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夢か現か
そんなに悪い気分じゃなかったことに驚いた。
まるで眠った気がしない頭に響く母の大声にテキトーな返事をしながら、登校のための身支度をしている時、ふと昨晩の出来事を思い出した。
夢か現かも判然としない――いや、普通に考えれば荒唐無稽な夢以外のなにものでもないはずだが、それでもまだ蝸牛の奥にはゆーこの声がこびりついていて、喉の底では言葉未満の欠片たちが、外に出たいと貧乏揺すりをしていた。
冷水で寝汗を洗い落とし顔を上げれば、またゆーこに会いたいと思う自分が鏡の中に居た。
陽はそんな自分に驚き、そして自嘲を覚えた。
確かにゆーこは陽がイメージするような幽霊らしい幽霊ではなかった。そのうえ話も合うし、なにより笑顔がキュートだった。
あんな幽霊ならいつだって歓迎だ、なんて思ってしまうしょうもない自分はいい意味で馬鹿らしかったし、悪い意味で愚かだと思う。