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 オマエモ…

 いやいや…

 ワタシノヨウニ…

 助けて助けてっ

 クルシンデ…シネ


 助けて、チャーリーさん!!



*---*



「勘違い?」


 もしも我輩にマユがあったら、ひそめるところだ。

 刀を鞘に納めた少年が語った。


「さっきのは避難させただけだよ。説明してる時間もおしいし、納得できるような話でもない。こんなでたらめな状況をね」


 先程、女生徒が吸い込まれた鏡を見ると、さっき一瞬映ったガウンの少女が申し訳なさそうな表情で頭を下げた。


「こっちは知ってるかもしれないけど、『鏡の中のトモダチ』さん。学校の中のどこかの鏡に手をあてて、『トモダチさん、一緒に遊びましょう』って唱えると鏡の世界に引きずり込まれるという七不思議の一つ」

「だが、さっきの女生徒は何も口にしていなかったし、無理矢理引き込まれたぞ?」

「七不思議としてはそう語られているだけで、彼女は学校内の鏡ならどこからでも鏡の世界に引き込めるよ。ただ、さすがに抵抗されると難しいので、僕の方に注意を引きつけていただけさ」

「なぜ、そんな事を?」

「彼女には生徒を害する気持ちはない。むしろ助けたいとさえ思っている。だから、見つけた女生徒は鏡の世界で預かってもらってるんだ。危険だからね、この顕在化した七不思議の世界は」

「七不思議の世界? 顕在化?」

「七不思議っていうのはどこの学校にでもある、都市伝説の一種だ。都市伝説はあくまで噂でしかなく、本来なんの力もない。けど、噂という物語が現実につながってしまう事がまれにある。たいていが、都市伝説をなぞらえたような事件の発生が原因だけど」

「なぞらえた?」

「そう、キミは知ってるかな? ここ最近、猥褻目的で夜中の学校に女の子を連れ込んで、焼却炉で焼き殺したって事件。今でも新聞を賑わせているけど」

「新聞といわれても、我輩は人骨模型だからな。…いや、まて」


 そうだ、確かに我輩が新聞を読むはずがない。だが、理科室でよくコーヒーを飲んでいるあの教師が、時々新聞を読んで愚痴をこぼしているのは聞いている。


「…新聞を読んでる教師が話しているのは聞いた。だがそれがどうした。痛ましい事件だとは思うが、不幸な事件などいくらでも―」

「この学校の七不思議だけど」


 我輩の言葉をさえぎって、少年は鏡に向かって合図を送る。

 鏡の中の少女がうなずくと、鏡が一瞬でくもり、そしてまるで見えない指でなぞっているかのように部分的に曇った部分が消えていく。

 それは7行の言葉だった。


『鏡の中のトモダチ』

『真夜中の放送委員』

『チャーリーさんの花嫁』

『人食い黒板』

『無人のピアノ』

『喋る石膏像』

『焼却炉の前のおじさん』


 少年は最後の行を指差した。


「この最後の奴。これは焼却炉前に人形を燃やそうとするおじさんがいて、止めようとするとかわりに自分が焼却炉に放りこまれて焼き殺されるって奴だよね」

「確かにそうだが。いや、たしかに焼却炉で焼き殺されるって部分は同じかもしれないが」


 そんなことを言い出したらこの世界のほとんどの事件がなにがしかの都市伝説とやらの類にひっかかるのではないか?

 そんな我輩の疑問が分かっていたのだろう。

 少年は頷いた。


「もちろん、ただ同じ部分があるってだけじゃまずこんなことにはならない。それはただの繋ぎ目。ただ、物語という仮想世界と現実世界の重なりである繋ぎ目を強い力で固定した時、都市伝説の顕在化が発生する」

「強い力とはなんだ」

「誰でもない何者でもないモノ。そこに願う者の祈りが届いたとき、力は与えられる。そして、今回は犠牲者の祈りが形になった」


『なぜ、私だけがこんな苦しい目に』


「だから、ここはその犠牲者以外が苦しい目にあう世界。それがこの七不思議の世界」

「…理解に苦しむ。己が苦しいのなら、なぜ他人に押し付けるのを忌避しないのだ」

「…犠牲者はここの生徒と同じ小学生さ。まだ夢も未来もあったのに一人の大人の欲望の為に惨い死にかたをした。この世界を肯定する気はないけど大人しく成仏出来ないのも無理からぬ話だと思うよ」

「『焼却炉の前のおじさん』は分かるが、他の七不思議も一緒なのはなぜだ?」

「あくまで『焼却炉の前のおじさん』は七不思議という一つの都市伝説の一部だからね。都市伝説の顕在化が起きるならそれは七不思議自体がその対象になる。だからキミの事は警戒対象だったんだよ」

「我輩が警戒対象?」

「七不思議といっても、全てが危害を加えるものではない。ただ、不気味なだけ、怖いだけのものもある。そういったものは後回しや放置でいい。問題は内容が連れ去ったり、殺害といった具体的な内容のある七不思議だ」


 なるほど。

 先程、割って入った時の少年の表情に合点がいった。

『チャーリーさんの花嫁』は女生徒を花嫁として連れ去る七不思議だ。

 対象となる花嫁を探していると警戒していたのだろう。


「ここに来てすぐ、『人食い黒板』に襲われてる生徒を助けて欲しいと『鏡の中のトモダチ』に頼まれてね。彼女が生徒に害する七不思議じゃないと分かったし、『人食い黒板』は破壊した。残る危険な七不思議は『焼却炉の前のおじさん』と『チャーリーさんの花嫁』だったんだけど、まさか『婚約済み』と来るとはね」


 少年はさっきの状況を思い出したのかクスクス笑った。


「なるほど。そこまでは分かった。だが、我輩には分からない事がまだあるのだが」

「…だいたい想像はつくけどね。どうぞ」

「貴様は何者だ」


 こんな怪奇極まりない事情を知り、七不思議でもない存在。


「僕は代理。代理人だよ」

「代理人?」

「そう。…誰でもない何者でもないモノの…ね」


 再び、我輩に怒りが甦りそうになった。


「つまり、貴様はこの現状を作り出した一端を担ったモノの手下という事か?」

「違うよ」


 少年は両の掌を上げて、無罪をアピールする。


「誰でもない何者でもないモノといっても事件の犠牲者の願いを叶えたモノとは別口。というよりも、こういうやり口を嫌っているから本来無関係にもかかわらず僕が派遣された訳だ」


 両手を広げて少年は肩を落とした。

 だが、次に少年の表情に表れたのは鋭さを伴った真剣さだ。


「少し長話が過ぎたみたいだ。残る危険な七不思議は、今回の大元とリンクしている『焼却炉の前のおじさん』だ。犠牲者が出る前に、なんとか抑えたい所だ」

「そうだ。こんな所で立ち話をしてる場合ではないだろう。焼却炉にいかなければ。我輩は場所を知らぬが外にあるのだろう?」

「それが、なかったんだ」

「ない?」

「場所は例によって『鏡の中のトモダチ』が教えてくれた。けど、そこには焼却炉がなかった。焼却炉の看板はあったけどね」

「そんなばかな事が」

「あくまでここは七不思議の世界であって、現実じゃない。現実じゃないことも起こりうる。ついでに言えば、『焼却炉の前のおじさん』の話は焼却炉という物の話は出ていても、場所の話は出てこない。まぁ、普通に考えれば焼却炉があちこち移動する訳もないから当たり前なんだけど。結論から言えば、七不思議『焼却炉の前のおじさん』はこの学校のどこかに逃げた。恐らく、僕が『人食い黒板』を破壊した事を知って自分を壊す存在が侵入している事が分かったんだろう」


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