7 INTRODUCTION~悲しみの前奏~(3)
外を見ると、鮮やかな緑の景色が見えた。
座っているのは、消音を徹底した車内の革張りのシートの上だった。
扉の手すりには木目が綺麗な模様を描いていた。
……ここはどこ? 前にもこんなこと、あった……かな。
車の中なのは分かるけどさ……。
後ろを振り向くと、走っている少女と目が合った。
いや、目が合ったかどうかは少女には分からないだろう。
バックミラーにうつった自分は、フードを深々と被っていたからだ。
「×××様、着きましたよ」
車は大きな屋敷の前に停まる。
助手席の扉が開いて、男性が出てきた。
フードのせいで顔が見えない。
自分の横のドアが開いて、その男性が手を差し伸べてきた。
「おいで」
無気力に体が動く。
……何で勝手に動いているの? これはボクじゃないの?
背丈が一緒になるように苅られた芝が両脇に伸びる土の道を、男性の後ろについて歩く。
「今日からここが君の――」
……はっ?
なんて言ってんのコイツ。
大きな扉が開いて、メイドが出てきた。
皆顔が見えない。
「おかえりなさいませ×××様」
名前がよく聞き取れない。
「あの……、×××様? こちらの……」
「ご令嬢のことか。道で行き倒れてたよ。仕事場の裏の」
行き倒れって……、そんなの。この時代の先進国でそんなことある訳ないでしょー。
「それなら、その……ご令嬢ではないと思いますけれど」
「……なら訂正しよう。今日からご令嬢だ。―――は、居るか?」
「ええ。今ご自室で読書をなさってます。お呼び致しましょうか?」
「いいんだ。自分で行く。その前に、ちょっとこの子に綺麗な服着させてあげて。体はその辺の店で洗えと言ったから綺麗だと思う」
「かしこまりました。従姉様のでよろしいですか?」
×××と呼ばれた人が頷いて、自分はそのメイドについていった。
どうしてボクが見ず知らずの人についていってるのかなぁ。
……あと、視界低い。
メイドはクロゼットから一着のワンピースを取り出した。
黒一色のみで装飾されたそれを無理矢理着せられる。
上を向かせて、メイドは
「……貴女も同じなのね。―――様も近所の子も……」
と、呟いた。
何が誰と同じって言ったこの人。
次に案内されたのは、広い部屋だった。
バルコニー付きの大きな窓、壁は真っ白で床には柔らかなカーペットが敷いてあった。
椅子に座っていた男の子が立ち上がる。
相変わらず顔が見えない。
「おかえりなさい父様。……うわ、何この子」
なんだか反応が酷いと思う。
「目が死んでるよね。何かあったんですか」
「あぁ、よく知らないがこの子はね…………」
少年の目が少し大きくなった、ように見えた。
今…………、何て………………。
どうして、それを……。お前ら、あいつらの仲間なの……?
「……父様が資金を出していた?」
「そうだ」
「ふぅん」
「……手伝いにするか?」
手伝いというのはたぶんメイドのことだろう。
少年は首を横に振った。
男性はそうかと言って、そのまま部屋を出ていった。
「本当はさ、君みたいな外来者はメイドにするんだけど……。可愛いからいいってことにする。僕は―――。君は?」
「………………、私は、」
景色、暗転。