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第四話 奪われた智

 大地が、裂けるように揺れた。




 巨大な刃が振り下ろされる。




 その一撃は、ただ重いだけではない。


 荒々しく、制御を失い、周囲すべてを巻き込む力だった。




「散れ!」




 犬川荘助の声。




 三人は即座に左右へ跳ぶ。




 遅れていたら、終わっていた。




「……なんだあれ」




 犬塚信乃が息を吐く。




「あんな振り方、まともじゃない」




「ああ」




 犬山道節が短く応じる。




「技ではない。ただの破壊だ」




 その中心に立つ男――




 “智”の珠を持つ者は、荒い呼吸を繰り返していた。


挿絵(By みてみん)


 目は濁り、焦点が合っていない。




 理性は、ほとんど残っていないように見える。




「……あれが、本来の姿だとは思えないな」




 荘助が言う。




「珠に、何かされているのか」




「いや」




 道節は首を振った。




「逆だ」




「……?」




「珠に飲まれている」




 その言葉に、信乃の表情が変わる。




「……飲まれる?」




「力を制御できなければ、そうなる」




 道節の視線は鋭い。




「“智”は本来、冷静さと判断の徳」




「だが、あれは違う」




「理性を失い、力だけが暴走している」




 信乃は、ゆっくりと刀を構えた。




「……じゃあ、やることは一つだな」




「ああ」




 荘助も槍を構える。




「止める」




「そして、取り戻す」




 次の瞬間。




 三人が同時に動いた。




 信乃が正面から斬り込む。




 だが――




 弾かれる。




 圧倒的な力。




「……っ!」




 腕が痺れる。




 だが、その一瞬。




 荘助の槍が横から突き込まれる。




 狙いは、急所ではない。




 動きを止めるための一撃。




 しかし――




 通らない。




 筋肉の壁に阻まれる。




「硬い……!」




 その時。




 上から影が落ちる。




 道節だ。




「そこだ!」




 鋭い一撃が、男の肩を切り裂く。




 血が飛ぶ。




 だが――




 止まらない。




 むしろ、笑った。




「はは……ははは……!」




 狂気。




 完全な狂気。




「……だめだな」




 道節が低く言う。




「このままでは届かない」




「……じゃあどうする」




 信乃が問う。




 その時だった。




 風が、変わった。




 静かに。




 だが、確かに。




 空気が張り詰める。




「……来るぞ」




 荘助が呟く。




 男の動きが止まった。




 ゆっくりと、こちらを見る。




 そして――




 珠が、強く光った。




「……っ!」




 次の瞬間。




 突進。




 速い。




 先ほどまでとは別次元の速度。




「信乃!」




「分かってる!」




 信乃は、真正面から踏み込んだ。




 逃げない。




 受けない。




 斬る。




 その一撃に、すべてを乗せる。




 だが――




 ぶつかる直前。




 男の目が、わずかに揺れた。




「……!」




 信乃は見逃さなかった。




 ほんの一瞬。




 理性の光。




 まだ、残っている。




「……戻れ!」




 叫ぶ。




 届くかどうか分からない。




 だが、叫ばずにはいられなかった。




「お前の珠は――そんなもんじゃないだろ!」




 刃が交わる。




 衝撃。




 だが――




 止まった。




 男の動きが、完全に止まる。




 その目が、信乃を見ていた。




「……俺は」




 かすれた声。




「……何を……」

「……俺は、誰を傷つけた……?」




 その瞬間。




 珠が、砕けるように光った。




 そして――




 静かに、収まる。




 力が抜ける。




 男の体が崩れ落ちた。




「……終わったか」




 荘助が息を吐く。




 信乃は、ゆっくりと近づく。




 男は、意識を取り戻していた。




「……お前は」




 信乃が言う。




「誰だ」




 男は、しばらく黙っていた。




 そして、ぽつりと答える。




「……犬田小文吾」




 その名を、静かに名乗る。




 胸元の珠が、今は穏やかに光っている。




「……迷っていた」




 小文吾は言った。




「力に、飲まれていた」




 信乃は、手を差し出す。




「戻ってこれた」




「それでいい」




 小文吾は、その手を見る。




 そして――




 ゆっくりと、握った。




 その瞬間。




 四つの珠が、淡く光を放つ。


挿絵(By みてみん)


 共鳴。




 繋がり。




「……四人目だな」




 道節が言う。




「ああ」




 荘助が頷く。




 信乃は、少しだけ笑った。




「まだ半分か」




「先は長いな」




 小文吾も、わずかに笑う。




 だが、その目はしっかりしている。




 もう、迷いはない。




 四人は、並んで立つ。




 それぞれの徳を胸に。




 それぞれの運命を背負って。




 風が吹いた。




 その風は、どこか――




 導くように感じられた。



――だが、その導きが正しいものかは、まだ、分からない。


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