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6 BLOODY X'MAS~血まみれのクリスマス~(4)

 雪が降っている。

 人が造り上げたものへ、灰色の空から自然の白い産物が落ちていく。

「わぁ寒い」

 窓から身を乗り出して、大粒の雪が静かに降り積もる中庭を眺める。

「落ちるぞロゼ」

「平気平気ぃ。こんなんじゃあ死なないって」

 ミキといつもと変わらない会話をしていると、コンコンとノック音がした。大きな箱を抱えたルーシーが入ってくる。後ろのシャンデットも同じような箱を持っていた。

「あ、手伝いましょうか?」

 ロゼッタ達と共にいながらも存在が空気と化していたレインが、相変わらずの暗い顔をしてシャンデットに近付いてそう言った。

「ん? 大丈夫だよ」

 ルーシーとシャンデットが箱を開けた。

 何の飾りもないその段ボールの中には、華やかな礼服が入っていた。

「あれ、皆違う色なんだー?」

 ロゼッタのとルーシーの色が違うのは仕方がないというか、嗜好趣味がまるっきりの正反対方向に伸びているので当然と言えばその通りだ。

 男子のは皆黒がベースだが、青や緑がかったものもあった。

「青はミキでしょ〜? これ昔からずっと着ているよねー」

「シャンデットは緑……。じゃあ、レイン君は黒なんだね」

 レインはうなずいて、その礼服を受け取った。

 女子と違ってややこしい準備はいらないため、男子側は後は着ればいいだけだ。

「じゃあ、ミキ達は隣行って?」

 覗き見したらルーシーに殺されるよ?

 と、付け加えると残りたがっていたシャンデットもそくさくと出ていった。

「ユーリ……は、来るの……?」

「来ないよぉ。向こう(・・・)にこ〜んな行事ないしね」

 ロゼッタはビニールに包まれたドレスを持ち上げた。

 はっきり言って、丈の長いスカートは好きではない。故にドレスはあんまり好きではない。

 こんな長い服のどこがいいんだかロゼッタには理解できない。動きづらいし重たいではないか。めんどくさいだけだ、着付けも脱ぐのも動くのも。

 ルーシーはフランスの貴族出身なので、幼少期は日常的にドレスじみた服を着ていたから馴れているのだそうだ。

「あれ、ルーシー、また赤にしたのぉ?」

「うん」

 肩丸出し、もっと言うなら胸元も見えるであろうドレスを受け取って、ルーシーは部屋の隅に移動した。よく見ると背中も大きく開いている。

「それ……、ルーシーの?」

「う、ううん……ママが送ってきてくれたの……」

 母親、かぁ……。

 ロゼッタは黙り込んで自分のを着始めた。


◆◆◆ † ◆◆◆


「ロゼが白黒以外の服着るのって、久しぶりだよなー」

 廊下を歩きながらシャンデットが言った。正装しているだけで、彼のイメージは全く変わっていない。

「そーだねー。でもこれ、いますぐに破りたいなぁ」

「やめとけよ。……それ破いたらいつもの服で行くつもりか?」

「ううん〜、団服で行くよーっ」

「……じゃあやめとけ。クリスマスに団服はないだろ」

 ロゼッタが今着てるのは、普段彼女が絶対に着ない色調の黄色のドレスだ。

 濃いめの黄色、どちらかというと明るいオレンジから、ロゼッタが嫌うパステルカラー系統に入るイエローまで多色を極めたグラデーションのドレスだ。

「へぇ……。いつもよりそっちの方が女の子らしくて可愛いですよね」

 苦笑してそんな皮肉ともとれる言葉を呟いたのはレインだ。

 子供のごっこ遊びとは言え、執事をしていただけあって正装がよく似合っていた。元からレインの顔立ちはきっちりした服が似合うものかもしれないが。

「うるさいなぁ。こんなのボクが好き好んで着るものじゃあないんだからさぁ、似合うって言われても嬉しくないんだよー」

 そうロゼッタが言うと、ミキは笑って我慢しろ、と言った。

 これ以上何か突っ込むとロゼッタが不機嫌になりかねないので、今度は皆でルーシーの装いの感想を言い始めた。

「俺の許嫁けなしたら許さないぞー」

 そう言ってシャンデットは皆を笑わせた。

「ヘネシアさんて、なんか僕達と同年代に見えませんよね」

「あー、そーだねぇ。ミキぐらいの歳だって言っても通用できるんじゃあないのかな〜?」

 ルーシーは照れか謙遜かで、首を横に振った。白い真珠のイヤリングが揺れて、頭の上につくられたお団子上に結い上げた髪が崩れそうになる。

 金持ちってずるいよね〜。

 そんなことを思いながら、ロゼッタはルーシーの髪を留めている金のリングを見上げた。

 まぁボクは、お金なんて欲しくないんだけどね。

 大広間のと扉を開けると、ロゼッタは感嘆の声をあげた。

 ミキも綺麗だなーと言っているが、ルーシーは馬鹿にしているようだ。

 そう言えば昨日、彼女はこんな安っぽい飾りなんてしょぼいわ、みたいなことを言っていたような気がする。

「先輩!」

 華やかなタイトドレスを着たシャオメイがかけてきた。

 前日の内にロゼッタとシャオメイはお揃いのツインテールにすることを決めていたので、二人は同じ髪型だ。

「先輩が黄色って……、見物デスネ」

 あははーと笑いながら、ロゼッタはそう軽口を叩いたシャオメイの鳩尾に軽くパンチを喰らわす。

 シャオメイが呻いている間に、ロゼッタは参加者を見回した。

 ハートのフローラ達三人と、名の知れぬハンターが十数名、サポーターがそれよりも少し多い程度で、科学班や医療班、エリックやカトリーヌもいた。

「きゃーっ、クイーン様綺麗!」

 けばけばしいショッキングピンクのドレスを着たキャシーが叫びに近い声を上げた。

 ロゼッタはその声に吹き出し、冷笑を浮かべた。

 三人とも色の濃さは違うもののピンクのドレスを着ている。どれも崩れかけのケーキに見えるのは気のせいではなさそうだ。

 どれもこれもとにかく甘い色か目が痛くなるような蛍光色か、その間かのどれかで、他の人はどうか知らないがロゼッタに相当の不快感を与えてくる。

「レイン君もかっこいいわぁ」

「シャンデットもかっこいいわよお」

 三人のあほらしい会話になんて興味はないので、レインにパーティーの説明をする。

 食事に始まりダンスで終わる。

 それが毎年の流れだ。アメリカなどの学校でするダンスパーティーとあまり変わらない内容のものだ。

「……あの、ダンスって。今の時代にダンス……ですか?」

「うーん。まぁここは、貴族の出が多いからね〜」

 そうなのだ。

 ハンターもサポーターも大半が貴族か、長く続く家の出なのだ。

「踊れなかったら壁の花決め込んどけばいいよぉ。どっちだって、ボクが引きずり出してやらせるんだけどね〜」

 冷笑して言った。

「…………言うと思いましたよ。……まだ時間ありますよね? ちょっと一つ、関係ないことなんですけど気になったことがあるんで質問いいですか? あの、サブジュ=ゲイトの血を引く一族は全員がハンターになるんですか? それにしては人が少ないような気がしますけど」

 レインがそう言い終わる前に、エリックが壇に立って挨拶を始めた。

 言っていることは毎年同じようなことなので聞き流す。

「ん〜? あぁ、そうじゃあないよー。神様はそんなに酷じゃあないからねぇ。何て言うのかなぁ。皆引いているんだけど、一家一代に一人から二人ぐらいに覚醒……っていうか、資格? つまりね、“夢の核”が有形になるんだぁ。遺伝子が覚醒しなかった人はサポーターとかになったりするのぉ。そうだね……、後は、サブジュ=ゲイトの血を引く者同士を引き合わせて覚醒しやすいようにしたりするところもあるよ。……その内の二つが、すぐそこにいるけど、レインは分かるよねぇ?」

「……ヘネシアさんとチェッカーさん?」

「そぉ。ルーシーのヘネシア家とチェッカー家が筆頭かなぁ。ルーシーとシャンデットのいとこは姓と所属している支部が違うだけで皆覚醒しているはずだよ〜。ヘネシアとチェッカーの血が入っていればね。……あ、でもカトリーヌは上級のサポーターだったねー。情報処理長だから。まっ、政略結婚ってやつだよ。あっ、そうだ。今までハンターにもサポーターにもなったことのない、こっちとは関わりのかたった人がいきなりハンターになることもあるよ」

 長々とした説明だった。

 そんな人を見つけ出すのは大変なんだけどねと、心の中で付け加える。

 エリックの挨拶はまだ——、いや、終わって今はハラードの嫌味ったらしい挨拶になっていた。

 ぶつくさと文句を言っている人も少なくはない。

「そうなんですか。だからヘネシアさんとチェッカーさんは許嫁と……」

「そーゆーこと! 幼い頃のシャンデットはそれが嫌だったみたいでねー。よくボクの所に来ては文句言ってたかなぁ」

「なんか、悲しい人生ですね」

 ロゼッタはレインを見上げた。

「どぉして?」

 真顔で尋ねてくるロゼッタに、わずかに目を見開いてレインは答えた。

「え……、そんなの、ただ利用されていくだけの人生だなんて……。ハンターとして酷使されて次は子作りがために利用されるのは…………、悲しくないですか?」

「そうかな〜? でも皆利用されているだけだもん。悲しくとも何ともないでしょー」

 ロゼッタの声のトーンが僅かに下がる。

 ジョーカーであるロゼッタのコインに彫られている茨にはちゃんとした意味がある。

 拘束のない彼らに、同情なんて感じられないのだ。

 前を見るとハラードのスピーチが終わったところだった。

 拍手しているのはわずか数人だけだった。アメリカ支部の人とハンターが二人、エリック達は死んだ目で手を叩いている。

 次は食事だ。

 今日は部屋の端に机が寄せられていて、立食式にされてある。

「たーくさん食べていいからねー。レイン最近まともに食べてないし」

「……はい」

 ミキに手を引かれて、シャオメイと共にロゼッタは最寄りのテーブルに向かった。

 別のテーブルでは、寄って集ってくるハートの人達を適当にあしらいながらレインが料理を選んでいる。

「……コルセットつけてくるんじゃなかった」

 ルーシーがボソッと呟いたのが聞こえて、発作的に殴りたくなった。

 何こいつ、ただの馬鹿?

 そんなことより、この時代に医療器具として扱われるコルセット以外にそういうものが存在しているということが意外だ。

 貴族の家には、まだそんな代物が残っているのだろうか。

 そう言えば、レインの持っている写真に写っていたフィリーアも胴だけが細かったような気もする。

 食事はいつも以上に豪華だった。

 盛りつけも綺麗だし、料理のレパートリーがとにかく多い。

 クリスマスで食べる伝統料理を自分の皿に取って、ロゼッタは皆と喋りながら食べた。







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