6 BLOODY X'MAS~血まみれのクリスマス~(3)
ロゼッタは太陽の光が苦手だ。
嫌いという訳ではないし、日中の活動は楽しいと思うが、どこか生理的に受け付けられないところがあるのだ。
そのせいもあって、ロゼッタは夜遅くまで起きている。
日光は嫌いだがそれを受けて輝く月光は嫌いではない。
黒い質素なワンピースに身を包んで、先程洗ったばかりの髪を拭きながら窓の向こうの月を眺める。
「ん?」
ふと視線を下に落とすと、小さな人影が見えた。
こんな時間に誰……?
月光に照らされて輝く白い髪を見て、ロゼッタは思わず息をのんだ。
静かに窓を開けるとそこから身を宙に放り投げる。廊下に出ていちいち階段を降りるのがめんどくさかったからだ。それにサポーターに遭遇したら何を言われるか分かったものではない。
普通の人間がやったら足が壊れるであろう高さから、下の茂みまで綺麗な弧を描いて落下する。
軽やかに着地して、音をたてずにその人影へ歩み寄った。
気配に気がついたのかその人は振り返ってこっちを見た。
逆光の中で真紅の瞳がロゼッタをとらえる。
「どうしたんですか?」
「それはこっちの台詞だよぉ。全く、ご飯も食べずに外にも出ないでこいつ死んじゃうのかなーって思ってたら、こーんな夜中に出ていたんだねぇ、レイン」
レインはハァと溜息を吐いて、地面に座った。
「なんでいつもイリンドームさんに見つかるんですかね」
「どうしてだろうねー。でも、エリックやミキに見つかるよりはマシでしょお? ……また逃げ出す気ぃ?」
あんなことがあったのだから、逃げ出そうとしても責める気はない。
「……そうしたくても行くあてがないですし」
ロゼッタはレインの横に腰掛けて、彼の顔を覗き込んだ。額の傷はもう消えていた。
「大丈夫なの?」
「……傷は治りましたけど……、いくらやっても剣が……」
レインは自分の膝に突っ伏した。
焦らなくてもいい。“夢の核”は心なのだから、ショックが癒えれば大丈夫だ。
そういうことをロゼッタは口にした。
「……そうなんですか?」
「嘘吐く理由あるー?」
レインは顔を上げた。まともに食事をとっていないせいでやつれて見える。
「…………」
自分の剣を取り出して、レインは復元しようとする。が、剣は出てきてもすぐに消えていく。
うわ、これ重症だなぁ。
刃が脆くなるのは分かるが、まさかここまでだとは思っていなかった。
感情の消えた死んだ目で、レインはぼんやると月を眺めている。
ロゼッタは突然手を伸ばして、レインを抱きしめた。深い意味はない。ただのスキンシップだ。
「………………」
「大丈夫だよぉ。レインは絶対元に戻る」
「……そんなの」
「ボクは期待なんかしない。だからレインが裏切ったとか、使い物にならないだとか、そーんなこと思わないから安心してー」
「……」
「言ったでしょ? 治るから今は焦らずに休んどきなよぉ。治っちゃったら忙しくなるからさぁ」
レインは弱々しく微笑んだ。
「だから、引きこもってないで出てきなよー。体が衰えちゃうよぉ?」
「……そう、ですね」
「ねぇ、クリスマスパーティーには来てくれるよね?」
帰る場所がないなら参加しろと思う。というか、してほしいのだ。
一年で一回のクリスマスなのだから、悲しんで過ごすなんてもったいない。救世主の誕生日を祝う日だ、誰が悲しみに沈んだ誕生を祝うものか。
それに……。
誰ともコミュニケーションをとらずに部屋にこもっていると本当に心が失われてしまう。
そんなことになれば、レインの体はアリスになりかねない。
「……え?」
「嫌って言っても来てもらうからね、これは隊長命令だよ」
レインはまた溜息を吐いた。だが今度は顔が笑っている――、浮かんでいるのは苦笑いだけれども。
「でも僕、正装持ってないんですけど」
「あぁ、そんなのどうでもいいことだよぉ。だってサポーターが皆の注文している真っ最中なんだから」
「……隊長命令は絶対ですからしょうがないですね」
その答えに、ロゼッタは満足そうに微笑んだ。
◆◆◆ † ◆◆◆
ヘェ……アノ子ナノカ……。
デモソレ確カナノ?
僕ハマダ不完全ダカラ自分デ行クコトハデキナインダヨ?
暗闇の中から声が響く。
「分かってます」
黒の中で浮く白を着た人が言った。
フウン……。君ガソンナニ言ウナラ確カナノカモネ。
マア僕ノ目ニモアノ子ニ見エタカラ当タッテルト思ウナア。
ダケド……。
「言わなくても私には分かります。無理なさらないでください」
アリガトウ。
デモアヤシイカラ、念ノタメ試シテミヨウネ。
君ナラデキルヨネ? 僕ノタメ二シテクレルヨネ?
……ソレジャア、ソコ二送リコンデ。
二、三体グライアレバ大丈夫ダカラサ。
ヨロシク。
「はい、かしこまりました、マスター」
そして、白い人はどこかに行ってしまった。