする。


「こいよ、この化け物野郎!」


 神魔武装(デウス・アルマ)___刀を鞘から抜き放つと淡い青色の魔素が刀身の隅々を覆っていた。

 その幻想的な姿はさながらお伽話に出てくる英雄が持つ伝説の武器そのものであるかのようであった。

 俺は正面で構え、敵の初動を待った。


「すごい……綺麗……」


 雪が場違いな感想を漏らしていたが、無理もないだろう。

 通常の魔素は透明で純度が高くなるにつれて青色に変化していく。

 いくら神魔武装(デウス・アルマ)と言ってもそこまでの純度に高めることが出来るものは中々なく、この神魔武装は破格と言ってもいい代物だ。


「グォォォォ!」


 悪性霊体は俺との距離を一気に詰め、勢いをつけて両手の鉤爪を縦横無尽に振り回していた。

 その攻撃は雑ではあるが速度が速く、並の者では気づいた頃にはなます切りにされているようなものであった。


「甘いんだよ」


 しかし俺はそういった並の者ではない。

 全ての攻撃を弾き、受け流し、時には回避することで擦りもせずに悪性霊体に肉薄した。

 悪性霊体は焦ってきたのか一旦俺から距離を取ろうと脚に力を入れて後ろに飛ぼうとしていたが、その瞬間、一瞬だがこちらに向けていた意識が途切れていた。


「そこだ!」


 その一瞬の隙を俺が見逃すはずがなく、悪性霊体の右手首を斬りあげた。

 神魔武装である刀はまるで熱したナイフでバターを切るかのように難なく悪性霊体の右手首を断ち切った。


「グギャァァァァァァァ!」


 悪性霊体は今までの咆哮とは違い、苦痛で歪んだ咆哮をあげながらも大きく後ろに飛び、距離を置く。

 俺を強敵と断じたのか悪性霊体は殺気を籠めた視線をこちらに向けながら先ほど雪に向けて放った炎の玉を数えるのが億劫になるほど生み出していた。


「この数は、流石にマズイだろ…… シロ、雪を連れて少し下がれ!」


 冷や汗を掻きながらも刀を構えつつ、俺はシロに向けて指示を飛ばした。


「待ってよ! お兄ちゃんを置いてなんて……」

「心得た」


 雪が言おうとした言葉に重ねてシロが了解の意を示すと雪の制服の襟首を咥えるとそのまま距離を開けた。


「ガァァァァァ!」


 悪性霊体が生み出して炎の玉を順次こちらに向けて放ってきた。


「数が、多すぎる、だろ」


 肩で息をしながらも無限に飛んでくる炎の玉を斬り伏せ続けていた。

 炎の玉は魔素で出来ており、避けても悪性霊体が操作し、当ててくるので防ぐには魔素を用いらなければならない。

 神魔武装(デウス・アルマ)であるこの刀で打ち消すことが出来るので最初の一発、二発は刀で斬り伏せていったが、いかんせん数が多く、しかも悪性霊体は一発こちらに向けて放つ毎に炎の玉を補充するので終わりがない。


「まだいけるな……」


 炎の玉を斬り伏せてホッとした瞬間目の前に現れた。


「しまっ……」


 悪性霊体はダブルタップの要領で同じ箇所に炎の玉を二連続で放っており、二個目の炎の玉を切り伏せることが出来ずにそのまま直撃した。


「お兄ちゃん!」

「止すのだ主よ!」

「シロ離して! お兄ちゃんが! お兄ちゃんが!」


 雪が悲鳴をあげながら炎の中に飛び込もうとするのをシロは必死になって止めている。


「心配するな雪」


 茫然自失となった雪に炎の中から声が聞こえ、その方を振り向くとそこには刀を一振りし炎を消し去った暁が立っていた。


「お兄ちゃん……どう、して?」


 死んだと思っていた暁があの炎の直撃を受けても死ななかったことの嬉しさよりも驚きの方が勝っていた。

 必殺の一撃が効かなかったことに慌てたのか悪性霊体は俺に向けて生み出していた炎の玉を全て放った。


「それは見てもらった方が早いな」


 俺は刀も構えずに正面から全ての炎の玉を受けていくが、その全ては俺に直撃する前に見えない壁のようなものに当たり霧散していった。


「魔障壁! しかも凄い強度……」

「これで俺も一端(いっぱし)の覚者ってわけだ」


 不敵な笑みを浮かべながらも悪性霊体からは視線を外さない。

 悪性霊体は先ほどよりも距離を取り、俺の出方を伺っていた。

 先ほど斬った右手首は徐々に回復しつつ、このままではイタチごっこにしかならない。


「回復能力がある悪性霊体なんて聞いたことないぞ。奴を倒すには一撃で全てを決めるしかないか…」


 刀をギュッと握りしめ、神経を刀に集中させると魔素が刀身に纏わりつくように集まり、刀身が先ほどよりもさらに輝きをだす。


「ッ!」


 集まり出した魔素の量と純度に怖気付いてはいるが向こうも意地があるのか俺を正面に見据え、鉤爪を構え、一撃で倒すという意思が感じられた。


「いくぞ!」

「グガァァアァァアァ!」


 両者共一斉に相手に目掛けて走り出し、距離を詰める。


「喰らい、やがれ!」


 悪性霊体の鉤爪を紙一重で避け、魔素を纏い、魔素自体が巨大な刃となった刀を悪性霊体目掛けて振り抜いた。

 悪性霊体は断末魔をあげる暇すらなく魔素の刃に飲み込まれ、跡形もなく消滅した。


「やった……な」


 刀身に纏わりついていた魔素が消え、通常状態に戻った刀を鞘に納めると尻もちをつきながらその場に座り込んだ。

 それほど消耗したわけではないと思っていたが実際はかなり消耗していたようだ。


「よくやったな、暁」

「やったね! お兄ちゃん。でも……」


 雪とシロが退避していたところからこちらに向けて走ってきた。

 雪は座り込んでいる俺に抱きつくと急にふくれっ面になり、俺の頬を引っ張ってきた。


「雪さん……痛いです」

「お兄ちゃんが私との約束破るからでしょ?」


 雪はニコニコと笑顔ではあるが怒っているのは明らかで背後からは悪鬼もかくやのオーラが出ていた。

 ……うん、その笑顔、すっごく怖い。

 だが、雪はすぐに俺の頬から手を離してくれた。


「でも、助けてくれてありがとうお兄ちゃん、嬉しかったよ」


 雪は頬を赤く染め、体をモジモジさせながらも微笑みを浮かべながら言った。


「あぁ、なんせ俺は雪のお兄ちゃんだから」


 俺も微笑みながら雪の頭をグシャグシャと撫でると雪は気持ちよさそうにしながら体を預けてきた。


「全く……」

「小僧も主には甘いな。このまま主と小僧が祝言を挙げ、二人の間の(わらべ)を見る日も近いな」

「うるせぇよ」


 シロがククッと笑いながらこちらを見ていた。

 甘えてきている雪を自由にさせていると不意に足音が聞こえてきた。

 足音から察するに二、三十人ほどの人数だと確認出来る。


「雪……」

「うん、分かってる」


 雪はサッと俺から離れると立ち上がり、シロも臨戦態勢をとる。

 俺も立ち上がると雪を自分の背後に立たせ、刀の柄に手を添えて出入り口を睨みつける。

 次の瞬間、武装した集団が一斉に部屋になだれ込んできた。

次回の更新は再来週の土曜日あたりを目処に投稿します。

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