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6 BLOODY X'MAS~血まみれのクリスマス~(2)

 ネェ、ドコニ居ルノ?

 君ガ居ルコトハ分カッテルンダヨ。

 アソコニイルノ……? ソレトモ、昔ミタイニ汚イトコロニ住ンデイルノカイ?

 ……ソレハナイヨネ。

 ダッテ君ハ、アイツラニ連レテイカレタンダカラ。

 僕ハ君ヲ探シテイルンダヨ……?

 ドウシテ返事シテクレナイノカナ? モシカシテ、アノ事マダ怒ッテルノ?

 オ願イダカラ……、返事シテ…………。


◆◆◆ † ◆◆◆


 一年の中で一番好きな行事は何かと聞かれたら、クリスマスと答える。

 おいしいものが食べられるし、皆着飾って綺麗になるからだ。この日だけは、ブスでも綺麗になっていいかなと思ったりもする。

 ゴッドハンター本部では、クリスマスに盛大なパーティーをする。

 盛大とは言っても参加人数は少ない。何故なら休暇で家に帰る人が多いからだ。

 本来クリスマスというものは家族と共に過ごすべきものだ。だから人が少なくなっても文句は言えない。

 それでも一緒に過ごせない人達は準備を手伝ってくれる。

  毎年の恒例行事だ。派手に飾り、豪華な食事を並べ、皆で祝う。

 クリスマスはイエス・キリストの誕生を祝うものだ。二千年以上前の人の誕生日を祝うなんて変な気分だが、それでも楽しい。

「次ーっ」

 サポーターがハンターに命令できるのはこのシーズンしかない。

 サポーターの声に反応して、ロゼッタは手に持っていた飾り玉を上に上げた。

 クリスマスに味気ない装飾のままというのは良くないと、毎年毎年綺麗に飾り付けをするのだ。

 大広間の中央に運び込まれた大きなモミの木は、みるみる立派なツリーとなっていった。

「凄いですねー、アジア支部ではこんなことしないデスヨ。祝うなら正月ぐらいですかねぇ。私達にとってクリスマスは単なるイベントですカラ」

「正月?」

「ハッピーニューイヤーのことですよ先輩」

「へぇ~」

 一年間しまわれていた飾りを拭きながら、ロゼッタとシャオメイは喋っている。

 隊内に気楽に話せる女の子がいると楽しい。

「日本では着物っていうのを着たり、餅とかお節料理、蕎麦っていうのを食べたり、あと神社にお参りに行ったりするらしいんですよ。支部にいる日本人の藤原って人が言ってました」

「日本……」

 なんだか懐かしく感じる。

 ……なんでだろう?

「ジンジャって……、後オセチとかモチとかって何」

「神社ですカ? こっちでいう教会みたいなものですよ。こっちみたいにお祈りとかはしませんが……。神社っていうところは、神様をまつってるんです。私の国にもありますね。餅とお節は正月料理だって言ってました、藤原さんが。餅は米をついて作って、お節は……いろいろ入ってるそうですよ、エビとか黒豆とか。蕎麦って言うのは……麺、ですね。ラーメンみたいなのじゃなくて灰色しているんですよ、灰色。蕎麦っていう植物の実から作るんですよ」

「へぇ」

 世界は狭いようで広い。知らないことがたくさんある。

 世界一周だなんて今の時代なら金さえあればできるが、全てを知り尽くすのは無理だろう。命が何個あっても知り尽くす時間には足りない。

 日本文化について教えてもらったお礼に、ロゼッタはクリスマスの飾り付けの意味を喋った。例えばモミの木はドイツから来た風習で、その木の冬でも枯れない強い生命力を厳しい冬を絶え抜くための心の支えとしたこと、イルミネーションは森の木々の間から見える星をイメージしたもので、イエス・キリストが世にもたらした光を表しているだとか、そういったことだ。

「そんな由来があったんですか! 私全然知りませんデシタ。え、じゃあサンタクロースにも由来あるんですか?」

「え? あぁ、そぉだよー。……まさか知らない? ……そっかぁ。んーとね、諸説があるんだけど、ボクがしってるのはトルコのセント・ニコラウスって人の話かなぁ。そのおじさんの住んでいたところにさぁ、不憫な三姉妹がいたんだってー。それでニコラウスが煙突から金貨を投げ込んだら、たまたま暖炉に干してあった靴下の中に入って姉妹が喜んだから、だってさぁ」

 シャオメイは感心したように頷いた。

 二人の会話を邪魔しないようにとの配慮をしてくれていたらしいサポーターが、そこで指示を出した。

「イリンドーム様、次のをお願いします。リーさんのでもいいですよ」

 その言葉に従ってロゼッタが飾りを持ち上げたとき、近くをハラードが通った。

 忘れてたと、ロゼッタはチッと舌打ちした。

 イギリスとアメリカの文化は似ているから、アメリカ支部の人も何人かは来るんだった……。最悪だなぁ。

「ほう……。姫と呼ばれている奴が下っ端の仕事を……面白いですなぁ」

 ロゼッタの周りの空気が淀んだ。

 口元にいつもの冷笑を浮かべて、ロゼッタはハラードを冷たい目で見上げた。

「へぇ~、お前もここに来てたんだぁ。なんで~? ボクがいること知ってるのに、呼ばれてもいないのにどぉして来るのぉ? もしかして万年金欠のアメリカ支部じゃあパーティーすらもできないのかなぁ?」

 ハラードの顔が怒りに歪む。何故かシャオメイが身構えた。

「そんなのではない! 我らにはしないといけないことがあるからだ!」

「へぇ~?」

 くすくすと笑いながら、ロゼッタは挑発を繰り返す。

 ハラードは大嫌いだ。大嫌いな人間が無様にもがく姿は、面白い。

「今に見ていろ貴様なんて捻り潰してくれるわ!」

「そーんな台詞吐く人、まだいたんだあ」

 彼の額に青白い血管が浮き出た。

「黙れ! 貴様なんかあの事件(・・・・)で死んでおけばよかったんだこのさ……」

「やめろッ!」

「やめて下さいっ!」

 シャオメイと誰かが叫んだ。

 ミキの声だ。

 瞳孔が開きかけた殺気丸出しの目でミキはハラードを睨みつけている。

 その手には一丁のリボルバーが握られていて、銃口はハラードの首筋を狙っていた。

「あなたは本部内の規約に触れた。ヴェルスカーノ司令長がお呼びだ、さっさと行け冗談抜きで撃つからな」

 ハラードは冷や汗を流しながらも抵抗を見せる。

 自分は支部の者だからそんな規約など知らないし従わなくてもいいと言ったのた。

 その次の瞬間、ハラードは数メートル先の床に転がった。

 ミキが片足を上げてそんな支部長の様子を冷たく眺めている。どうやらハラードはミキに蹴り飛ばされたらしい。

「司令長は教団で一番偉い存在だ。それに逆らうのは支部もサポーターも関係ない。反逆者と見なすぞ」

 大人間にいた全員が黙って二人を見る。

 珍しい構図だ。今までミキはハラードに汚い言葉を浴びせることぐらいはしたが、自ら手を出すことはしなかったのだ。せいぜいして銃を向けた脅し程度だ。

 そのミキが、ハラードを蹴り飛ばした。

 ロゼッタは隣のシャオメイを突いた。

「ねぇ、どうしてミキはあんなに怒ってるの?」

「よく分かりませんけど……。私も一応規約は知ってるので……。支部長が違反したから怒ってるのでは? ほら、ミキさん約束は守る人じゃあないですか」

「規約って~?」

「詳しくは分かりませんケド、皆のトラウマか何かでしょうかね? あの事件云々とかいうものなので」

「何それ」

「アハハ言ったら私も違反者になっちゃいマス」

 シャオメイは三年前に入ってきた。七年前からここにいるロゼッタが知らない規約を知っているのは真面目であることの象徴なのだろうか。だがロゼッタは九歳までの記憶があやふやなので、もしかしたらその規約とやらを聞いたことがあるのかもしれない。

「反逆者なら……そこに……」

「やめて下さいハラード・スミス支部長。クビにしますよ」

 ハラードを遮ったのはミキではなく、エリックだった。

 隣に息を切らしたサポーターがいるので、そいつが呼びに行ったのだろう。

 ハラードはむっとしたようだが、逆いようがないので仕方なしにエリックについていった。

 去り際にロゼッタを睨みつけ、痛い目にあわせてくれたミキに舌打ちして、ハラードは歩いていく。

 大広間から出ていく彼らを見送りながら、ロゼッタは胸騒ぎを覚えた。



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