神社
不意に傾斜が水平に近づき、道が開け、神社の裏手に出た。
世辞にも広いとはいえない山頂は周囲の木々のせいもあり、まるで海の底のようだった。
闇の中にあってなお黒々と重い影を見せる社殿が、千引きの石のように沈んでいる。
電灯を振り回した先、拝殿の回廊に腰掛けたゆーこが白い足をぷらぷらゆらしていた。
「一人で勝手にいかないでくださいよ。明かりもないで危ないでしょ。怪我でもしたらどうするんですか」
非難する声の裏にはしかし、安堵が満ちていた。
「フフーン、必死になっちゃって。おいてかれて怖かったんでしょ。つーか怪我って、生者じゃあるまいし」
全くの図星だった。
「べ、別に怖がってなんかないですよ。なんたって目の前に幽霊がいるんだし、今更何を怖がれと。つーか怪我とかあれだし、皮肉だし、ちょっとからかっただけだし」
苦し紛れな強がりを見せる陽に、ゆーこは子供の相手をするような態度で言う。
「はいはいそうね。陽ちゃんはオバケなんか怖がらない強い子だもんねぇ」
なげやりなあしらいに敗北感を煽られた陽は口をへの字に曲げる。
「んなことより、さっさと見つけるもん見つけて帰りましょ。なんかもう足疲れてきました」
陽は境内の正面へと歩きながら、目印のものを探し始めた。
清治はリストバンド、寒河江は帽子、夢子は缶ジュースをそれぞれ持ち帰ってきていた。わかりやすいものをわかりやすい場所に置いてきた、と清治は言っていたが、しかし境内をひと通りライトの光で浚ってみても、それらしいものは見つからない。
焦りを募らせながら拝殿の裏の方を探し回っていた時、正面の方からゆーこの声が響いた。
「ねえねえ、これじゃない?」
律儀に靴を脱いで回廊にしゃがみこむゆーこが手招きをする。その足元、痩せて木目の浮き出た床板の上に光るものが一つ。
クルミ大の鈴だった。
電灯の光を鋭く反射するそれは、今さっき買ってきたばかりのような新しさだった。すべての色がくすんだ社殿にあってひときわ目立つ金属の光沢。なぜ気づかなかったのだろうと二人は首を捻るが、とりあえずこの鈴の他にそれらしいものはないので持ち帰ることにした。
急な正面階段を降り、鳥居をくぐる。
「あ、ほらほら陽ちゃん。そこに井戸あるよ井戸」
「アーアーアー、キコエナーイ、アーアー」
ゆーこの嫌がらせに鈴を鳴らして抗議した陽は、行きとは違って平坦な道を足早に進む。
バーベキュー広場の手前でゆーこは消えた。
例のごとく唐突に、まるでスウィッチを切り替えるみたいだった。それがゆーこの意思によるものかはわからない。
だがゆーこの意思でないとするならば、そのスウィッチの裁量は多分、神様ってヤツの袂にあるのではないかと考えてみて、陽は少しだけ安心を覚える。




