第六話 魔使家のご令嬢
今更ですがこの作品には架空の地名が存在します
薔薇との戦いから2日がたった。
俺たちは薔薇との戦いの後、事件を捜査していた魔術組合の人たちに事情聴取を受けていたため、1日休んでいたが、今日からまた学校に行くことになった。
魔使さんと話しながら学校へと向かう。
「それにしてもあなたいったいどういう体をしてるの?
いくら身体能力を強化してるとはいえ垂直の壁を登っていなかった?」
魔使さんに薔薇のブレス攻撃を止めるときに間界の住宅を駆け上って跳び上がった時のことを聞かれる。
「そうですね。こう……少し出っ張ってる所を踏んでいく感じで跳び上がりましたね。魔術師ならみんなできるとかじゃないんですか?」
俺が逆に質問し返すと魔使さんは呆れながら答える。
「あのねぇ、魔術師だからってみんなそんな化け物みたいな身体能力になるわけないでしょ。まぁ、それ以前に魔使家は他の魔術師よりも身体強化の倍率が低いけども」
どうやら魔使家は身体強化があまり得意でないらしい。
やはり、【使役】魔術によって魔獣と契約できる分、他のことは苦手なんだろうか?
そんな風に考えていると学校に着いたのでそれぞれの教室に行き、授業を受ける。
先生が教室に入ってきて話しだす。
「お〜しお前ら席に着いたな。それじゃあ授業を始めるぞー。明日は日曜日だ、その後は月曜から3日間中間テストだからな、ちゃんと勉強するんだぞー」
先生の言葉を聞き、俺は固まる。
今日の日付は5月15日、そう、高校生は学年初めの中間テストが始まる時期だ。
午前の授業が終わり、放課後になる。
俺は中間テストのことをすっかり忘れていた。
いや、正確に言うと知らなかったのだ。
俺は黒峰刀也の記憶は断片的にしか持っていない。
そのため、中間テストがあることも知らなかったのだ。
教室を見渡せばすぐにわかっていただろうが何分、決議のことなどで頭がいっぱいだったので気づかなかったのだ。
腐っても俺は大学生、大抵の問題は分かるのだが問題なのは数学と理科だ。幸いにも黒峰刀也は俺と同じ文系だったようで国社英は大丈夫だ。だが、数学と理科、とりわけ、
数学がまずい、解の公式ってなんだったっけというレベルである。
なので俺は潔くお願いすることにする。
放課後、いつも通りに間界で訓練している時に魔使さんにお願いする。
「魔使さん、俺に勉強を教えてください!」
「えっ、勉強?まぁ、いいけど」
魔使さんは唐突なお願いに少し困惑した様子だが、
すぐに承諾してくれる。
その後、魔使さんにどこができないのかを聞かれ、
数学と理科、特に数学ができないのだと答える。
「数学と理科ね。それなら私で教えられるわ。計画を立てるから、少し一人で特訓していてくれるかしら」
魔使さんの言葉に俺は聞き返す。
「えっ?間界で一人になっても大丈夫なんですか?」
俺の質問に魔使さんが答える。
「近くの魔獣はあなたが一掃したし、私だって魔術師なのよ、仮に魔獣に襲われてもあなたが来るまでの時間稼ぎくらいはできるわ」
「そっ、そうですか」
魔使さんの言葉を信じ、俺は一人で訓練を続けることにする。
一人になった魔使優奈は早速、勉強計画を立てることにした。
その時、ふとあたりを見回すと死にかけの魔獣と目が合う。
先程、黒峰刀也によって深手を負わされた魔獣だ。
すでに立ち上がる力すらなく、もう数十秒もすれば
息絶えるだろう。
そんな魔獣に魔使優奈は近づき、手をかざす。
「私、魔使優奈は汝と契約を結び、汝の主となる。
汝、我に従うか?」
それは【使役】魔術の契約、名の無い相手に対する契約の魔術だった。
光が魔獣と魔使を包み、魔獣に黒峰刀也に刻まれた印と同じものが刻まれようとする。
しかし、その瞬間、魔使優奈の脳裏に幼き時分の初契約の記憶が浮かび上がる。
周囲の期待の視線、できて当然という空気、その空気が
魔使優奈の喉を締め付け、手を振るわせる。
そして契約に失敗し、魔術師として、父として尊敬する相手から失望の一言を放たれる。
「お前は……違ったか」
「はっ‼︎」
そこまでの回想を終えた直後、契約は失敗し、刻まれかけていた印は消える。
過呼吸気味になっていた呼吸を整え、落ち着く。
「……やっぱり、だめなのね。彼と契約できた今ならと思ったのだけど」
魔使優奈はそう呟く。すでに魔獣は息絶え、魔石と化している。
「彼の勉強計画を立てないと」
魔使優奈は意識を切り替え、勉強の計画を立てることにした。
俺たちは訓練を終え、俺の家に帰っている途中だった。
時間は夕方の終わりといったころ。
空は茜色から黒色に変わろうとしていた。
夕方ではあるがすでに道行く人はおらず、俺たちだけが歩いていた。
そんな中俺たちの前に人影が現れる。
その人影が俺たちに話しかける。
「お久しぶりでございます、お嬢様」
その人影は初老の男性で執事服のようなものを着ている。
まさに執事といった風情の男はどうやら魔使さんに話しかけたようだ。
「久しぶりと言ってもたった数日でしょう?」
魔使さんが執事服の男に答える。
「いえいえ、私としましてはお嬢様に
何かあったらと思うと気が気ではなく、たった数日でも久しぶりに感じるのです」
この執事服の男は魔使さんの知り合いのようだ。
「あの、魔使さん、この人は?」
俺の質問に魔使さんではなく男が答える。
「おや、申し遅れました。私、魔使家において執事を務めさせていただいております、魔使侍郎と申します。魔使と言っても分家の執事でございますが以後お見知りおきを」
魔使侍郎と名乗った男は慇懃に礼をする。
自己紹介を終えた魔使侍郎は話の続きを魔使さんに話す。
「お嬢様は未だ決議に参加しているご様子、旦那様が大変心配されております。至急、お戻りください」
魔使侍郎の言葉を聞いて、魔使さんは苦い顔をする。
……なぜだろう、魔使侍郎の言葉には何か違和感がある。
魔使さんを心配してるはずなのに、それだけではないような……。
「どうせまた、決議に参加するなとか、危ないことをするなとか言うんでしょ。悪いけど私、屋敷に戻らないわ。私は決議に参加して、優勝することでお父様に私の力を認めさせてみせる」
魔使さんは普段とは違い、少しムキになっている様だ。
魔使さんに聞きたいこともあるので俺もひとまず、魔使さんに加勢することにする。
「魔使さんもこう言っていることですし、今日はひとまずお開きにして、また後日ということにしてはどうでしょう」
俺がそう言うと、魔使侍郎が俺に答える。
「あなたは確か黒峰刀也殿でしたね。候補者の一人である術木薔薇を倒した魔術師。失礼ですがこれは魔使家の話です、お嬢様と仲良くしていただけるの嬉しいですが今は口出しされぬようお願いします」
「俺のことを知っているんですか⁉︎」
俺が驚きつつ質問すると、魔使侍郎が答える。
「えぇ、術木薔薇は魔術犯罪者でもありますから、お二人の戦いは組合に記録されていますので立場のある方であれば確認できるのです」
なぜ俺のことを知っているのか疑問だったが、どうやらそういうことらしい。
だが、もっと不思議なことがある。
「あの……、俺が薔薇を倒したって言いましたけど、あの場には魔使さんもいましたよね、同じ候補者なら普通、魔使さんが倒したとは思わないんですか?」
一応組合の事情聴取を受けた時に自分が魔使さんの使い魔になったことも話している。聞き取りをした人もかなり半信半疑の様子だったが記録されているはずだ。
なのに先程から魔使侍郎は何故か魔使さんが何の力も持たない、ただの人の様に話すのが気になる。
「はて?お嬢様は使い魔を持っていません、魔使家の魔術師において、使い魔を持っておらぬということはただ人とということになります。なぜ候補者に選ばれたのかはわかりませんがそれでは記録に残されることもないでしょう。せいぜいが魔術を知っている一般人という扱いです」
あぁ、そうか、この人の言葉の違和感が今わかった。
この人は魔使さんを心配しているが、それは魔術師であっても危険な目にあってほしくないという過保護ゆえの
言葉じゃない。ただ純粋に赤子の様な保護する対象として見ているからなんだ。
使い魔を持っていないと言われた魔使さんが抗議をする。
「私はもう使い魔を手に入れたわ!黒峰くんが私の使い魔になったの」
それを聞いた魔使侍郎は数秒、ポカンとした表情をした後、呆れたような目をする。
「お嬢様、私は執事として旦那様に仕える傍ら、お嬢様の教育係も務めてきました、私はそんな嘘をつく人に育てた覚えはありませぬぞ」
魔使家の者としても人を使い魔にするというのは相当なイレギュラーなようで、全く信じていないようだ。
そんな魔使侍郎に俺は反論する。
「いえ、魔使さんが言っていることは本当です。これがその証拠です」
そう言って俺は右手に魔力を込める。
すると、右手にあの日刻まれた印が浮かび上がる。
「そっ、それは‼︎使い魔の印⁉︎馬鹿なっ⁉︎本当に使い魔になったと言うのですか⁉︎」
使い魔の印を見た魔使侍郎はかなり驚いている。
少しすると魔使侍郎は落ち着き、話し始める。
「なるほど、なぜお嬢様があの場にいたのかが謎でしたが黒峰殿がお嬢様の使い魔になったからでしたか。
……私としましてもできればお嬢様に魔使家を継いでほしいと願っておりました。ですが今までのお嬢様には使い魔がおりませんでした。しかし、黒峰殿がお嬢様の使い魔になってくれました。ならば、旦那様にその力を認めさせることができるのならば可能性はあります」
魔使さんは決議に参加して生き残ることで父親に自分の力を認めさせようとしていたみたいだが魔使侍郎は直接魔使さんの父親に力を認めさせなければ魔使さんのことを認めてくれないと考えているようだ。
続けて魔使侍郎が話す。
「なので、明日あたりに魔使家の屋敷にお越しください。私からも旦那様に話を通しておきますので」
そう言って魔使侍郎は去ろうとするが、立ち止まって少し考えた後話しだす。
「おそらく旦那様はその力が本物か戦うことで見極めようとするでしょう。故に最低限、旦那様と戦う力があるか不肖この私が確かめさせていただきます」
魔使侍郎から殺気のようなものが出る。
俺は即座に臨戦体制をとる。
魔使侍郎が右手を突き出す。
「行きなさい、シャドー」
魔使侍郎が言葉を発した途端、背後に気配がして、俺は振り返りながら後ろに斬りかかる。
俺の背後にいたのは黒いモヤが人の形を成したような存在で剣のような形をした腕が先程の俺の攻撃で切り飛ばされている。
俺と魔使さんは距離をとり、魔使侍郎に叫ぶ。
「おいあんた!ここは間界じゃないんだぞ!一般人を巻き込む気か⁉︎」
周囲に人気は無いとはいえ、いつ一般人が来るか分からない。そんな場所で戦いだす魔使侍郎が正気とは思えなかった。
そんな俺たちに対し、魔使侍郎は落ち着いて話す。
「ご安心ください。あなたたちに話しかけた時から周囲には人避けの結界を張ってあります。魔術師や強い目的意識のある者には効果のない簡単な魔術でございますが一般人が巻き込まれることはないでしょう」
どうやら対策はしてあるらしい。とはいえ、あまり長引くと誰かが巻き込まれるかもしれない。なので、急いで決着をつけることにする。
「魔使さん‼︎」
俺は魔使さんの方を見ながら声をかける。
魔使さんは俺の意思を汲み取り、【瞬間強化】をかける。
俺は影のような魔獣に高速で突っ込んでいく。
その時、魔使侍郎が話しだす。
「シャドーは影と同化している魔獣。故に神出鬼没、変幻自在」
気づいた時にはシャドーは消えて、背後に気配がする。
「ッ‼︎」
俺は驚きつつも後ろを攻撃する。
シャドーは片腕を切り飛ばされたが、もう片方の腕で攻撃してくる。
瞬間強化中なのでギリギリで攻撃を避け、さらに一撃を加える。
「◾️◾️◾️⁉︎」
言葉とも鳴き声とも判別のつかない音を出しながらシャドーは後退する。
その後シャドーは魔使侍郎の影の中に消えていってしまった。
魔使侍郎が小さく拍手しながら話しだす。
「さすがの戦いでございました。私一人では相手になりませんね。これならば、旦那様相手でも可能性はございましょう。それでは明日、屋敷にてお待ちしております」
そう言って魔使侍郎はシャドーのように影の中に消えた。
魔使さんがため息をついた後俺に話しかける。
「ハァ、ごめんね黒峰くん。私の事情に巻き込んじゃって、明日、私と一緒に屋敷に来てくれる?」
魔使さんの質問に俺は答える。
「大丈夫ですよ魔使さん。俺は魔使さんの使い魔なんですからどこへだってついていきますよ」
俺たちの出会いはゲームとして必然の仕組まれたものかもしれない。
それでも、共に暮らし、戦った今となっては魔使さんの使い魔として彼女を支えたいと思っている。
この気持ちは彼女がこのゲームのヒロインだからとか、俺がこのゲームの主人公だから生まれたものなんかじゃないだろう。正真正銘、俺の気持ちのはずだ。
そんな俺の言葉を聞いて魔使さんが呟く。
「……あなたは少し優しすぎるわ」
魔使さんの言葉の意味がわからず聞き返す。
「そうですかね?」
魔使さんは少し呆れながら歩きだす。
「もういいわ、いきましょう。明日に備えなくちゃ」
俺たちは明日に備え、休むことにした。




