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2 INVADER~侵入者~(3)

 手に持った花を眺める。

 燃えるような紅い花弁に黄色の花粉とこれまた鮮やかな緑のコントラストが綺麗だ。

 世間一般には縁起の悪そうな花だと言われている。

 確かに血のような色をしているし火事も連想させられる。

 だが、自分はこの花が好きだ。

 綺麗な水の近くにしか咲かないこの花を嫌う人が理解できない。

 それはともかく。

 今、ロゼッタは医務室にいる。

 別に怪我をした訳ではない。ミキがボールペンを折ったときにつくった切り傷を手当してもらったのは一時間前で、レインが運び込まれて三時間経った。

 だからエリックがそろそろ目覚める頃だろうと、今回の責任者であるロゼッタをここに連れて来たのだ。

 レインを無理矢理連れ込んだんだから、自分で説明しろということらしい。

 何かのいじめにしか思えない。

 ロゼッタはそこまで冷たい人間ではないので、ベッドの上の机に昼食を置いてあげた。

「そろそろ起きるって……。起きないじゃんー。ったく、起ーきーてーレーイーンーっ!」

 指でレインを突くことにした。

 そうすること数秒、彼はすぐに目を覚ました。ここからがめんどくさい。

「……はれ? ここは」

 ぼんやりとした目でこっちを見て来る。

「!?」

 次の瞬間、レインは突然ガバッと起き上がった。

 机がひっくり返らないように抑える。シーツの洗濯は結構大変なのだ。

「いーから落ち着くぅ。ボクも大変だったんだからねー? ちゃんと説明するから」

 おとなしくした方が無難だと悟ったのか、レインは渋々とだが従ってくれた。

「長くなるし、もう昼だからこれ食べていいよ〜」

「食べない。毒殺とかされたら困ります」

「え? じゃあボクが食べるよ? 毒入ってないっていう証明にもなるしねー」

「白雪姫はそれで死にました」

「アハハー」

 愛想の欠片すらない声で言われたら笑い流すしかない。つれない人だ、つまらない。

「さーてと。改めて初めましてー、レイン・ディアナイトクン。言ったけどボクはロゼッタ・イリンドーム。ゴッドハンターのお姫様で、今代のアリスハンター。アリス討伐のスペード部隊の隊長。よろしくねっ」

 レインの表情から後半を一言も理解していないことが分かった。

 仕方のないことだけれども気がすすまない。一言で言うならばめんどくさい。この上なくめんどくさい。

「……」

「あの?」

「…………………………。分かった分かった最初っから説明する」


 この世を創った十二人の神がいる。

 だが神は十三人存在した。

 一人はコスモス創造に参加せず、大御神の御心にも反したのでエデンの園を追放された。

 彼女の名はアリスと言う。

 アリスはコスモスと神々を憎んだ。

 アリスが次々と災いを起こすので、大御神は聖なる天使の軍隊を送り込んだ。

 だが、天使だけでは足りなかった。

 そこで大御神は一人の人間の男に目を留められた。

 サブジュ=ゲイトは快く御心に従った。

 ただし、アリスも兵を持っていたのでそう簡単には終わらなかった。

 サブジュ=ゲイトの子孫は代々聖戦を続けてきた。


 スクローラ聖書の序文を軽く要約して、淡々と読み上げた。

「……いえ、説明になってませんから。しかも僕は神とか、そういう類のものは一切信じてませんし」

「神はいるの~! 君も見たでしょぉ? 昨日のアレ、天使」

「は!?」


 サブジュ=ゲイトはアダムとイヴの時代の人だ。

 彼の子孫は御技により繁栄を続けた。

 今や世界中に彼の血が散っている。


「……天使どうのこうのはおいといてと……。つまり僕はその、サブジュ=ゲイトって人の遠い子孫てな訳ですか」

「わぁ、呑み込みが早いねー!」

 小馬鹿にしながらそう言ってみた。


 人は誰しも“夢”を持っている。

 “夢”というのは、心、気持ち、性格、記憶などを合わせたものだ。

 そしてサブジュ=ゲイトの子孫の“夢”には特徴がある。

 “夢”の“核”が有形なのだ。

 ”核”というのは“夢”の中心のことで、自分の中身の塊、象徴物と言った方が分かりやすいがそんなものだ。

 そして一般人の“核”は霧の様に形がない。


「……あえて質問しないことにします」

「そうそう、そーやって全てを呑み込んでいけば何とかなるよ~」

「……そして、その聖書とやらを要約して淡々と読むのやめてくれません?」

「えーめんどくさいー」

 それでもロゼッタは聖書を閉じた。


 でね、その“核”っていうのは通常石の形をしているんだー。さっきレインから取ったのがそうだよ。

 そしてそれらは武器になる。

 上手く扱えばダイヤモンドより硬く、下手すればトウフよりも脆くなるのー。

 ……え? トウフ?

 んー、ボクはあんまり好きじゃあないんだけど、日本のヘルシーフードなんだってさー。


 ボクは説明が下手だから、話があっちこっち飛んじゃうけどちゃんとついてきてね~。


 さっきも言ったけど、アリスにだって手下はいる。

 レインが昨日見たアレがそれ。

 そうだよ~、天使。

 正確に言うと、堕天使。

 ……え? 何言っちゃってんの? CG? そんな訳ないじゃん。

 とにかく、その堕天使はボクらゴッドハンターではない凡人の“夢”を喰うんだよぉ。

 ……“夢”をなくした人はしばらく生き人形になるんだけどね。その内また別の“夢”っていうか人格? が形成されるケースも少なくはないよ。


「なんでですか?」

「ぜーんぶ話すからって言わなかったっけ~? そしてその喋り方ムカツクからやめてくれないかなぁ?」

「スミマセン、癖です」

 最初敬語使ってなかったけど?

 つっこみたいのを我慢して、話を進める。

 

 その堕天使はね、トループって呼ばれてるんだー。

 トループにはレベルがあってね、七期まで進化するよー。レベルは目の色で判断するんだぁ~。

 一期。これが一番雑魚ね。目の色は黄色。

 二期。ちょっとずつ自身の特殊技を目覚めてきているからちょっと気を付けた方がいーかもー。目の色はオレンジ。

 三期。自分の使命を全うしようよしてもがいている頃だよ~。まだまだ弱いけど、このレベルは最期になって暴れ出すからね? 色は黄緑。

 四期。そろそろ特殊技が身に付いてきたかなーってぐらいだよぉ。目は緑色。

 五期。このレベルはかたまって行動したがるんだよ。その大群をレギオンっていうんだけどね。それなりに強くなってきてるから玄人でも苦戦するの~。目の色は紫。

 六期。強いよ、このレベル。ボクの部隊以外からでる死者とか瀕死の重傷者とかの三分の二はこいつらが原因なんだよねー。目は青。

 そして一番強い七期。これは数が限定されてるんだよ。ぴったり十二人まで。それ以下はあり得るけど、それ以上は絶対に無いんだってさあ。数年前に一匹倒したから、今は十一人か十二人に戻ったのか……、分からないけどね。そしてこのレベルの中で一番強い奴がいるんだって~。ボクは見たことないけどね、それが当然なんだけど。ここまでレベルアップするのに天文学的な数の“夢”を喰わないといけないのにスゴイよね~。あ、目の色は赤ね。


 ボクらゴッドハンターは、“夢”を武器として彼ら堕天使を狩る。

 アリスを止めないといけないの~。討伐すべき存在なんだよぉ。

 それが、ボクらの遠い先祖のサブジュ=ゲイトの血の契約だから。

 彼のDNAが欠片でも入っていたら、自然とここまで来るもんだよ? 自ら志願してくるサポーターもいるけどねー。

 そしてねっ、レインもボクらの仲間なんだよ!


 レインは黙っている。

 もしかしたら変な宗教の勧誘を受けているのかなと思っているのかもしれない。

 ロゼッタはさめた昼食を食べながら待った。

「あの……。僕よく分からなかったし、そういうの関係ないと思うんですよね」

「ふうん。だから?」

「帰ります。頭おかしくなりそうだし」

 その言葉にロゼッタは吹き出した。

「ッアハハ! 帰るのぉ~? そーれはちょっと駄目だし無理だなぁ」

 レインの表情は少し怒気を孕んでいた。

「何でですか? 犯罪の一種で訴えますよ?」

「へぇ? やれるものならやってみなよー。世界中のどーこにも、ボクら救世主を裁ける政府は存在しないよー?」

 それでか、とレインは納得した。

 広場や町中や教会で騒ぎがあっても、警察は来ないし新聞にも載らない。庶民の間で流行っている話題をとりあげる番組も、いくら投稿しても放送しない。

 全部全部、そのせいだったのだ。

 自然とムッツリとした顔になる。

「えー、そんなに怒んないでよー。恨むならボクでもここでもなくサブジュ=ゲイトを恨みなよ~」

 今や塵と化している人を恨んでもしょうがない。

 が、このロゼッタとかいう人達だけが悪いとも思えない。

 だいたいここに入り込んだのはレイン自身だ。故に責任は自分にある。

「一応聞いときますけど、貴女って何歳ですか?」

「うわぁ、レディに向かって年齢聞くなんて失礼ぃ」

「淑女よりもむしろ少女ですよ」

「……十四歳だよー。たぶんだけどねー」

 レインはちょっと驚いた。

 自分と同じ年代の少女が訳の分からない闘いに駆り出されているだなんて意外だった。

「あー、そうそう。レインにはここに住んでもらうからね」

「はっ!?」

 実は「え?」よりも「は?」の方が丁寧なのだそうだ。

 ロゼッタはきつい言い方するなーと思っているようだが、それが本当のことなので仕方がない。

「何言い出すんですかっ! 僕やっぱり帰ります!」

「だーかーらー、それは無理だって言ってるでしょ~?」

 急に立ち上がろうとするレインを押さえつけて、ロゼッタは諭すようにそう言った。

「どうして!」

「んー、確かにね、君が行こうが消えようがボクらにとっては大したことじゃあない。時が来ればまた来るからねー」

 じゃあいいじゃないですか! とレインは叫びかけた。

 が、その前にロゼッタが耳元でささやいたのだ。


『でもねー、レインと、レインのだぁーいじな人達が死んじゃうよぉ? 生き人形になっちゃうよ~?』


 まるで面白がっているような声。

 冷笑を浮かべたその口から、

 そんな脅し文句が出てきた。

 背筋にぞわっと悪寒が走る。

 ロゼッタはレインから身を離して、無垢な笑顔で


「記憶は消されたく無いでしょー? いろいろと厄介なことになっちゃうしねー」


 と言った。

 無垢な笑顔だからこそ怖い。

 この建物の内外、そして敷地の端である門から何層にもわたって強い結界が張られているのだという。

 ここに迷い込んだ一般人には、その力の片鱗がついてしまう。

 それを消す特別な薬があるのだが一般人は当然の如く使いたがらない。

 このオカルトめ!

 そう怒鳴られるのだ。

 もっともレインはそれが正常な反応だと思うのだが。

 結界とやらの力を消すのは難しい。

 薬は使えない。

 だから科学班と医療班の人、もしくはロゼッタの能力を使って、記憶を消す。

 力を残したままだとゴッドハンターと思われてトループに殺されてしまう。その人のまわりにいる人も危険にさらされる。

 だから記憶を消すのだ。

 それで力が消える。

 ここに来たことを忘れてしまえばいいのだ。何も覚えていないのだから、守護の結界は作用しない。

 完全に無関係な人に守護をかけても仕方がないだろう。


「ねぇ? 記憶がなくなるのは、怖いよね? 自分のメモリーに空白があるのは、恐怖だねぇ?」


 ロゼッタは口元に冷笑を浮かべた。

「じっ、じゃあ! 僕にもその薬とかを使えば!」

「んー、一般人はね、薬を使いたがらないし使えない。それを使うのにはハンターかサポーターであることを証明する物が必要なんだからさぁ。それにね、一般人には体力がない……、つまり凡人として生きてきたレインには使えないってこと~」

 クスクスと笑いながらロゼッタはそう言った。

 レインは呆然としている。

「…………。つまり、僕はその、神狩りにならないと外には出られない、と」

 ずるい。

 レインははめられた気がしてしかたがなかった。

 こんなのただの詐欺だ。

 だが、もちろんロゼッタにだって事情はある。

 ここは万年人員不足なのでこうでもしないとゴッドハンターは増えないのだ。

 自ら志願してくるのは代々ゴッドハンターをしてきた由緒正しい家系ぐらいしかない。

「……でも学校とか」

「えー? そんなの、どーでもいーでしょー?」

「! せっかく義父様(おとうさま)が出してくれたお金で入ったのに! レベルの高いところに入ったのに!」

 最後の一言が腹立たしい。

 叫んだレインをロゼッタは鼻で笑う。

「大丈夫だよー。もっとレベルの高いところに奨学金で入り直したーって言えばさぁ」

 そうなのだ、そこはどうってことない。問題として扱う方がおかしい。

「ヴェルスカーノ校長が、言ってくれるよ?」

「……?」

「だってここ、表向きは寄宿制のエリート校ってことになってるんだもん」

 ゴッドハンターの人員不足をなくすための努力をなめてはいけない。

 そのためになら、表にどんな名前でもつけるのだ。

 ロゼッタはおもしろくなりそうだと微笑んだ。


◆◆◆ † ◆◆◆


 どうだ? 上手くいってるか?

 はい。……ですが、どうしましょう。

 どうした。

 彼女の過去に出てきた人が現れました。

 ……あぁ、そうだな。

 知ってたんですか!? じゃあどうして……!

 彼女が思い出す訳ないじゃなか。

 そうですね……。

 機械の放つ淡い光だけが頼りの部屋の中で、黒い影しか見えないが何人かの人が会話していた。

 

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