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 これは夢なのかな?

 もう痛いの無くなった…。

 熱いの無くなった…。

 ただ、ただ赤くて黒い世界。

 ?

 黒い世界の一部が急に欠けた。

 あれは…。



*---*



 鏡の少女の案内で、美術室の表札がかけられた教室にたどり着いた。

 なるほど、隣の音楽室からはピアノの音が聞こえる。

 だが、そんな事はどうでもいい。

 戸に触れると、熱い。プラスチックの指先が溶けそうだ。

 だが、それはここがまさに目的地であることを示している。

 我輩は力の限りをこめて、戸を引いた。


「!?」


 そこは美術室という表札が皮肉かのように、まるで絵画のような世界だった。

 ゴミとスス、鉄の壁。そしてところどころに舞う火の粉。

 地獄絵とはこのようなものを言うのだろうか?

 そして、まるで教室の中央に盛り上がったゴミの丘の上に我輩が良く知っている姿を捉えた。


「エリ! いま行くぞっ!」



*---*



 欠けた黒い世界から現れた。

 いつも、理科室に逃げ込む私を庇ってくれる、チャーリーさん。

 ああ、夢でもいいかな。

 だって、いつもなら私がいかないと会えないチャーリーさんが迎えに来てくれたもの。


*---*



 焼けたゴミを掻き分け、駆け上り。

 倒れていたエリを抱きかかえる。


「エリ。しっかりしろ。我輩だ、チャーリーだ。助けにきたぞ」

「あはっ。本当にチャーリーさんだ。そんな声だったんだね。大丈夫、チャーリーさんが…来てくれたから…」


 何が大丈夫なものか。

 アキも酷かったが、エリはそれに輪をかけている。

 あのきれいだった金の髪がボロボロに焼け焦げて、服も半分以上焼けて火傷だらけだ。

 さっき喋ったのも最後の力を振り絞ったのか意識を失っている。

 ええい、こんなところにいつまでもおいておけるかっ。

 我輩は今入ってきた戸から出ようとして愕然とした。

 ない!?

 ゴミの山をおりて鉄の壁の戸があったはずの場所を手でなぞるが、戸の感触がまったくない。

 そんなバカなっ。

 一刻も早くエリをここから出して、あの少年のところへ連れていかねばならないというのに!?


『チャーリーさん。なにやってるの。余計な事しないで下さい』


 どこにあるのか、スピーカーからの声。

『真夜中の放送委員』か。


「やかましいっ! 我輩達を即刻ここからだせっ」

『だめだめ。チャーリーさんだってようやく動けるようになったんでしょ? またただの模型に戻ってもいいの?』


 …なに?


「どういう意味だ」

『どういう意味も、そうやって動ける事自体が普通じゃないでしょ。この七不思議の世界でだからこそ、そうやって動ける。私もこうやって喋れる。でも、まだこの世界は不完全。まだ、七不思議が完成してないから、あのおかしな刀をもった子供に邪魔をされる。一刻も早く完成させないと』

「七不思議の完成…か。確か『焼却炉の前のおじさん』によって止めようとした生徒は”焼き殺される”だったな」

『そうそう、その子はまだ生きてるじゃない。さっさと死んでもらわないとさ』

「ごめんこうむる!!」


 我輩は右腕でエリを抱え、左手で拳をつくって壁を殴りつけた。

 先程よりも壁が熱くなっている。

 そして、拳の先端にやわらかい感触がかえってくる。

 …恐らく、熱で溶け始めているのだろう。


「我輩はチャーリー! 『チャーリーさんの花嫁』は花嫁を連れて行くことで完成するだろう! さっさとここを空けないか」

「冗談でしょう? 私は誰も助けてくれなかった。なのになんでその子は助かるの?」

「!?」


 真後ろから声がしたかと思うと、私の体が突然落下した。

 エリの体を離すまいと両腕で抱え込んだため背中から、地面に叩きつけられた。

 そして、視界に入ったのは立ったままの我輩の下半身。そして、巨大なパレットナイフを持った人影。

 ここは美術室。なるほど、奴が我輩の体を上下に切り分けたというわけか。


「たしか、ここの七不思議は『喋る石膏像』だったはずだが」


 上半身のみの石膏像は宙を浮いたまま、パレットナイフで立ったままだった我輩の下半身を叩き払った。


「余計な事しないでよ。その子も誰にも助けられないで死んでいくのよ。私みたいに」

「…私みたいに? そうか、貴様。現実におきた事件の」

「そう。『チャーリーさんの花嫁』とかどうでもいいのよ。私が味わったのと同じ苦しみで七不思議が完成して、初めてこの七不思議の世界も完成するのよ。理不尽が理不尽ではない不思議が当たり前の永遠の世界。どう? 素敵じゃない?」

「貴様の境遇は知っている。同情もしよう。だが、なぜエリが同じ目にあわなければならんのだっ」

「なぜ? 今言ったじゃない。理不尽が理不尽ではないって。なぜというなら、私はなぜあんな目にあったの? 私には助けなど来なかったのになぜこの子は助かるの? 理由なんて意味がない」


 石膏像が、エリへと手を伸ばす。

 離すまいと私はエリの体にしがみついたが、奴はパレットナイフを振り上げた。


「おとなしくそこで見てなさいよ。この七不思議の世界が完成したらあなたも永遠になれるのよ。悪い話じゃないでしょ」


 視界にはエリを抱えた石膏像、そしてだらしなく両手が落ちた我輩の上半身。

 首を切り落とされた…。

 奴は再び焼けたゴミの丘を登っていく。エリをその頂に置くために。

 させるものか。

 我輩の七不思議はまだ終わっていない!


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