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上半身だけの石膏像が抱えた女生徒をゴミの丘の頂に横たえようとした。
そうすれば、後はそこから焔が吹き上げ、今度こそ七不思議は完結するはずだった。
だが、それより先に鉄の壁が前触れもなく崩れ去った。
「…え?」
廊下の蛍光灯の明かりの下から出てきたのは、黒い刀を持った少年だった。
「あいにくと、こんな物語は持って帰っても喜んでくれないんだよ。僕が仕えるモノは。だから」
少年はゴミの丘を駆け上がる。勢いで火の粉が舞い上がる。
「破壊させてもらうよ、この七不思議、この物語はっ!」
「ひっ」
石膏像へ振り下ろされた黒刀は、しかしパレットナイフに阻まれる。
「たいそうな力だ。キミに力を授けたモノはよほどキミの怨念が気に入ったようだ。しかし」
一閃。少年の振るった斬撃は、パレットナイフを根元から切り払った。
「だとしたら、なおさら放ってはおけないね。僕の仕えるモノも、そして僕自身も。キミに力を与えたモノが大嫌いだからね」
「や、やめて。この子がどうなってもいいの!?」
石膏像は再び女生徒を拾い上げる。
そして、突きつけられた黒刀へと向ける。
「…あ、れ?」
人質にされた女生徒が再び目を覚ました。
そして、石膏像の肩越しに視線を向ける。
「チャーリーさん?」
「!?」
石膏像の女生徒を抱えていた方の腕が砕け散った。
*---*
落下したエリの体を少年が受け取ったのを確認した。
『キミの役目だ』
少年の目が物言わず我輩に語っていた。
当然だ。
これは我輩とエリの物語だ。
決して、悲惨な死を遂げた少女の亡霊が紡ぐ、巻き添えの物語にしてなるものか。
「どうして、そんな状態でまだ動けるの!?」
片腕を噛み砕かれた石膏像が、悲鳴のような声を上げた。
我輩は人骨模型。下半身を切り落とされようが、頭を切り離されようがどうという事はない。
右手で下半身の骨盤を、左手で頭蓋骨を持てばいい。
石膏像が半狂乱で残った片腕を振り回し、我輩の頭蓋骨の半分を砕いたが、そんな事は知ったことか。
頭蓋骨の欠片が飛び散るよりも早く、残ったほうの腕にも我輩は噛み付いた。
「や、やめてっ!」
もはや一片の情もかけるつもりはない。
我輩の頭蓋骨を持つ左手薬指がエリの苦痛を今も伝える。
それを力にかえて、顎に伝える。乾いた音と共に石膏像の腕が落ちる。
「少年よっ! この狂った世界を終わらせるにはどうすればいい?」
「この七不思議の世界と現実を繋いでいたのは『焼却炉の前のおじさん』だった。そして、その七不思議は今『喋る石膏像』と融合している。『喋る石膏像』の物語を壊してしまえば、後は連鎖的さ」
「つまりは」
我輩は右手に力をこめた。下半身を踏ん張り、我が上半身を後ろに振った。
「こやつを壊せば良いのだな」
「その通り」
『喋る石膏像』にこれ以上何も言わせるつもりもない。
勢いをつけて、上半身を石膏像に叩きつけた。
あばら骨が石膏像に突き刺さり、折れ、ばらばらになった背骨は石膏像の欠片と一緒に飛び散った。